エッセイ107:結果の基(原因)はプロセスと心構え

投稿日:2016年2月16日

 2年前の新聞で知った忘れられない善意のお話です。
 平成25年(2013年)5月、元看護師の中西豊子さんが亡くなりました。その前年2月に入居していたケアハウスのある愛知県豊橋市で、関西大学教授河田恵昭氏の講演を聴いたそうです。東日本大震災での岩手県上閉伊郡大槌町の甚大な被害が語られ、そのような中でがんばっている子どもたちの奮闘の様子が紹介されました。
 大槌町とは縁もゆかりもなかった中西さんですが、講演でのその話に心を痛めて、当時の大槌町長に手紙を書きました。“財産は全て大槌の子どもたちに使いたい”と。委託された親しかった知人らは、中西さんの遺志に沿って、全財産7千万円を寄付されました。そして、中西さんの遺産全額が大槌町の奨学金の貸付基金となる、ということを知りました。
 つぶやきエッセイでは、忘れずに心のどこかに留めておきたい市井の方を、何度か取りあげてきました。頻度は多くはありませんが、これからも取りあげたいと思います。その方々の生き方や考え方と可能な限り向き合って、私自身のこれからの人生を耕す機会にしたいと思うのです。

 エッセイ107回は、今後のいのうえ塾で問いかけたいテーマを呟きたいと思います。日々の忙しさの中では、どうしても疎かにされがちなことです。年に1、2回程度でも方向付けすることで、PDCAサイクルが少しでもスパイラルアップすることを期待したいのです。視点を変えながら、何度となくエッセイの中で問いかけている基本に関することです。

結果の基(原因)はプロセスと心構え
 
 アマチュアスポーツの指導者の育成術で、最近とみに目にするウェイトの高い着眼点があります。十数年前から言われ始めたように感じております。人材育成の方法論とその理由は、指導者一人ひとり違って当り前のことですが、これから紹介することは、私自身が特に共感できる内容です。

 ある大学野球部の監督は、育成の基本をこう捉えていらっしゃいます。
 「結果だけでは怒りません。過程や取組む姿勢で結果が決まると思っています」と。勝つことは当然としても、先ず1人の人間としての部員育成を第一に考えているのです。その理由を、「社会に出て、自由な発想で取り組み、活躍できる選手になって欲しい。そういう選手がいるチームは強いのです」と言い切っています。
“そこに至るプロセスと取組み姿勢を支えている心構え(行動理論、考え方、思考習慣)が結果の基(原因)”、という考え方が根幹にあるのではないでしょうか。

 高校野球における育成の考え方や指導のあり方にも、プロセス重視を見ることができます。そのプロセスの一つが、日常の生活態度や練習への取組姿勢に重点がおかれていることです。そこに、以前とは違う指導のあり方の変化を感じます。
 ある有力校の監督が話された内容の骨子を紹介しましょう。
 「優勝することが花だとすれば、花は枝に支えられ、枝は幹に支えられ、木全体を支えているのは目には見えない根っこになります。小さいことを確実にこなすことが根っこ作りです。日頃から小さいことができないと、サインを見落としたりバックアップ(カバーリング)を怠るのです」と。挨拶や靴の脱ぎ方などのマナー、人との付き合い方・接し方、感謝すること、協調性などを、人として身につけたい目に見えない当たり前の作法を、小さいことと位置づけているのです
 毎日のマナー徹底は当り前として、練習場だけではなく、どのような場所においても、落ちているゴミを拾って捨てる習慣の徹底などは、社会に出てからのことも考慮しての全人的な生徒育成であることに気づかされます。一人ひとりのプレーの中で、予期せぬエラー(ミス)はつきものです。ですから、常に一つひとつのプレーをバックアップすることは、そのエラー(ミス)による被害を最小限に食い止めることが可能になります。それが最終結果に大きく影響する場合もあるでしょう。ゴミに気づかない人、落ちているゴミに気づいても拾わない人は、時々手抜きをする癖が身についてしまうのだそうです。バックアップが疎かになったり、肝心な時のエラーとなって失点につながる可能性が高くなってしまうのでしょう。
 ゴミ拾いもバックアップも誰かに認めてもらうためにやるのではなく、チーム目標達成のための当り前の行動として厳しく躾けているのだと思います。このことは、会社における仕事遂行のあり方にも相通じることであり、リスクマネジメントの基本であると再認識しております。

 チーク(組織)作りというのは、全員が揃って初めてベストとなるチーム(組織)を実現することだと思います。近付くための幹は、プロセス(日々の生活習慣、行動習慣)と心構え(日々の行動理論、思考習慣)の変革に重点をおいて育成することに尽きるのではないでしょうか。私の失敗体験からも、この着眼点にいたく共感を覚えるのです。そして、これらの具体的内容と何故そうするのかという理由を反芻しながら、企業では蔑ろにされてはいないだろうかと思える社員教育の実態に、ハッとさせられているのです。
 そう考えながら、日本女子バレー全盛期に監督をされていた故小島孝治氏(1930年~2014年)の選手育成の考え方を思い起こしております。
 小島氏が監督で出場した1972年ミュンヘン五輪では銀メダルを獲得しました。4年後のモスクワ五輪は、金メダルを期待されながら国として不出場になりました。そのようなことから“悲運の名将”とも言われた方です。指導者としての基本姿勢を、小島氏はこう語っています。
「私は、選手を指導する最初の1年間は、基本的なことを厳しく叩き込みました。なぜなら、基本が出来ていない選手は、故障やスランプ、敗戦など落ち込んだ時、這い上がれないからです。だから1年間は、基本的なパスやスパイクのフォーム、バレーボールのルール、そして先輩や目上の人に対する礼儀作法をしっかりと身につけさせました。そうした基本を的確に習得することが、競った時に一歩抜きん出る力となります。基本ができた選手は、自ら練習に取組んで、放っておいても伸びていくようになるのです」と。

 結局、“結果はプロセスと心構えで決まる”という考え方を、社員育成、選手育成、生徒育成の根幹に据えるべきではないでしょうか。(即戦力化、即効性優先の)人材育成の現実に大きな違和感を覚えながら、一方では自分自身の非力さを不甲斐なく思う毎日なのです。
                                                                   (2015.10.10記)

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