*今回のエッセイは、昨年11月に呟いたものです。私と交流のある薬剤師の方々への問題提起が、大きな目的でした。以下、そのままご紹介させて頂きます。
先々月(2011年9月)入手いたしました「国語に関する世論調査」結果データを見ております。この調査、国語施策立案の参考にするためのもので、文化庁が平成7年度から毎年実施しているようです。平成22年度の調査時期が平成23年2月で、調査対象は全国16歳以上の男女となっておりました。
その中には、慣用句などの言い方や意味についての調査もありました。
言葉の意味では、“どちらの意味だと思うか”という設問になっており、五つの言葉をあげて尋ねていました。五つの言葉の一つに、以前のエッセイで苦言を呈した「号泣する」がありました。
その調査結果を見ながら、1年半前のエッセイを思い浮かべておりました。今回のエッセイは、言葉を荒(あら)げる勢いで、再度物申したくなりました。
“言葉を磨くことが、考え方を磨くことになる”
平成22年度の世論調査は、“言葉に関心があるか”に始まって、“慣用句等の認識と使用”まで全部で13項目の内容と結果データが、24ページにわたって報告されていました。
12番目の“言葉の意味”では、『情けは人のためならず』、『雨模様』、『姑息』、『すべからく』、『号泣する』の五つの言葉をあげて、どの意味を使っているのか尋ねる形式でした。
『号泣する』の問いかけ方と回答比率は、以下の通りでした。
例文:悲しみの余り、号泣した。
(ア)「大声を上げて泣く」という意味 ・・・・・・ 34.1%
(イ)「激しく泣く」という意味 ・・・・・・・・・ 48.3%
(ア)と(イ)の両方 ・・・・・・・・・・・・・ 14.8%
(ア),(イ)とは全く別の意味 ・・・・・・・・・ 1.0%
分からない ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1.8%
さて、皆さんはどう答えましたでしょうか?
正答は、(ア)「大声を上げて泣く」で3割台半ばでした。年齢別では、20歳代と60歳以上が38%台で、40歳代では28.5%、16~19歳が25%という結果でした。
私は、「大声を上げて泣く」も「激しく泣く」も『号泣』と思っていました。改めて国語辞典を引くと、「大声を上げて泣く」になっていました。類義語として出ていた『慟哭』が、「(悲しみのあまり、)激しく声を上げて泣く」という意味でした。
話しを、以前のエッセイ(いのうえ塾の第193回)に戻しましょう。
タイトルは“このような言葉遣いを、どのように思われますか!?”です。それは、テレビのアナウンサーやコメンテーター、テレビ出演者が頻繁に使っている『号泣』に対する違和感でした。新聞の見出しにも、登場することがかなりあります。
ちょっと涙した程度に号泣、もらい泣きにも号泣、泣き方の程度に関係なく号泣、その使い方に対する問題提起をしたのでした。号泣に限らず、いくつかの言葉遣いに対して、ずっと気になっていたことが爆発したのでしょうか。ましてや、言葉遣いのお手本であることが当り前であり、影響力がことのほか大きい公共放送のアナウンサーやコメンテーターが、平気で使っているのです。
言葉のプロが使っている号泣の大間違いに比べたら、今回の世論調査結果の回答結果は、大して問題にすることはないように感じています。だって、2年前と比べるまでもなく、調査よりもっと間違った意味の号泣乱発が、テレビ放送で相変わらず氾濫しているのが実態と感じております。
改めて強調しましょう。
“もっと勉強しなさい”と。使う言葉に対して“高い問題意識と自己責任を持ちなさい”と。もっとプライドと覚悟を持って、正しい意味の言葉を使って頂きたい、ということです。そして、年に数回でいいから、自分の発した言葉を検証して“言葉を使う仕事をする資格があるのかどうか”を、謙虚に振り返って頂きたい。影響度を鑑みて、それでもやり通す覚悟があるのかどうか、年に一度の誕生日にでも看脚下して頂きたい、と常々思っております。
このエッセイは、限られた方々にEメールで配信しているだけです。そのようなことから、私の苦言が、アナウンサーなどに届くことはありません。でも、お読み頂いている方々の多くは調剤薬局勤務者や薬剤師です。皆さんも言葉を通して患者さんや生活者に向き合う仕事です。使っている言葉、使う言葉に魂を入れて、意味が正確に伝わることが絶対条件の一つであるという自覚が必要です。絶対不可欠です。そのように考えると、この苦言は皆さん方にも当てはまることです。
意味が不確かであったり、意味が分からない言葉は、必ず辞書や書物で調べることを、行動指針としてください。そして、“生涯を通じて謙虚に学び続けるという誠実な姿勢をもち続けること。それは、人間に付与された他者への感謝の表現である”という考え方を、心に刷り込んで対処して頂きたいと切望しているのです。
以上、「国語に関する世論調査」結果からの苦言と提言でした。
(2011.11.10記)