エッセイ214:それだけ気を遣う合宿研修の目的は?

投稿日:2020年9月18日

 エッセイ204回(2019年12月10日記)では、“企画・運営する教育機会の全行程を一人で運営している”ことを取りあげました。講義を始めとして、実技指導、討議・グループワークの進行、所感のチェックを含めて、全てを私一人が運営するということです。合宿の場合は、会場との打合せから食事の交渉まで行います。一番気を遣うのが、参加者の健康管理と生活管理になります。参加者の多くは成人ですから、簡単なルールを決めて自主性に任せております。やり方はどうであれ、アクシデントはつきまとうものです。今回は、いくつものチェックポイントがあって、さらに問題発生確率の高い合宿研修の実体験、そこから学んだことなどを呟いてみます。その上で、あれこれ気を遣い、私自身にとってストレス度の高い合宿方式を何故続けるのか、その意義も明らかにしたいと思います。しばらくは実施不可能の合宿研修ですが、アフターコロナの教育機会再構築の参考に供して頂きましたら幸いです。

それだけ気を遣う合宿研修の目的は?

 数週間の合宿研修の場合、通いの研修とは違って、宿泊費・食事代を含めて、かなりの経費がかかります。体力に余裕のない中小企業では、いくら合宿志向が強くても実施不可能なのが実態でもあります。それでも合宿方式に拘るのは、“目的が何か。その理由は何か!”につきるのです。また、コストに見合うだけの説得材料の存在も欠かせません。そのための前提として、納得させられるレベルの教育理念と実施スキルが必須要件となります。それなしには、長期間の合宿形式は費用の無駄使いになります。私の考える教育理念は、欄外の【教育理念関連資料】を参照願います。

 先ず、30数年間の体験から、マイナスイメージの出来事を中心に紹介したいと思います。複数回あったのが、寝坊による遅刻です。全ての研修で相部屋(二人)にしておりますから、遅刻者も必ず複数名になります。理由の多くは、良好な人間関係構築のために、深夜或いは未明までポジティブなコミュニケーションをしていたことです。合宿だからこその出来事ですから大目に見ますが、遅刻は許されない社会人の基本ルールです。参加者全員に対して謝ること、遅刻理由を正直に述べることの二点を義務付けております。さらに、許すか許さないかの判断は、参加者全員に決めてもらいます。

 数週間にわたる不慣れな環境下では、ストレスで体調を崩す参加者が出ます。軽い風邪、胃腸をこわす方の他には、熟睡できない方が一番多いようです。寝不足対策は、研修カリキュラム編成上腕の見せ所になります。最終日近くになると、痛飲で具合を悪くし、夜中に起こされたこともありました。自己管理が基本ですが、新社会人の場合、起こりうる可能性を幅広く想定しておくことの重要性を感じております。10数年前のことですが、参加者の骨折事故がありました。全くもって呆れたのが、骨折理由と当人達の事故後の対応でした。私以外の教育担当はおりませんから、以降の研修日程に大きな影響が出ました。一番残念だったのは、快復後の仕事への取組み姿勢でしたね。採用&教育担当として、力不足と無念さを感じるのは、そのような実態を目の当たりにした時なのです。参加者が二桁以上になりますと、参加者同士の相性の不一致が運営に影響することがあります。グループ討議や課題で、相性の芳しくない参加者が同じグループになった時です。感情が先に出る、議論に至らないなど、グループ運営だけではなく、全体の雰囲気にも影響してきます。社会人成り立ての新卒新入社員に対しては、組織運営やチームワークの基礎知識とあり方をカリキュラム化して、学生と社会人の違いを考えて理解する機会にしております。

 企画運営する私自身の留意点も紹介しておきましょう。事務局とトレーナーに関わる全ての準備を万端整えることは当然として、私自身の健康管理には特に気を遣っております。私の替わりはいませんから、発熱でもしたら延期するしかありません。ちなみに、13年前の合宿研修中、痛風発作に見舞われました。激痛に耐えながら、残りの十日間を何とか乗り切りました。その年から3年間にわたって、同じ時期にだけ発作が出てきたのです。それまでは他人事だったストレスの存在を、初めて意識しました。以来、私自身のメンタルヘルスケアにも心がけるようになりました。食事面では、合宿研修開始の1週間前からは、刺身などの生モノは一切口にしません。リスクマネジメントとして、30年前から実践しております。運営面でも、あれこれ気を遣うことがあります。かなりの紙面を割いてしまいそうですから、別の機会に譲りたいと思います。

 一方、経験を重ねながら、事態毎に“どんな対応をとるべきか”という考え方と方途が明らかになってきます。“どのようなスタンスで対処するべきか”という引き出しが、一つ二つと増えていきました。一番の賜り物は、不測の事態に落ち着いて対処できるようになったことですね。合宿研修のマイナス面を中心に取りあげてきましたが、ここからは、それでも合宿研修に拘る理由について触れておきましょう。今回のE森のメインテーマですね。理由はいくつかありますが、一つに絞って考えてみたいと思います。

 研修を含めた社員教育の目的の一つは、チームメンバーと共にチーム目標を達成するための能力養成です。メンバーと協同しながらチームの問題を解決できる力を磨き上げることです。その土台となるのが、一人ひとりの生き方(人生観、仕事観、人間観など)であり、日々の心構えや考動指針になります。それらの土台を、他人の考えや意見に流されず、自らの意志で考え育み表現することを、一番の目的にしております。一言で表現すれば、思考力を鍛えるということです。集合研修では、その土台のあり方を問題提起し、グループメンバーで掘り下げて考えて頂きます。また、合宿は24時間の共同生活ですから、お互いを知るまたとない機会となります。会社の方針に沿って切磋琢磨する同僚ですから、相互理解・相互啓発の機会はコミュニケ―ション能力のブラッシュアップにもなります。

 また、相手の立場に立つことの理由と具体的方途を学ぶことを、合宿研修の重要な眼目として位置づけております相手:自分=51>49を理解して頂くことにもつながります。例えば、部屋はツインルームが基本です。相方は、三日毎に交代します。研修時間以外の部屋の使い方は、相談しなければなりません。お互いの考えを出し合い、相談してルールとして意思決定することになります。相手に譲る、我慢する、相手の思いに耳を傾ける、気を配る、想像する、etc 仕事遂行上必要な当たり前の行為で対処せざるを得ないのです。社会で生きていくためのマナーでもあります。

 時間配分の工夫が可能な合宿においては、長時間の討議やグループワークを随所に組み込んでおります。特に、考える、掘り下げる、組み合わせる、発表する、対話する、議論する、共有化する、意思決定するetc ことが日常茶飯事なのです。生き方を構築する、将来像を具体化する、視野を拡げる、知識を技能にグレードアップすることなどは、合宿形式だからこそ可能なメリットではないでしょうか。生き方については、夕食後の自由時間で議論し合う光景を目にすることもあります。将来像についても同様です。

 これらは、通い研修ではかなり難しいと思います。所属企業によって合宿日程は異なりますが、合宿形式を20数年間実践しました。最近では、30歳代~50歳代の合宿研修経験者の声を聴くようにしております。多くの方々から、あの時代の教育に感謝の声を頂きました。さらに、重要性と必要性を支持してくれていることから、コスト以上の成果が出ていると確信しています。一方で、ビジネスマナーも含めて、本質的基礎教育が希薄になっていることへの指摘と危惧の声もあがりました。数字で表すことは不可能ですが、成長の構成要素の一つである心構えを正す着眼点は、合宿という共同生活の中で深耕できるのだと思います。まとまりに欠けた内容でしたが、競争と価値観の移り変わりの激しい時代だからこそ、私の考える合宿研修の有用性を感じております。

       井上  和裕(2020.4.2本文記/6.12前文修正)

【教育理念関連資料】

 ・エッセイ119・120回:教育とは~EDUCO TREE(2016.4.30)

 ・エッセイ121回:人財育成の本質を考える(2016.5.16)

 ・エッセイ122回:私の提唱する「教育の基本理念(人財育成の着眼点)」(2016.6.11)

 ・エッセイ125回:私の提唱する「教育活動の基本原則」(2016.7.20)

【『相手の立場に立つ』の参考資料】

 ・エッセイ148回:私のリーダーシップスタイルの原点は、……(2017.8.2)

 ・エッセイ149回:『相手の立場に立つ』の私的実践例アレコレ(2017.9.1)

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