企業が永続的に繁栄できるかどうかは、“企業理念の具現化”と“経営環境の変化への対応”という二つの幹を両立させることが必要である、と考えております。ですから、社員一人ひとりが、その二つの幹の両立を意識しながら、日々の仕事に取り組んでいけるような組織運営をすることが、経営者や管理者の実力を評価する重要なポイントの一つになるのだと思います。
社員育成を司る部署(以下、教育部門)は、これからを予見しながら、その相反するような二つのテーマの両立を意識した教育機会を、どれだけ的確に提供できるかが問われるのではないでしょうか。経営者の右腕としての機能を有する教育部門の専任担当者は、先ずその考え方の本質を理解して、さらには社員を動機付けできる教育機会を提供できることが、仕事遂行上の必須要件になってくるでしょう。20数名の部下を抱えた40歳を越えた有能な部門長経験者ですら、社員育成に四苦八苦しているケースに、何度も出くわしていたことの記憶が蘇ります。成果が見え難い人材育成の仕事は、ことほど左様に難しく心が疲れる仕事なのです。
さて、教材としてテレビ番組の録画に力を入れていた時期がありました。今から14年ほど前になりましょうか。そのために、VHSテープと8ミリテープの両方が録再可能のソニー製ビデオデッキを購入しました。
ビデオテープへの録画は、平成11年から始めて10年近く続けました。特に、始めてからの数年間の録画テープが多かったですね。全て高品質のVHSテープに録画しました。気がつけば120分テープが100本以上になっていました。
録画を思いたったのは、身近な出来事をケーススタディとして、自らを練磨していける教材の必要性を感じていたからでした。“企業理念の具現化”と“経営環境の変化への対応”を学ぶケーススタディ教材作成は、当時の私にとりまして優先度と重要度の高い課題でした。録画したのは、ドキュメンタリー番組や特別番組など、その時々に話題となったテーマのものがほとんどでした。それ以外では、医療に関するもの、人材育成に関するものをマークしましたね。平成12年からの3年間は、食の安全、企業不祥事に関するものが特に多かったことが思い出されます。あれから10数年、今も同じようなことが繰り返されていることに、ショックとガッカリ感、そして諦念感と白け感が、入り混じってしまいます。
昨秋、家の中の所有物を大整理しました。活用機会が減ってしまったビデオテープ群の減量にも着手しました。
先ず、現在も使っている20数本は保管BOXに整頓しました。それ以外は、おぼろげな記憶を辿って、気になるテープを50本ほど残しました。それらは、全て再生を繰り返して活用の可能性を探りました。約半分を残して、最終的には保存していたテープの8割を処分したのでした。
大整理という関所を通過したテープの中には、便利になった時代では置き去りにされてしまった、しかし、だからこそシッカリ向き合う必要性を感じる根源的事例が数多くあるのです。
年が改まってから、時間を作っては、40数本のテープを再生しては、その活用方法を考えております。そのほとんどが、私たちの日々の仕事のスタンスやあり方を考えさせられるものでした。その一例が今回のエッセイです。
カルテの裏側を考える:道下俊一(医師/元浜中診療所長)
録画した番組の中でも、NHKテレビの「プロジェクトX~挑戦者たち~」のものが、かなりのスペースを占めておりました。このプロジェクトXは、戦後から高度経済成長期までの産業や文化の様々な分野だけではなく、大事件、自然災害、医療問題、スポーツなど、多くの人々の挑戦と努力、その成果の紹介がテーマでした。登場人物の多くは無名の方々で、だからこそ勇気付けられることが多かったと記憶しております。平成13年(2000年)3月28日(火)に第1回がスタートして5年半の間放送されました。放送時間は、火曜日の21時からの約43分間でした。特別編を除けば、183本のプロジェクト作品が放送されたようです。
平成16年9月30日(火)には、「霧の岬 命の診療所」が放送されました。今から60数年前のことです。昭和27年3月、M8.2の十勝沖地震が発生しました。北海道浜中村霧多布は、地震による津波で深刻な被害を受けていました。翌年、その地にある当時の釧路赤十字病院浜中分室(浜中診療所)に、北海道大学病院から一人の医師が赴任しました。道下俊一さんです。それから半世紀の苦闘と地域医療の取組みを、プロジェクトXで取りあげられたのでした。
その中で、道下先生の一言に強く惹かれました。
『カルテの裏側を考える』という一言です。
その裏側というのは、その人の人生のことを指すというのです。
例えば、“親子、嫁姑の関係”であったり、“経済状態”も含めた人生を考えなさい、ということなのです。“その裏側が分かるようになって、初めて医療行為が出来ると思ってやってきた”という道下先生の一言は、薬剤師にも当てはまります。
『薬歴の裏側を考える』ということでしょうか。
録画をした10年前には、『カルテの裏側を考える』という一言は、私の心には残っておりませんでした。私の大学時代の卒論で取り上げました、岩手県旧沢内村の深沢村政に思いを馳せていたのでした。このことから、時代時代の情勢によって、その時々の置かれている環境や心境によって、気づくこと、惹かれること、教わることが違ってくる、ということが分かってきます。そのようなことにも気づかされたのでした。
その当時、先生のお手伝いを志願した定時制高校生がいました。16歳で志願した漫画家志望の加藤一彦さんです。レントゲン助手として、道下先生を支えたのです。その加藤さんの代表作には、浜中診療所が出てくるのです。その代表作とは「ルパン三世」ですから、レントゲン助手の加藤さんはモンキーパンチということになります。このプロジェクトXに出演していたのでした。
(2014.3.5記)