エッセイ16:基礎教育は企業全体の質を高めるための戦術

投稿日:2012年5月11日

※ 今回のエッセイは、5年前のゴールデンウィークに書きあげたものです。そのまま掲載させて頂きます。

 出張の移動には、もっぱら公共交通機関を利用しております。時間管理が容易で正確なこと、そしてリスクマネジメント対策のためにそうしているのです。
 “時は金なり”の視点で、JR新幹線をよく利用させて頂きます。思いがけず知人、友人と再会することがあります。予期していませんから、最高にラッキーな気分にしてくれます。
 先日、6年半ぶりにJ君と同じ車輌に乗り合わせ、約40分間コミュニケーションの時間を持つことができました。ある企業の人事教育責任者として、平成元年4月入社の新卒新入社員として採用をしたのがJ君でした。あれから17年経過していますから、彼ももう40才になりました。当時の私の年齢と、ほぼ変わりありません。
 結局、一番咲いた話は、新入社員研修での出来事や学んだこと、私が退職する時の彼らが企画してくれた送別会で皆に問いかけた私の提言内容のことでした。責任ある仕事について、理想と現実のギャップに翻弄されながらも、健全な考え方を持ち続けていることに、心底嬉しくなりました。何よりも、入社した時と同じ爽やかな表情が、何よりのプレゼントとなりました。そして、改めて基礎教育の中身の重要性を再確認したのでした。
 そこで、今回のつぶやきは、基礎教育の一考察です。

基礎教育は企業全体の質を高めるための戦術

 ここで取りあげる基礎教育とは、以下のようなケースを指す。
 新入社員の入社導入研修や、新しい仕事へ異動になったり、新しい職位に任命された時に行なわれる研修のことをいう。例えば、新任マネジャー研修、新任課長(部長、役員)研修、新任営業担当者研修などのような呼び方をされる研修を想定して頂きたい。

 先ず、現実問題として、上記のような基礎教育がどれだけやられているのだろうか?
 内容や日数は別として、新入社員導入研修以外は放任的なOJTと自己啓発任せというのが現実と思われる。
 何故、そのような実態なのか?
 簡単である。運営できる人材とノウハウを持ち合わせていないことが、最大の要因ではないかと想像がつく。必要性を感じてはいるのだが、“どうやったらいいのかわかりません”ということでしょうか。外部研修に派遣している企業様がいらっしゃいましたら、それはもうご立派の一言につきますが、結局は付け焼刃のような気がしてならない。
 もう一つは、“そんなことに時間と費用を投下する余裕なんてない”“本人のやる気次第だ。放っておいてもどうにかなるよ”というような、現実的といおうか無責任な発言である。

 さて、今回特に申しあげたいことは、基礎教育の効用は何かということである。
 私の見解は、「企業全体の質を底上げして高めてくれる」ということである。チームスポーツで言えば、「選手層を厚くする」ということと同じである。その結果、企業の永続的発展の土台が、知らず知らずのうちに構築されていくのである。

 新入社員の場合だと、就業規則に始まって、企業理念・行動指針などの考え方の土台になるものから、マナーや職務遂行に必要な仕事の進め方の基本などが主要カリキュラムになる。入社初日から、現場主義OJTと称して現場に配属されたら、どうなるであろうか。基本を正確に教える事ができる上司がいて育成計画なるものがあればいいが、最初から現場配属の企業では不可能なのが実状であろう。
 部下を持つようになれば、“マネジメントとは何か”、“リーダーシップとは”、“管理者の任務と職務”、“OJTのあり方・すすめ方”など、マネジャー・課長・部長職を遂行するための基礎を知らなければ務まらない。

 新入社員や初任者には、“不安解消”と“自己動機づけ&自己確信の意欲促進”のために、基礎教育を実施することは、当たり前の企業の責務である。そうすれば、当面どのような目標を描いて任務を全うすればいいのか、自ずと判断できるようになる。“急がば回れ”なのである。時間が無いことを理由に、基礎教育を省いている企業は、いつまで経っても社員の質の向上を図れないでいることになる。
 基礎教育をしっかりと実施している企業は、人材育成が日常の仕事を通して当たり前に行なわれている。基礎教育を疎かにしている企業は、基本的な職務遂行能力が身についていなかったり、基本が何かも知らない社員が多いようだ。
 基礎教育は、まさに、企業全体の質を高める戦術なのである。

                            (2007.5.5記)

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