エッセイ69:人材育成の本質を考える

投稿日:2014年8月5日

 今回のエッセイでは、以前のエッセイを振り返りながら、数年前から話す頻度が多くなってきました人材育成の本質についてつぶやいてみたいと思います。
 これをきっかけに、人材育成の議論の輪が拡がってくれることも期待しております。それも、やることで満足している表面上のシステム論ではなく、本質的側面やその本質実現のための目的を見誤らない具体的カリキュラムと手法のあり方など、総合的見地に立脚した議論を実現したいという思いが、ますます強くなっているのです。
 これから後輩育成が任務の一つとしてクローズアップされてくる30歳代前後の皆さんには、特に問題意識を持って考えて頂きたいと願っております。

人材育成の本質を考える

“人材育成の本質を考える”というテーマで、5月と6月に2回、立て続けに講話する機会がありました。その多くは調剤薬局の現役薬局長で、30歳前後から40歳前半までの11名の方々でした。約50分間の内容を、ドキュメント風に紹介したいと思います。

人材育成とは、自己啓発できる人材を育成することです。自発的やる気を喚起し続けることのできる人材を育成することです」
 両日ともに、私が今考えている人材育成像から切り出しました。育成像を明確にしないまま、本質に迫ることは不可能です。ですから、育成像という一つの結論から入ったのです。
 自己啓発も自発的やる気の喚起も、自分が主人公となって能動的に働きかける姿勢無しには前に進みません。“自分を育成する責任は自分にある”という自己責任意識が大前提なのです。
 何故、自己啓発や自発的やる気の喚起に拘って問題提起しているのか、先ずはそのことに触れておきましょう。

 気になることの一つに、受け身の人材育成論が当り前に闊歩していると感じられるからです。就活での企業の教育システム説明に対する薬学生の受け止め方が、正にその傾向を表しているように思えてならないのです。“御社の教育システムを教えてください”という質問の多さは、“私を育ててくれそうな会社かどうか”が、企業選択基準の上位を占めているからです。それが重要な選択基準であることに異論はありませんが、“自分を育てる責任は自分にある”ことは当り前の大前提であり、その自覚があっての選択肢なのかどうか、ということを問いたいのです。
 CSRやサステナビリティが注目され始めてきた企業にとって、人材育成に力を入れることは当り前のことです。学生の就職活動(企業の採用活動)において、教育システムが目玉商品の如くクローズアップされている実態に、その会社の総合力の未熟さが露呈されているように感じてしまうのです。何をおいても要員確保ということに目を奪われている姿勢に、立派な文言の企業理念が色褪せてしまいそうです。システムを図表として表現することは簡単です。大切なことは、ぶれない教育理念に基づいた全人的教育が志向されており、推進努力を惜しまず試行錯誤しているかどうかにつきるのではないでしょうか。
 そのような経緯があって、ここ数年、人材育成の本質に言及する機会が増えてきたのでした。

 話を本筋に戻しましょう。
 人材育成像を切り出した後は、“自己啓発とは何か?”についての自論を投げかけます。ここが育成のスタートになるからです。二つの資料を使って問いかけによる対話を試みております。
 一つは、数年前にまとめた教材「自己啓発とは、腹の底から納得するまで自分の頭で考え抜くこと」で、主にこの講話の目的について言及しております。
 もう一つは、自己啓発の定義の説明です。言葉が一人歩きすることを抑えるためであり、自己啓発の本質を理解して頂くためです。その内容は、次回以降のエッセイに譲りたいと思います。
 その上で、三つの質問を思いっきりぶっかけて、一人ひとりに考えて頂きました。
 さらに、その三つの質問の回答を、それぞれが本人自身の言葉で後輩や同僚に語ってください、と強調しております。学校薬剤師であれば小学生・中学生・高校生に、薬局長であれば部下に、経営者であれば社員に、実務実習の指導薬剤師であれば実習薬学生に対して、それぞれの対象者に応じた言葉を用意しましょう、と付け加えたのでした。
 
  質問1:勉強の目的は何でしょうか?
  質問2:その理由は何でしょうか?
  質問3:問題を解決したり、何かを創りだすことができるようになるためには、何が必要でしょうか?

 これが三つの質問です。三つの問いかけになります。
 しばらくの間は、誰かの受け売りでも構わないから、自分の言葉で組み立て直すように方向づけをして、50分間の講話を終えたのでした。
 最後に、この2回の講話での私の回答を掲載したいと思います。

 ◎回答1:勉強の目的は何か?
    ①自助力を身につけるため   *自助力:自分一人で問題解決できる能力
    ②共助力を身につけるため   *共助力:周りの人と共に問題解決できる能力
    ③心を耕すため          *心を耕す:人間性を高める、影響力を高める
 ◎回答2:何故、自助力なのか。共助力なのか。心を耕すのか?
    ①仕事は分業体制、つまりチームワークが基本。チームワークとは、自分の役割を100%果たすことが大前提。
     だから、一人で問題や課題を解決できることが必須要件。
    ②一方、仕事は流れです。仕事(役割)と仕事(役割)の境目に問題が発生する度合いが高いもの。
     だから、他のメンバーと共に問題解決できる能力も必須要件。
    ③現状維持では後退と同じ。何かを創り出すことが、やりがいにつながってくる。
     そのためにも、自助力と共助力がセットで必要となる。
    ④回答2の①②③達成の源は、人間性であり正しい心構え(行動理論)。だから、心を耕し続けること。
 ◎回答3:問題を解決したり、何かを創り出すことができるようになるためには、何が必要か?
    ①成功確率の高い問題解決の基本手順(PDCAサイクル、6W3H)
    ②問題解決の思考プロセスの修得
    ③家庭、小学校の義務教育から大学で学んだ全ての教育内容

                                           (2014.6.10記)

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