エッセイ63:薬学生の服薬指導演習にて模擬患者役を演じて

投稿日:2014年5月3日

 昨年の10月から12月は、当初思い描いていたよりも密度の濃い3ヵ月間でした。いつもより頭を使わなければ進まない課題に挑戦した結果、そう感じたのかも知れません。
 12月には、新たな経験もさせて頂きました。それは、現役薬学生の服薬指導ロールプレイング(以下、ロープレ)の患者役を依頼されました。その経験から、薬学部5年生の実務実習受入れ医療施設の指導薬剤師の方の参考に供したい、或いは考えて頂きたい内容をレポートしてみました。
 尚、私が演じた患者役のロープレ内容は、心臓に病を抱えての検査入院二日目で、午前中の診断で処方された薬の服薬指導という設定でした。2日間で、23名の薬剤師役の方の患者を演じました。

薬学生の服薬指導演習において模擬患者を演じて

私が感じた薬学生の課題
(1)いわゆる“あがる”ことによって、保有能力を十分に発揮できないまま終了してしまう。
   *このテーマは、多かれ少なかれ誰もが経験していることである。経験が浅い段階ではなおさらだ。
(2)何らかの理由によって、スタートでつまずいてしまい、最後まで尾を引いてしまう。
(3)トレイなどのツールの置き場所が特定出来ないまま、無駄な時間を費やしてしまう。
  さらに、説明しながら薬袋や説明資料を何度か置き直してしまい、落ち着かないままの説明に終始してしまう。入院患者は、不安感
  いっぱいであることを鑑みれば、その不安感がさらに増長される可能性も考えられる。
    ※ツール:トレイ、処方薬、患者情報、お薬情報、メモ用紙、バインダーなど
(4)説明を始めようとするのだが、その説明用資料がどこにあるのか見当たらず、忙しなく探してしまう。それが焦りにつながってい
  る。
(5)クロージングの後、退室しないまま演技を終了した方が複数名いた。
  また、最後に「お大事に(なさいませ)」を言わなかった人が、数名ほどいたと思う。
(6)指導者から、身なりについての指摘や注意が複数回あった。私も同感であった。
   ①前髪の長さ(前髪で顔の上半分が隠れている。何度も前髪を手で払う人もいた。この動作は、本人が気付かないまま自然に
    行っている)、②爪の手入れ、③白衣の汚れやしわ、など。
(7)今回の想定問答の中には、薬剤師が服薬指導を主導できる(あるいは、コントロールできる)箇所が少なくとも一つはあった。正
  に、コミュニケーション能力の問題になってくる。主導するコミュニケーションのあり方を、実務実習までに身体に沁み込ませたい。

   Q:何か 心配や不安に思っていることはありませんか? → A:父親が同じ病気で亡くなっているので、かなり不安です。

 いたわりの言葉、共感の言葉、うなずきの表情や同情の視線などのボディランゲージで、患者の心や思いに寄り添う対応をした方が何名かいた。その方々の気持ちが、模擬患者の私にも伝わってきた。そして、そのような薬剤師の卵の存在に接して、素直に嬉しく、それ以上に頼もしく感じた。患者の不安に接して、明らかに、共感の表情に変わった方、チョッピリ涙目になった方もいた。
 患者視点とか患者本位の対応とは、患者の心配事や不安、さらに思いや要望などを、より正確に引き出すことであり、引き出した後に共有化して共に考えることにつきる。それが、患者に寄り添う姿勢の一つにもなる。それこそが安心と信頼のコミュニケーションへとつながり、いわゆる“かかりつけ薬剤師”の丈夫な根っこになる。
 いま指摘したことは、コミュニケーション能力の重要な基本要素である“相手の立場に立って考える、対処すること”の自然な表現例であり、日常のコミュニケーションにおいても無意識に出てくるものだと感じている。今後は、状況に応じたコミュニケーションのあり方を、もっともっと意識して訓練しながら成長し続けることを期待したい。知行合一なり。

●課題を乗り越えるためのあり方〔例〕
 私の場合、30年近く企業内教育に従事し、その中で延べ15年ほど、営業担当者の商談(新製品の売込み、購買促進策の提案、売場作りの提案など)ロープレ、管理者の目標管理の面談(目標統合、期末評価、日常対話)ロープレなどの企画、モデル演技、研修トレーナー、コメンテーターを経験してきた。
 そこで身につけた考え方やノウハウによる課題克服のあり方や方法例について、上記の感じとった課題別に考えてみた。

(1)あがり防止の良薬なし、と肚を括る
   ①“誰でもあがるものだ”と開き直る。
   ②繰り返し訓練する。自助努力が自信につながる。   
   ③目標必達魂を強化する。
※稽古は本番のつもりで!本番は稽古のつもりで!
(2)スタートダッシュで弾みをつける → 訓練で克服する    
    ・ドアのノック、入室許可の挨拶は、慌てず、優しく、スムーズに。
    ・患者に近づいて自己紹介。
(3)段取り八分
    ・演習毎に、日頃から段取りを設定して、本番に備えておく。
    ・その上で、今までの授業や実習を振り返って、所定の準備時間の中で、服薬指導に必要なツールを選別し、使う順番に
     セットする。
    ・トレイの置き場所は、最初から決めて臨む。
(4)準備万端整えること~備えよ常に
    ・準備した段取りに沿って、落ち着いて演ずる。
(5)服薬指導はお薬情報を活用して、患者と一緒になって読み合わせるように、指で指し示しながら、正確に伝える。
(6)終わり良ければ総て良し
    ・“立つ鳥後を濁さず”なり。病室を退室するまで、患者に対して信頼と安心を抱いて頂ける行動の習慣化を目指す。
    ・最後の「お大事に(なさいませ)」という一言は必須!!
(7)第一印象の良否はあなた自身の日頃の行動習慣の鏡
    ・四年次なったら、外見や態度・行動について、日常どうあるべきかを把握しておく。
     さらに、日々点検を心がけ、意識してあるべき行動を実践する。
    ・ロープレ時やらない人、できない人は、医療人失格と自覚したい。
(8)共感姿勢を表現するための言葉遣いやボディランゲージのあり方を、日頃から考えて実践する。 このことは、私が提唱してい
  る「薬剤師である前に一人の人間であれ」を具現化するための道程の一つではないか!、というのが私見でもある。
    ・個人で考えて実践する。
    ・身近な同窓生との意見交換や議論を通して、学びあうことも奨励したい。
    ・実務実習の指導薬剤師にも、自分自身が薬剤師成りたての頃を思い起こし、
                      実習生は未成熟であることを踏まえて、根気強い指導をお願いしたい。

              (2014.1.23記)

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