初めて上京したのは、51年前の2月下旬でした。大学受験のためです。初めて革靴を履いたこと、初めての寝台列車での移動というように、初物尽くしでした。
往きは、日本国有鉄道(現在のJR)東北本線盛岡駅始発上野行き寝台急行「北星号」でした。発車時刻は、確か21時か22時ではなかったでしょうか?3段ベッドの狭い空間で、横になればガタンゴトンが直接耳に響いてきました。ほとんど眠れなかったと記憶しております。
外が白んできた明け方には、通路に佇んで車窓から東京の町並みを見ておりました。一番の驚きは、何と発音するのか分からない駅名が多かったことです。『日暮里』を“にっぽり”と読むことができる様になったのは、それから2ヵ月近く経ってからです。『御徒町』、『五反田』、『鶯谷』、『駒込』等、田舎では考えられないほどの多くの数の駅名に馴染むだけでも大変でした。それ以上に、日暮里の由来が何か、ということに興味を憶えたように思います。精神的余裕のなかったその当時は、想像の域を出ませんでした。今回、その由来を調べてみました。
“1日中過ごしても飽きない里”の意味から“日暮らしの里”と呼ばれるようになったそうです。もともとは“新しい街”という意味の新堀(にいぼり、又はにいほり)という地名でしたが、両方合わさって日暮里と呼ばれるようになったとも言われているようです。
それにしても難解な地名が全国各地にあります。日暮里同様、面白いのがその名の由来ですね。
宮城県塩釜市にあります日本三景松島の浦戸諸島に『寒風沢(さぶさわ)』という名の島があります。“冬寒く風が激しい”ことから名付けられたそうです。(日本大百科全書より)山形県にある左沢(あてらざわ)には諸説あって、詳しくは大江町観光物産ホームページをご覧ください。
命名するさいの着眼点の多様さ、住民への心憎いばかりの配慮(分かり易さや理解し易さなど)などを感じます。一番の驚きは、日本語の奥深さでしょうか。その奥深さにこそ、知りたい、学びたいと思わせてくれる理由があるのです。
この数年、研修などの教育機会における動機付けの大切さは当然として、受講者の動機付けの難しさの狭間にあって、そのあり方を試行錯誤している度合いが高くなりました。新卒新入社員はもとより、中堅社員や既卒の第二新卒社員を対象とした研修の場合には、かなりの時間をかけて動機付け作戦を練り直します。マネジャークラスでも同じです。この部分が教育機会の成否の鍵を握っているからです。その一例を、エッセイ115回「教育成果を左右する自己動機付け(2016.2.23記)」で取りあげました。
どれだけ経験を重ねても、私自身の未熟さが毎回顔を出します。その原因を追い求めながら、克服する方途を考えては次回に備えることは、未だに負げることなく実行しております。
今回のエッセイは、そんな心掛けを潤してくれた出来事を呟いてみたいと思います。
教わるとは、学ぶとは
3月第2週のことです。約1ヶ月前に行ないました薬学生との勉強会のレポートが届きました。レポートと言いましても、形式はA3版大の受講者自作のオリジナル新聞(いのうえ塾定番のMY新聞)です。
先ず、勉強会の概要から紹介をさせて頂きましょう。
Mプロジェクトと名付けた勉強会は、1回当たり約3時間半で全5回(10日間に5開催)実施いたしました。対象者は次年度実務実習を控えた4年生で、受講者は6名でした。
狙いの一つを、「薬剤師の任務を果たすためには、固有専門能力とともに共通専門能力が必須能力として存在する。その共通専門能力の中でも、特に重要となる対人間関係能力の基本を学び、実務実習を目前に控えた今この時期に、実践的な訓練を通して身につける」とし、“コミュニケーション能力(特にプレゼンテーション能力)の強化”と“いつでもニッコリハイ笑顔の日常化”の2テーマを重点的な到達目標としました。
もう一つの狙いは、「薬剤師の顧客から“有難う”と感謝して頂けるように、社会人になる前から意識して視野拡大に努め、多様な着眼点を身につけて、様々な事態を受け容れることが出来ようにする」として、視野拡大と多様な着眼点を身につけるための仕掛けを、あちらこちらに組み込みました。その着眼点のポイントは、“学校の建学の精神”、“勉強の目的は何か”、“コミュニケーションの阻害要因・定義・目的・構成要素”、“成長や成果のエレメントとその理由”、“心構えを正すことの意味”などで、問いかけては考えるような進め方にしました。一人ひとりが意思決定した内容が、現段階での正答ということになります。
受け取りましたレポートには、このプロジェクトの狙いをシッカリと受け留めて自己消化し、重要と位置づけた着眼点を咀嚼吸収した痕跡が記されていたのです。それまでの自分自身の生活を振り返って看脚下したAさんのレポートは、謙虚に学ぶことのあり方を感じさせてくれます。Bさんは、笑顔と挨拶の重要性を取りあげました。信頼のコミュニケーションを実現することの重要な(しかし、現実には見落とされている)基本が身についたことを、本人自身が実感したというレポートです。Cさんの“私の考える建学の精神にある理想とする人間像”は、かなり練り込んだレポートでした。労作(私の最上の褒め言葉)といえましょう。成長のためのエレメントを強く意識したDさんは、全5回の全時間を言行一致で貫き通しました。正に感嘆ものでした。
総じて感謝の思いが行間にあふれていることも、高く評価したいと思います。言葉と態度で感謝を表現することを頭では分かっていながら、実際に有難うという言葉を添えて態度で示す人は、非常に少なくなりました。20数年前には当り前であった感謝の意思表示は、年を重ねる毎に薄れつつあることを残念に感じておりました。それだけ心の余裕が持てなくなっているのでしょうか。しかし、今回の受講者は違っていたのです。勉強会の狙いを納得して、自分事として実践した結果ではないでしょうか。さらに、行動することと心構えを正すことを認識した内容も目立っており、嬉しさが込み上げてきました。レポートに表現されている内容のほとんどは、今後の人生において、その重要性をキチンと認識し当り前に実行して欲しい着眼点なのです。
言葉遣いや表現内容にも、ここ数年のレポートとの大きな違いを感じました。それは、使用した教材を丸写しするのではなく、それぞれが自分自身で考えた言葉で表現していることです。全てとは申しませんが、概ねお仕着せではないオリジナリティを感じさせてくれたMY新聞でした。
私が企画し運営する全ての教育機会は、自己動機付けの重要性に気づき能動的に学ぶことを促す進め方を根幹としております。実現のハードルは非常に高いのですが、今回はある程度のレベルを確保できたと思います。その要因探索は難問なのですが、私自身のぶれない行動理念と行動姿勢があっての産物だったと思われます。
いのうえ塾(私が主催し運営する教育機会の総称)の参画条件である“『とにかく学びたいのです。だから、自主性を発揮して切磋琢磨します』という飢餓心”、 “心の底から『ニッコリ ハキハキ ハイ笑顔』で臨むこと”の必要性を、これからも時間など気にしないでシッカリ問いかけ続ける所存です。そうすることで動機付けがより促進されることを、6名の薬学生から教えて頂きました。教わるとはどうすることか、学ぶとはどういうことか、その実例を6名から教わったのでした。
元来、誰もが持っている自己動機付け欲求を引き出す方途の深耕に、終着駅なんて存在しません。どれだけ一所懸命努力しても、思いとやり方が通じない場合が多いのも実態です。業績魂を放棄することなく工夫し続けることのやる気と自信を頂戴した5日間でした。
(2016.3.22記)