エッセイ106:“備えよ常に”は、リスクマネジメントの基本

投稿日:2016年2月5日

 足利事件をご存知でしょうか。丹念に自分自身で見聞きした調査報道で、服役していた菅家利和さんの冤罪立証を後押しされた日本テレビ記者がいらっしゃいます。当時の番組横断的キャンペーンが、日本民間放送連盟賞「放送と公共性」において最優秀に選ばれました。そのテレビ記者は清水潔さんという方です。5年ほど前の新聞で知りました。
 清水さんは、山歩き用の運動靴をいつも履き続けているそうです。どのような現場に行っても困らないようにするための必須アイテムなのです。これは、想定外にも対応できるような備えとして、清水さんが導き出したプロ記者としての仕事流儀なのだ、と解釈しております。
 それにつけても、最近つくづく思うことがあります。仕事であれ、学びであれ、準備不足が横行していることです。準備内容の貧困化と言っても過言ではありません。“想定外という言い訳は恥かしいこと”と自分自身に言い聞かせて、どのような事態が起きたとしても最低限の任務を果たすことができる作法を特定し、その作法を当り前に実践し維持し続けている人が、本物のプロフェッションなのだと思います。それは、この数年間しつこいほどに方向付けしている“備えよ常に”という不易の日常的作法の一つなのではないでしょうか。

“備えよ常に”は、リスクマネジメントの基本

 先ず、「備えよ常に」の意味と意義を考えてみましょう。私見になります。

 ボーイスカウトのモットーである「備えよ常に」は、“イザという時に備えて、日頃からいろいろと準備しておきましょう”という意味です。
 ビジネスパーソンとして社会に船出した皆さん方は、様々な仕事を指示され、将来はやりがいのある仕事を任される時がくるでしょう。そのような時に、与えられた仕事、任された仕事をやり遂げられる能力開発を、日頃からコツコツこつこつ積み重ねていくことこそが、基本中の基本ではないでしょうか。倦まず弛まず、克己心と自助力で蓄積した開発能力が、与えられた仕事、任された仕事をやり遂げる原動力となるのです。

 スピード優先、効率化優先、即戦力化、アウトソーシング化、…… 。いつ頃から、このようなことが当り前化してしまったのでしょうか。バブル経済が弾けたあたりからでしょうか。
 それらの基本理念や意図、そして本質的機能が整わないまま、継ぎ接ぎされたシステムとやり方が急いで築かれ、慣れないままに運用されてしまったのです。スピードこそが一番の競争優位性の旗の下で、見切り発車したのです。その結果、企業を支える要となる人材育成の劣化という大きな代償を払うことになったのです。
 つくづく想います。
 イザという時に備えて、日頃から万全の準備をして、目の前の日々の課題や出来事と向き合って対処することが基本です。仕事であれ、日常生活であれ、自己啓発であれ、人生万般において「備えよ常に」を積み重ねて習慣化することが大前提なのです。
 失敗から学ぶ、学習能力を磨く、そして準備万端整える、これらは全てリスクマネジメントと言われる範疇の基本中の基本ではないでしょうか。私は、つくづく感じ想っているのです。
こ のことを、今の時代、どれだけの方々が気づいているのでしょうか。実践しているのでしょうか。69歳目前の私ですが、問題提起し続けることに疲れつつあります。もう言い疲れてしまいました。私の正直な本音は、その疲労感からくる諦念感なのです。
                                                     (2015.9.28記)

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