エッセイ8:私の提唱する「教育活動の基本原則」

投稿日:2012年1月15日

 前回のエッセイと対になります、もう一つのバイブルをご紹介させて頂きます。

この「教育活動の基本原則」は、企業内教育を企画・運営・推進する時の指針の必要性を感じてまとめたものです。

 全10章の基本原則は、企画・計画・運営する時の具体的な意思決定基準や行動指針となるものです。企業内教育に散見する“総論賛成、各論反対”の歯止めとしての役割をも担ってくれるものでもあります。やって良いこと、やるべきこと、やらなければならないこと、絶対にやってはいけないことを、明確に示したものです。「教育の基本理念」ともに、人材育成のもう一本の柱として位置づけております。

 何年経っても、「人は考えた通りの人間になる」というジェームズ・アレンの言葉を心に貼りつけて、日々努力してまいります。

私の提唱する「教育活動の基本原則」 

●基本原則1『会社・各組織の教育方針・教育計画と社員一人ひとりの個別育成計画を、できる限り合致させること』:目標による管理

  P・F・ドラッガー氏をご存知ない経営者・管理者はいらっしゃらないと思います。日本の企業経営に多大な影響を及ぼし、“経営の神様”とか“マネジメントの父”といわれた経営学の第一人者でした。

  そのドラッガー氏は、このように言われたそうです。「経営に哲学があるとすれば、それは“目標と自己統制によるマネジメント”である」と。“目標と自己統制によるマネジメント”は、通称、“目標による管理(マネジメント)”とか“目標管理”と呼ばれております。

  仕事の進め方の基本は、“目標による管理”を土台にして、PDCAサイクルをスパイラル状に回していくことです。人材育成も“目標による管理”に包括して進めていくことです。これは、基本原則6を実現するためのスタートラインなのです。

●基本原則2『現場に適合した教育を、自力で実施すること』:現場密着型教育・研修企画検討表

  社員の育成・教育を他人任せにしたら、一体どうなるでしょう。全てアウトソーシングで良いのでしょうか。それは、社員の育成責任の放棄であり、経営資源の浪費につながります。

  自社の社員を自力で育てられない企業に、“明日はある”のでしょうか。否、無いと思います。

  もう一つ、教育は机上論で運営できません。各現場の個別の原因や事情に適合した内容でなければ、成果に結びつかないのは当然のことです。成果に結びつかないことに対して、人間は一所懸命になれるわけがありません。

  そうならないために、“研修企画(or教育企画)検討表”を使って、十分な実態解明が必須となります。教育手法は、実態解明後の検討テーマになります。現場密着型教育を、方針&目標&計画無しの現場任せの放任主義と勘違いしている方が、思った以上に多いのが実状のような気がしてなりません。そのやり方は、OJTとは言いません。OJTの理解不足・認識不足です。

●基本原則3『いま必要な教育を優先的に行なうこと。やる必要のない教育を、わざわざ行なってはいけない』:教育ニーズを明確に(研修企画検討表)

  研修・セミナーでもOJTでも、実施することが目的であってはいけません。開催して自己満足しているケースです。成果が得られないばかりではなく、時間の浪費、費用の無駄遣い、やる気の喪失・・・、悪いことだらけです。

  研修企画は、問題解決の基本手順に則り、研修企画検討表を活用して、事実に基づいた検討を、しっかり行うことが肝要です。ルールを決めて、関係者全員に徹底するだけで済むことだってあります。仕事同様、企業内教育も緊急度と優先度を明確にして推進するものです。「時は金なり」なのです。このことが分かっていない教育担当者や管理者には、喝!ということになります。

●基本原則4『教育は人事機能の一つである。だから、人事制度全般と連動させて企画運営すること』:人事と教育の一元化、キャリアプラン・キャリアパス

  人材育成の推進には、企業全体の業務内容と各組織の関連を理解しておくことが必須条件となります。そうしませんと、教育だけが一人歩きして、直ぐに壁にぶつかってしまいます。

  人事制度も教育制度も、人的資源の革新を通して、企業理念を具現化するためのものです。人事機能の鳥瞰図を描いてみましょう。全体が見えてきます。企業内教育の企画は、そこからがスタートとなります。一人ひとりのキャリアプランとキャリアパスが、個別育成計画の柱になってきます。

●基本原則5『仕事そのものが育成の教材である。だから、教育の推進テーマ・内容は、各職場の各仕事を通じて実施すること、させること』:OJT・OJLを日々始終

  育成のテーマは、日々の仕事そのものであり、日々の出来事そのものだ、ということです。考え方の詳細は、「採用担当者つぶやきエッセイ第6回」をご覧頂きたいと存じます。

  育成の推進責任者は、部下を持つ管理者一人ひとりです。人材育成は、管理者の主要任務の一つなのです。使命感を持って対処するしかありません。部下の不具合に気づいたら、即、その場でOJTです。後でまとめて注意するのは、ご法度です。

  最悪なのは、部下に関心がなくて、その不具合に気づかないことです。気づこうとしないことです。そんな管理者は、自分からその職を降りて頂きたい。部下が迷惑します。部下は、上司を選べないのです。

●基本原則6『受講者には、学んだことを活用する機会を作ること、作らせること』(活用のない教育は、無意味・無価値・無駄になってしまう):教育と仕事の連動

  初任者には、知識教育が不可欠です。「採用担当者つぶやきエッセイ第28回」で、その必要性を説いております。

  しかし、学んだことも、使わなければ錆びついてしまいます。そこで、研修受講後には、学んだことを活用する機会を、必ず作ることが大切となります。

その機会をどうやって作るのか?キーパーソンは、直属の上長です。基本原則5で申しあげた通り、推進責任者である管理者が考えるのです。ツールといたしまして、「6ヵ月間実行計画書」などを用意すると、フォローが容易になります。

●基本原則7『教育は、体系的な仕組みの中で、計画的・継続的に実施して、大輪の花開く土壌(風土)が醸成されていく』:教育は風土作り・風土改革

 「人材育成は当たり前」「教育は自主的に取り組むことが大前提」という職場環境が、どのような嵐が来襲してもグラつかない理想の職場ではないでしょうか。

  そのような職場風土を実現するためには、オルガナイザーとしての教育担当が、人事制度と連動した教育体系を策定し、粘り強く継続して運営することが求められます。

  農作物の生命は土壌である、といわれています。企業の土壌は、風土であり文化です。教育の目的は、風土改革かもしれません。

●基本原則8『実施後の成果評価と今後の方向づけを、各々の立場(受講者、上長、専任スタッフ、会社)で、自主的に行うこと』:PDCAサイクル、研修派遣事前・事後フォロー手順

  企業内教育、その中でも研修などのOffJTは、成果評価が難しいのが実状です。しかし、評価・検証をしっかりやらなければ、ドンマイドンマイで終ってしまいます。

  私は、どのような研修においても、最低半日の時間を費やして、研修・セミナー・訓練などの成果評価を実施し、次回の改善項目を具体化しております。自主的に、PDCAサイクルを回しているのです。スパイラル状に、を意識して。

  それは、教育担当の顧客でもあります受講者への誠意の表現でもあります。CS(Customer

 Satisfaction)は、全ての仕事に共通した着眼点です。担当する職種によって異なってくるのは、対象となる顧客の違いだけです。

  最終的な判断基準は、継続的業績向上と人格養成です。(教育の基本理念10参照)

*研修の成果評価に費やす時間は、ケースバイケースです。2時間で済む場合もありますし、延べ一週間以上を費やす場合だってあります。

●基本原則9『教育理念と実施内容の整合性を図ること』:コストパフォーマンスの意識

  教育投資にも、コストパフォーマンスの考え方が求められます。

  実現のためには、「教育活動の基本原則」を、一つひとつ具現化していくことにつきます。要約しますと、実施内容と基本理念、基本原則の整合性を図ってみることです。特に理念は、企業姿勢の唯一の宣言なのです。

  もう一つ、費用についても考えなければなりません。

  かかる費用が少なくても、パフォーマンスがゼロとか不満足では、費用の無駄遣いになります。費用削減が先行して、内容不満足のケースが多いと思います。先入観を排した柔軟な対応が、企業内教育には求められています。

●基本原則10『企業全体に、「教育は永続的繁栄の土台であり、教育機会への参画は当たり前」という考え方を浸透させること』:理念の共有化

 “お題目”という表現を使う時は、誉められるようなケースではありませんね。

  その“お題目”に例えられることの一つに、企業理念があります。朝礼などで唱和する企業もあります。決して、朝礼での唱和を否定しているわけではありません。心を込めて唱和している企業もあります。

  永続的に繁栄している企業は、理念や考え方が風土として、文化として根付いているようです。社員の中に浸透しているようです。そうすることに、注力しているからでしょう。その代表が、「○○WAY」と、言われているように思います。

  共有&共鳴は、一朝一夕には実現しません。役員・上位管理者が、機会を見つけて、繰り返し繰り返し説いていくしかありません。言行一致も絶対条件です。些細なことでも、一回の不一致が不信感となって伝染します。

  上に立つ者ほど、自主的に教育機会に参加することです。自己啓発に励むことです。謙虚に学ぶことです。そのような企業は強い。

(2012.1.5)

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