エッセイ322:初志(こころ)プロジェクトの反響は?〈2-1〉

投稿日:2025年2月4日

  *今回のエッセイは、昨年12月に書き終えたエッセイです。

 38年間続けた人材育成に関する教材と資料は、横幅10㎝のファイルボックス80個もありました。難儀していた整理作業は諦め、半年前から、内容を確認したうえで、殆んど全てをバッサリ破棄の基本姿勢で対処しております。破棄と言っても、可能な限り古紙回収を心がけました。進めながら、かなり驚いたことがあります。陽の目を見ることなく企画していたカリキュラムが、かなりの本数存在していることです。今こそ実施してみたいカリキュラムもありました。小声程度ではありますが、問題意識を形に表そうとしている私の業績魂に拍手したい感情に駆られております。

 その中に、『患者が理解できる言葉遣いの追究』と『薬剤師よ、言葉の魔術師を目指そう』というカリキュラム名を付した、未実施の仕事研究プロジェクトがありました。10年以上も前に思い立ったカリキュラムです。私自身が患者として医療施設を利用した時、多くの患者にとって、理解が難しいだろうと思える説明をされることが多いと感じたからです。例えば、“食間って、いつ飲むのだろうか?食事している間に飲むのだろうか?”、“隠れ脳梗塞って言われて、心配になってきました”等々。胃カメラ検査の後に“胃の入り口ヘルニアで、逆流性食道炎 ……”と伝えられた友人から、何のことかと訊かれたこともありました。以下、“安静に”、“服用”、“頓服”、“冷暗所保管”、“禁忌”、“寛解”、“経過観察”、“インフォームドコンセント”など、患者が分かりやすい言葉に置き換えて説明して欲しいと思える用語が、かなりあるように感じたことがきっかけでした。今年の2月頃でしたか、同じような理由で、医療現場に「やさしい日本語」を広げる医師の存在を知りました。順天堂大学大学院教授の武田裕子さんです。きっかけは外国人の健康相談だったそうです。同じ目線で同じ方向を目指していらっしゃる方を知って、問題意識の泉は決して枯らしてはいけないと感じました。

 いずれにしても、患者の疑問や心的不安を和らげる意味でも、患者に理解してもらえる分かりやすい日常会話的表現を、日々の仕事の中で模索し実践して欲しいと願っています。その実現のために、現役薬剤師の皆さんには、“目の前の顧客(患者、その家族、生活者)の顔を見て、発する文言を理解してくれているのかを察知する力”を養って頂きたいと思います。そういう問題意識を持って顧客と接していけば、自ずと顧客が理解できる言葉遣いの使い手に成長し続けるでしょう。言葉の魔術師になれるでしょう。安心と信頼のコミュニケーションの本質は、そんな視点にあると思い続けております。前文が長くなりました。エッセイ322回は、前回取りあげました私が提案する薬学生の就職活動の進め方「初志(こころ)プロジェクト」に対する薬学生の声を紹介したいと思います。採用活動を見直すきっかけになってくれたら嬉しいです。

初志(こころ)プロジェクトの反響は?

 私が薬剤師の採用業務に携わったのは、2001年(平成13年)からになります。以来、20年ほどの間に、東北地方に本社のある調剤薬局チェーン3社で薬学生の採用業務も担当しました。

 薬学生採用に関しては、いずれの会社も一からのスタートでした。先ず着手したのが、会社案内パンフレットの作成です。企画から始まって取材と編成には、かなりの気苦労が伴いました。完成するまでの間に、求人票と大学別在籍薬剤師リストを作成して、大学回訪の準備に取り掛かったと思います。表敬訪問は事前予約が礼儀ではありますが、首都圏の場合は訪問する大学が多いことから飛び込み対応にしたと記憶しております。事前予約しなかったことから面会を断られ、名刺を置いて立ち去ったこともありました。大学主催の会社説明会・就職相談会への参加のお願いをしましたが、“検討させて頂きます”程度の回答が多かったと思います。殆んどの大学から、招待頂くことはありませんでした。また、人材紹介業主催の合同会社説明会に出展しても、ブースに来訪する学生は数人という状況が続きました。厳しい現実を実感しながら、これで引き下がっては私の負けん気が許しません。抑々、薬学生にとっては超売り手市場でしたから、新規参入の無名中小企業が競合他社と同じやり方で活動しても、箸にも棒にも引っかからないのが実態だったのです。余談ですが、上記のような生の実情を経営者に理解してもらうことにも、非常に苦労しました。“直ぐに何らかの成果が出る”と、思い違いしているからです。そんな時には、“私への権限委譲と入社後の育成の指針を示してください”というお願いをしました。話を本題に戻しましょう。

 負けじ魂と業績魂を内に秘め、逆転の発想を意識して辿り着いたのが、初志(こころ)プロジェクトという啓発的手法でした。会社の説明はさて置いて、私の考えている本質的な就職活動のあり方を、声を大にして説くことに決めたのです。ブースに訪れた学生に、“あなたはどんな薬剤師を目指しているのですか?”、“薬剤法第一条には、何が明記されていますか?”、さらに“どうして薬学部を受験したのですか?”などと応答の対話を続けていくうちに、私の問いかけを真剣な表情で受け容れる薬学生が出てきました。さらに、そのような質問をする理由を伝えると、会社見学希望者が増えるようになりました。初志(こころ)プロジェクトは、“薬学生に「有難うございました」「お蔭様でした」と、最後に感謝されるやり方を追求し実践する!”を基本理念とし、“共に理想や志・希望を語り合う対話の場”“将来の方向を決意して覚悟することができる情報提供の場にする!”を目標として、ぶれることなく誠実に活動しました。接触した薬学生から、後日、お礼のメールや手紙を頂戴しております。その声が、持続可能な薬学生のお役に立てる採用活動の道を拓いてくれました。以下、2007年(平成19年)前後に頂戴した就職活動中の薬学生の声を、私が実践してきた初志(こころ)プロジェクトへの反響として紹介したいと思います。 (2-2へ続く)

    EDUCOいわて・学び塾主宰/薬剤師 井上 和裕 (2024.12.2記)

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