エッセイ33:教え方のプロセスとコツ

投稿日:2013年2月7日

 新入社員導入研修の総まとめとして考案した、私のオリジナルカリキュラムがあります。カリキュラム名は、悩んだ末に“真のプロフェッションへの道”と命名いたしました。試行錯誤を繰り返して、現在の形になるまで2年半費やしたと記憶しております。スタートしたのが、20年近く前になります。進め方は、まず自分で考え、次いでグループ討議でまとめて発表し、それを元に対話しながら行動指針を作りあげるということの繰り返しです。基本パターンでは丸1日要します。このカリキュラムのおかげで、新入社員研修(期間は大体2週間から3週間)全体が、カリキュラムの継ぎ接ぎ状態から脱皮して、一つのストーリーとして完結出来るようになりました。各カリキュラムの狙いが連動して、研修全体が流れるようになったのです。
 このカリキュラムの中で、社会に出たてのビジネスパーソンの“ひよこ”に対して、毎回はっきりと言い伝えていることがあります。学生気分とキッパリ決別してもらって、これから始まる厳しい仕事の本番に臨む確固たる意識を形成するためです。
 「私のいうプロとは、仕事に対する対価を頂戴する人のことをいいます。これから申しあげることは、ごく当たり前のプロの世界なのです」と前置きをして、次のように続けます。
 「企業社会は、目標に対する結果で評価されるところです。何故なら、目標が達成出来なければ、近い将来、会社は死に絶えてしまうでしょう。会社が死に絶えたら、あなた方は路頭に迷ってしまいます。そのことを、しっかりと自覚してください。継続して結果を出せるようになるためには、どのような目標であっても、その目標を達成できるだけのスキルと達成意欲を身につけるしかありません。その道程(みちのり)は半端ではないでしょう。明日から始まる配属先での仕事を通して、プロとしての考え方とスキルを、何年かけても身につけることしかありません。そのトンネルをくぐり抜けない限り、真のプロにはなれないと心に刻み込んでください。
 もう一つ、結果の裏側には必ず原因がある、ということを忘れないことです。結果が良くても悪くても、そうなった理由が必ずあります。それが原因です。真の原因は、仕事のプロセスの中にあります。自分自身の仕事の進め方や達成意欲、知識・技能の習熟度、計画内容の精度、ライバルとの対処スピードの違いなど、原因の在処(ありか)は多岐にわたります。結果が出ない時には、真剣に真の原因を探り当てなければ解決しません。探り当てるためには、問題解決の基本手順を身につけなければなりません。
 皆さんは、今の話を聴いて、厳しい試練に思われるかもしれません。しかし、よ~く考えてみてください。このトンネルは、避けて通れないのです。通り抜けるためには、一心不乱に目の前の仕事を成し遂げ続けるしかありません。それが、“あの人はさすがプロ”と呼ばれる人になるための唯一の道なのです」
 今までの話を踏まえまして、今後は、部下を持つマネジャー(管理者)全員に呟きましょう。
「評価は、目標に対する結果で判断することです。一方、部下育成(人財育成)は、プロセス主義でやりなさい。そのためには、明確で具体的な努力目標を明示出来なければなりません。目標達成のための具体化計画を策定させなければなりません」と。その理由は、結局、日々の出来事や仕事が教材であり、最高の育成機会だからです。部下は上司を選べません。一方、上司も部下を選べません。そのことをお互いに理解しあうことから出発しなければなりません。
 業績向上も人材育成も、管理者の最重要任務です。それを両立するのが管理者の仕事です。だから、給料も一般社員よりも高いのです。部下育成(人財育成)はプロセス主義と申しあげましたが、そのためには、部下を日々どれだけ意識して観察し、時間を作って対話しているかにかかってきます。人間には感情があるからです。育成することが出来るようになるには、管理者自身が効果的効率的な教え方を身につけていなければなりません。教え方にも基本プロセスがあるのです。
 前置きが長くなりましたが、今回のテーマは、その教え方の基本プロセスにしましょう。

教え方のプロセスとコツ

 私たちは、繰り返し繰り返し実行することでしか、様々なスキルややり方を身につけることが出来ません。それは、誰かに言われてやるのではなく、主体的に行動することでしか為し得ません。教育手法の3本柱の中で、自己啓発が一番大切である、と言われる所以ではないでしょうか。
 しかし、全く未知のことを独力で学ぶというやり方は、決して賢いやり方とは言えないように思います。効果的効率的(効果が優先されなければならないので、効率的効果的ではない)に、正確なやり方を楽に早く身につけるためには、その道のベテランから学ぶのが一番なのです。積極性や自主性は否定しませんが、独学は間違ったやり方が身について、我流に陥ってしまう可能性も高くなるのです。結局、無駄な時間を費やしてしまうだけではなく、間違ったやり方が身についてしまって後の祭り状態に陥ってしまいます。
 そこで、上長(管理者、マネジャー)の出番になります。
 そうなりますと、その上長の教え方や学ばせ方によって、成長の度合いに大きな影響を及ぼすこという現実にも目を向けなければなりません。そうなのです、教え方にも基本プロセスがあるのです。特に、スキル(技能とも言い、知っているだけでなく出来るという段階)を身につけさせるためには、必須の基本原則といっても過言ではありません。
 その基本ステップは、指導効果を高める5つのステップから構成されております。

ステップ1 訓練項目と内容を分かりやすく説明する:解説
 訓練者(部下)に対して、身につけたい項目と内容について、“何を(WHAT)、何故(WHY)、どのように(HOW)”やるのかを、訓練者が理解できる言葉で分かりやすく解説する。時間を要する訓練項目については、“何時までに(WHEN)”という期限目標を決めることも大切となる。

ステップ2 訓練項目を実際にやってみせる:模範
 指導者(上長)が、訓練項目を実際にやってみせる。模範演技をするのである。実演をやりながら、今何をやっているのか、訓練者が十分理解できるようにすることがポイントとなる。分からなければ、分かるまで何度も実演して見せることも必要となってくる。

ステップ3 訓練項目を実際にやってもらう:模倣
 訓練者に、実演した通りに真似してもらう段階。最初は、模範演技のように出来ないことの方が多い。間違ったり、ぎこちなかったりしても、決して焦らないことだ。内容を十分に観察し、及第点と改善点を把握することが大切となる。

ステップ4 訓練項目を点検して、正しく出来るようにする:矯正
 及第点と改善点を分析して、どこが、どのように良いのか(悪いのか)を、はっきりと解説することである。大切なのは、自信をつけさせることだ。そのためには、先ず及第点を誉めること、称賛すること。さらに、何故及第点なのかを、本人から言ってもらうことも一法である。その後に、改善点を順序立てて説明すること。
 改善点は、訓練者が明確に理解するまで、再度解説し、実演してみせる。その上で、正しいやり方が自信を持って出来るようになるまで、繰り返して実演させる。

ステップ5 訓練項目が習慣化するまでフォローする:躾
 訓練項目にもよるが、何回も繰り返して訓練しないと身につかないことの方が多い。時々、ステップ3に戻って復習訓練すること。日常の行動観察で合格点がでたら、訓練項目を卒業したことになる。

 以上が、効果の上がる効率的な教え方の基本プロセスになります。再度申しあげますが、スキルを身につけさせるためには、途中で諦めない根気が勝負の分岐点と心得て頂きたいのです。そして、その大元は、愛情と責任感であることを、しっかりと肚に落とすことです。覚悟することです。「愛情なくして育成無し」ということにつきます。
 その愛情の中身は、優しさだけではありません。厳父と慈母の両面を併せ持った愛情のことを指します。考え違いをされている方が多いので、敢えて付け加えました。
(2013.1.30記)

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