2005年4月から採用担当者つぶやきエッセイをスタートしました。2016年4月には、目指す方向性をより明確にした上でEDUCOの森と改名し、現在に至っております。気がつけば、27本の号外編を含めますと637本、19年と4ヵ月も呟き続けたことになります。それらの中から、中田薬局様のホームページに掲載させて頂いて13年になりました。その間、東日本大震災や熊本地震、新型コロナウィルス(COVID-19)渦がありました。さらに地球温暖化の影響と思われる気象災害が毎年発生し、今年は年初から令和6年能登半島地震に見舞われました。その都度、呟く言葉に戸惑って“エッセイの幕を閉じようか”と思い悩みながらも、問題意識の泉が涸れるまで言葉を紡ぎ続けております。
元日の能登半島地震テレビ報道を見聞きしながら、改めて家族や友人・隣人の大切さに気づかされました。公私を問わず必死に頑張っている方々、直接間接を問わず精一杯支援されている方々の姿には、“身体に気をつけてください。どうかお守りください”と、手を合わせて祈るしかありません。特に、耐えながらも現実を受けとめて、何とか前を向こうとする被災された方々からは、発する言葉の重みを痛感させられました。発災から8か月経ちましたが、真冬の風雪と寒さの中で不便を強いられながらも、感謝の意を示す被災者の表情から、東日本大震災のことが思い起こされます。そもそも日々の生活の中には、心の底から感謝しなければならないことが数多く存在します。そのことをどれだけ意識しているのか、平時の中で考えさせられることがあります。自分ファーストオンリーとは一線を画して、周りのことにも気にかけて感謝する姿勢を保っていれば、日々の生活がより豊かな景色を描いてくれるのではないでしょうか。私の今年の指針は、日常の触れあいや出来事に感謝して行動することです。エッセイ312回は、私の考える“日々、感謝したいこと”のいくつかを呟いてみたくなりました。
私の考える“日々、感謝したいこと”
数多くの項目が出てきました。その中から、特に感じていることを呟いてみましょう。
1.いま、誰かに頼らなくても生活できていること
後期高齢者の私は、複数のクリニックのお世話になっています。受診するたびに、健康でいられることが当たり前でないことを思い知らされます。そして、けがや病気を治してくれる医療システムと医療従事者の存在が、いかに有難いことであるかを実感させられるのです。喜寿を過ぎて、何とか自力で生活できていることに感謝しなければいけませんね。私の企画する新卒新入社員導入研修のオリエンテーションでは、人生の門出にあたって、七つの言葉を贈っております。それらは、社会人の諸先輩が、体験の中から掴みとったもので、その贈る言葉のトップバッターが「心身の健康第一」でした。78才目前の私は、家族だけではなく多くの方々のお世話になっているのです。いま元気でいられることに、心から感謝しております。
2.私のことを気にかけてくれる人がいること
家族や兄弟姉妹を始めとして、今でもつながっている友人・知人は、私が困った時に支えてくれる方々です。些細な相談事にも耳を傾けてくれますし、その時々の状況に応じて叱咤激励してくれたりもします。年に何度かの数少ない電話のやり取りですが、ホッとした気持ちへと誘ってくれます。忘れないで気にかけてくれていることを、ただひたすら有難く感じるのです。一方、私自身も、そのような方々を気にかけている“お互い様の間柄”です。遡ってみれば、そのような間柄の存在に対して感謝の念を強く感じたのは、10数年前の東日本大震災の時でした。
3.インフラが整備されており、点検維持されていること
我が家では、毎日の家事に関して分担制を敷いております。2年前から私の役割となったのが、ごみの分別と指定場所へ出すことです。担当して間もなく、ごみ収集車が、社会の目が覚めていない早朝から稼働していることに気づきました。“有難いなぁ!”と……。そんな思いが消えませんから、時々目にする違反ごみや乱雑なごみ出しには、怒りを感じてしまいます。
私たちの住む地域では、長い歴史の中で、水道・ガス・電気・電話・道路・交通・物流・医療・学校・公園・公共施設などのインフラが整備され、さらに継続して点検・維持されています。国民が分担しながら仕事として組織運営しているのです。それらのインフラが、何らかの理由で途絶えてしまった時のことを考えてみましょう。何の問題もなくインフラが正常に稼働し続けていることに対して、心底感謝しなければいけませんね。感謝を忘れずに日々生活していれば、世の中の現状に対する見方や行動のあり方が変わってくると思います。インフラとはインフラストラクチャー(infrastructure)の略で、日々の生活を支えてくれる基盤ですから、それらが破綻した途端、即生活が成り立たなくなります。そもそもインフラとは、生活インフラ、社会インフラ、知的インフラ、情報インフラ、産業インフラ、ソフトインフラなど多岐にわたっています。その内容を知れば知るほど、現状の在り様に感謝しなければいけません。
4.地域住民の治安を守ってくれる人がいること
夜半過ぎに何台もの消防自動車やパトカーのサイレン音に目を覚ます時があります。一昨日は、夜明け前に救急車の音を耳にしました。警察も消防も365日24時間年中無休の任務ですね。また、大災害などの非常時には、自衛隊が要請出動しています。それらのおかげで、社会の秩序や安寧が保たれていると思います。私達が枕を高くして床に就いていられるのは、決して当たり前のことではありません。地域住民の治安を守ってくれる多くの職種に、心から感謝する毎日です。
5.いつでも飲むことのできる水道水があること
日本の水道水はいつでも飲むことができます。水道設備はインフラの一つですが、災害や事故などによって断水した時の不便さを想像してみましょう。そもそも日本は水資源が豊富な国です。そんな国土と水道設備に感謝する気持ちを持ち続けましょう。脳裏に焼き付いている光景があります。地震の影響で断水していた水道が、ひと月ぶりに使えるようになりました。涙を流して手を合わせ、首を垂れてひたすら感謝している80才過ぎのおばあさんの姿です。
6.新鮮な食料品が入手できて、三度の食事を頂くことができること
地球上のあちこちで紛争が絶えません。そんな地域では、満足な食事を頂くことは不可能でしょう。難民キャンプの状況から想像できます。毎日朝昼晩の食事が頂けることは、当たり前のことではないと思います。感謝の気持ちを持って、三度の食事を噛みしめたいと思います。
以上、6項目について呟いてみました。そのほかにも“人の役に立つ仕事がたくさんあること”、“基本的人権が尊重されていること”など、取り上げてみたい項目がありました。また、未明から新聞や乳製品を配達してくれる方など、“いつも有難うございます”と感じている具体的日常が、数多く出てきました。
最後に、今回のテーマに至ったきっかけに触れておきたいと思います。それは、年初の能登半島地震と地球上のアチコチで起きている地域紛争です。日々の報道から、何度も感じ入ることがありました。これまでのエッセイで何度も呟いている“人としてのあり方”に関してです。人は一人では生きていけません。直接間接を問わず、多くの方々によるお陰様の世界で生きているのです。ですから、“平時の日常を大切に思い感謝すること”を大前提とした行動が、当たり前の規範なのではないでしょうか。さらに、“お陰様はお互い様で!”を前提とした対人関係が、当たり前の基本のキなのだと思います。あくまでも私的見解ではありますが、もう一つ触れておきたいことがあります。今の世界情勢を鑑みれば、私たちの住む日本にも、大小様々な問題・課題が山積みしています。そのような中で、長い歴史で培われてきた精神的財産に感謝の源泉があることも、今回の呟きを後押ししてくれました。その財産というのは、他者の気持ちを推し量ってお互いが満足しようとする心がけです。裏表のない“おもてなし精神”です。今回のエッセイは感謝の記念木となりました。すくすくと育って欲しいと願っております。
EDUCOいわて・学び塾主宰/薬剤師 井上 和裕(2024.8.2記)