エッセイ75:教育機会におけるオリエンテーションの重要性

投稿日:2014年11月5日

 7月下旬、薬学生10名を対象とした「東日本大震災から学び考える“これからの薬剤師のあり方”」というタイトルのプロジェクトが開催されました。
 運営スタッフの一員として、初日の90分間のオリエンテーション(以下、オリエン)を担当いたしました。
 今回のエッセイは、薬学生に話した“今回のオリエンを私が担当した理由”と、“オリエンの重要性は?”などを中心に、教育機会におけるオリエンの重要性をつぶやいてみましょう。

教育機会におけるオリエンテーションの重要性

 私が担当するオリエンに90分もの時間をかけることには、ハッキリとした理由があるからです。
 今回の場合は、このプロジェクトの目的と目標の達成を前提として、参加する薬学生全員の自発的やる気を引き出し、自主性を高めて取り組んで頂くことが一番の眼目になります。
 具体的には「目的(背景、理由)」、「目指す目標」、「目標実現のための心構え、行動指針」の相互理解のために、90分という時間資源がどうしても必要となるのです。現実の教育機会に眼を向けますと、参加者の自発的やる気を高めるためのあり方に、大きな問題意識と危機感を抱いておりました。

 今プロジェクトの参加メンバーは、面識の無い方がほとんどでしたから、私の自己紹介からスタートといたしました。この段階では、私の話しに興味を抱き、もっと聴きたい、と思って頂くことが重要課題となります。過去30年間の失敗経験をもとに、親近感を意識して臨みました。
 自己紹介のあとは、教員ではない私が講義する理由を、率直に申しあげました。その時の内容を、全てご紹介させて頂きます。

『私は30年近く、いくつかの異なる業種の会社で、人事教育の仕事に従事してきました。薬学生はもちろん、数千人の理系・文系の学生とも接してきました。新社会人から幹部社員に対する企業内教育を通して、試行錯誤を繰り返しながら、人材育成の能力とノウハウを積みあげてきました。
 つくづく感じているのは、“大学時代に何を学び、何を考え、何を体験してきたのか”が、一人ひとりのその後の将来にとって重要な要素であるということです。そのようなことから、人材育成という共通目標を持つ企業の教育担当と大学が連携して取り組む必要性を、長い間強く感じておりました。
 一昨年12月のことです。薬学生向け合同就職相談会において、A大学薬学部のC先生と情報交換する機会に恵まれました。以降、薬学生や薬剤師の実態、問題点、課題などについて意見交換をさせて頂きました。数回の打合せを経て、共通認識の課題解決を目指してコラボレーションすることに至りました。そして、東日本大震災の被災地薬剤師から学び考えることを優先課題と位置づけて、今回のプロジェクトが誕生しました。今回のように本質的な課題を共有しながら進めるプロジェクト的連携が、継続して定着していくことを期待しております。』

 次に、“何故、オリエンを重要視するのか?”という問題を、率直に投げかけました。このテーマを、わざわざ時間をかけて取りあげた背景は、このエッセイの本文冒頭で申しあげた通りです。

『「何故オリエンが重要なのか?」、この点を参加者全員が理解し納得することは、このプロジェクト全体の目的と目標達成のための強力な推進役となります。人材育成の仕事に携わって30年になりますが、確信に近い私の経験則です。このプロジェクトの場合、理由はいくつかありますが、今回は次の四つのことを考えて頂きたいと思います。
 先ずは、次の二つの考え方を前提条件ととらえてください。
 一つは、「参加したメンバー一人ひとりが、“何らかの成果があった”と、自主的に判定し実感出来るようにしたい」という願望です。二つ目は、「人間の行動、言動には、必ず理由や背景(体験、思い、志など)が存在する」という認識です。
 その二つの前提となる考え方を推し進めていくと、目標達成に向けてチームパフォーマンスをあげる必須要件として、次の二つのプロセスは避けて通ることが出来ない、という結論に至ります。
 「プロジェクトの目的、目標、心構え・行動指針の着眼点を理解し共有化する」、そして「可能な限り、一人ひとりの思いや考えを率直に出し合って相互理解に努める」ということです。
 皆さんは、自主的意思決定によって当プロジェクトに参加しました。そうは言っても、人間は10人10色ですから、「何となく…」、「友人に誘われて…」という理由もあるかも知れません。
 いずれにしても、今申しあげました四つの理由を意識しながら、全員が自己紹介と参加理由の発表を行って、相互理解を深めるきっかけにしたいと思います。』

 自己紹介の内容は、次のようにしました。
 ・氏名、学年、所属ゼミ、出身地・出身校、好きな食べ物、嫌いな食べ物、現在の興味、何でも一言

 全員の自己紹介が終了して、そこから本題に入りました。
 目的、目標、目標達成の心構え・行動指針の着眼点の三点について、問いかけと対話による方向づけです。目的と心構え・行動指針は、現在の社会の状況や動きなどの背景、視野拡大のためのヒントなる考え方や着眼点を提示して、考えて意思決定するような進め方を志向しました。今回のエッセイでは、目的と心構え・行動指針の着眼点の一部をご紹介させて頂きます。

 目的については、プロジェクト告知案内状に掲載した文言と、私の考える三つの視点を交えながら、共有化と相互理解に努めました。
 プロジェクトとしての目標は、いのうえ塾の定番である“MY新聞”作成、さらにプロジェクト全体の見解発表を通して、同じ薬学生との議論の輪を拡げるきっかけ作りを予定しております。
 心構え・行動指針は、主に将来を考える着眼点と方向性について問いかけました。その骨子は、以下の通りです。

  ①着眼点1:予防医療・在宅医療・身近な健康相談ステーション、自助・共助・公助
     ・抜本的な医療のあり方の見直しが迫られている。
     ・被災地薬剤師の医療活動の中に、見直しのヒントがある。
  ②着眼点2:学ぶとは何か?→ 身につけたい問題解決の思考プロセス
     ・学ぶとは、「自主的に考えること、自問自答して気づくこと、決めること」、
      そして「多様な考え方があることに気づき、先ず受け容れて考えること」。
     ・育成課題の一つが、「自主・自律・自立」の三自であり、能動的な実行力。
     ・若い内に身につけたいのが問題解決の思考プロセス。
     ・自答が正答。その自答をぶつけあって、三人寄れば文殊の知恵を実現する
  ③着眼点3:社会の実態を知ることで、多職種連携の必然性とそのあり方を学ぶ。あるとすればどのようなことなのだろうか。

 以上、あるプロジェクトの初日の一部(90分間のオリエンテーション)を、つぶやきも含めて掲載させて頂きました。
 掲載目的を再度申しあげますと、教育機会におけるオリエンテーション(或いはガイダンス)の重要性に気づいて頂きたいからです。スタート時点で、参加メンバーと推進スタッフが、目的と目標を、背景・理由を含めて共有化し相互理解することで、メンバーの自発的やる気を可能な限り引き出すことです。そのプロセスを経ることによって、新たな方向性の展望視野が拡がる可能性が、大いに期待できるのではないでしょうか。
                                                    (2014.8.25記)

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