エッセイ99:日々の出来事と仕事が成長の教材~“共に”の姿勢で

投稿日:2015年11月5日

 講師として人前に立つ時は、常に不安感がまとわりついてのスタートになります。その不安感は、講師の私にとりまして当り前の緊張感かもしれません。それが同僚や仲間であれ、知人であれ、初対面の方であれ、不安の色合いは異なりますが、片時も離れることがないのです。
 その理由は、30年近い体験で味わった数多くの初心(私の能力が未熟なこと)が、身体の隅々まで浸み込んでいるからでしょう。受講される皆さんが、私を直視して傾聴する姿勢で臨んでくれるだろうか、という強いプレッシャーが原因でもあります。
 講師の任務を果たすための大きな関所の一つは、口を開いてからの数分間にあります。
 先ず、スタートしてからの数分間で、その場の雰囲気を察知して、目の前の受講者の取組み意欲を自己評価しなければなりません。評価内容とその度合いによっては、与えられた時間の進め方を修正しなければなりません。それは講師の宿命であり、使命感、責任感によって左右されます。どのように修正するかは、その時々の状況に応じて対応することになります。ひと言で言えば、総合的実力の勝負です。多くの場合、そこで勝敗が決すると言っても過言ではありません。そのノウハウのマニュアル化は難しいと感じながらも、出来る限り言葉に残すようにしております。
 初対面の方を担当する場合は、最初の切り出しトークと自己紹介に気を配ります。その場限り(1回のみ)の場合は、なおさら気を遣います。一発勝負と覚悟して臨まなければなりません。
 実務的な知識教育の場合、一にも二にも理解度アップに気を配ります。理解まで辿り着かないことには、開催した意味がありません。“その知識を学ぶ目的は何か”、“そもそもその知識は何故必要なのか”というレベルまで落とし込んで、能動的学びを引き出すことが理解度アップの要諦なのです。
 エッセイ99回は、その理解度アップ策をつぶやいてみましょう。
教育担当であれば、専任、兼任を問いません。経験の有無も、その長さも関係ありません。教育担当者だけではなく、言葉と行動で動機付けする機会の多い方々への問題提起でもあります。

日々の出来事と仕事が成長の教材~“共に”の姿勢で

 理解度を高めるためには、単なる知識として留めてしまわないように、具体的イメージを想像しながら、脳裏に刷り込んでもらう工夫が欠かせません。それが私の流儀です。
 通常よく出会うのが、先人の名言・格言、故事・ことわざ、有名な史実・来歴、そしてビジネス書でも紹介されるような数々のサクセスストーリーでしょうか。マス媒体でも取りあげられる機会が多いこともあって、新たに学んだことをより理解してもらう恰好の教材になります。私も頻繁に活用しております。
 松尾芭蕉の「不易流行」、マザー・テレサの「愛の反対は無関心」、1分間マネジャーの「状況対応リーダーシップとは、部下に対して何をするかではなく、部下と一緒に何をするかである」等など、キラ星のごとく無限にあります。しかし、ほとんどが特別な方々の名言であり、環境や背景が異なる時代の話しですから、別世界の話として他人事で終わる可能性も否定できません。
 私は、ある時から、私の周りの身近な方々の善行、成功例を取りあげるようにしております。身近な方々というのは、会社の仲間がメインですが、知人・友人、そして私自身の場合もあります。ある時というのは、教育担当として何らかの行き詰まりを感じたことがきっかけだったと思います。その行き詰まりが何であったか、記憶には残っておりませんが、20年以上も前だったと思います。
 善行、成功例といっても、小さな出来事がほとんどです。その場合、結果だけではなく、可能な限り理由やプロセスにも言及します。そこまでやらないと、ケーススタディにはならないのです。話して終りの自己満足で終わってしまうからです。私事を取り上げる時は、失敗談がほとんどです。その失敗談も、目の前の方々の年令に合わせて、その年令に近い時の失敗談を探し出します。失敗から学ぶことも多いからです。そうすることで、一人ひとりが手の届く実例と実感できるようにしたいのです。実現可能性という自覚が芽生えて、それがやる気につながっていくからです。

 どのような教育機会でも、その存在意義を問えば、“それほどの監督を受けなくても仕事を十分やってのけることができるという気持ちの強さ”と“仕事をりっぱにやることへの関心(興味)と熱意”、つまりやる気を引き出すことにつきると思います。前文で申しあげました“能動的学び”を引き出すこととイコールではないでしょうか。
 引き出す時には、“共に”の態度と行動が重要になります。このことも忘れてはいけません。

 引き出す手段はいくつもあると思います。私の場合、試行錯誤を繰り返しながら行き着いた先が、受講対象者にとって身近な方々の善行や成功例、そして失敗例や問題提起が、やる気の大きな誘引剤になるという体感なのです。
 私が企業内教育に従事して気づかされたのは、日常の出来事や人間関係、毎日の仕事そのものこそが、最高の教材であり、最良の教育者である、ということです。数多くの失敗や体験を通して、思い知らされ、気づかされ、学び勇気づけられたのです。日常から学び、気づき、反省し、感謝・感動する努力こそが、人材育成の大きなテーマとして継続していかなければならないと常に思っております。ずっと問いかけ続けていくべきテーマなのです。
 もう一つ付け加えましょう。
 身近な方々の善行、成功例の情報収集には、時間と根気とエネルギーが必要だということです。集中力と感受性、視野の広さも欠かせません。そのような覚悟を持って、乗り越えていくテーマでもあるのです。これも宿命なのでしょう。
                                                                         (2015.7.3記)

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