エッセイ327:中田薬局新入社員への私からのメッセージ:入社11ヵ月後

投稿日:2025年4月21日

 私が企画運営する新入社員研修では、初年度の総まとめとしてフォロー研修(全3~5回)の最終回を入社翌年の2月か3月に開催します。入社してからの11ヵ月を謙虚な姿勢で振り返り、2年目の課題と目標を明らかにすることが目的です。このプロセスは、PDCAサイクルをスパイラルアップするための重要な関門といえましょう。私は、このような節目の教育機会において、相当の時間を割いて、一先輩としての思いを語るようにしております。国家資格である薬剤師有資格者が、人間の幸せを追求し、地域生活者のニーズやウォンツに応えていくことで、薬剤師法で負託された職責を全うすることを強く願っているからです。これまでのE森で、私の思いを何度か紹介しました。今回は、6年前の中田薬局新入社員フォロー研修最終回で語りかけた思いの全文を紹介したいと思います。

中田薬局新入社員への私からのメッセージ:入社11ヵ月後

 新入社員フォロー研修最終回のまとめとして、10年先を目途にした、私が考える“医療従事者としてこうなって欲しい”という理想像を申しあげたいと思います。その一つが、「自助力」と「共助力」を兼ね備えた医療人になって頂きたい、ということです。「厳しさ」と「優しさ」を兼ね備えた医療人と言い換えても良いでしょう。「冷静(Cool)な判断力」と「温かい(Warm)ハート」という表現でも良いですね。私見の真意を理解して頂くために“「厳しさ」とは何か”、ということからお話ししましょう。

 先ず、“誰に対して厳しくするのか?”ということから考えてみましょう。当面は、自分自身に対してです。当面というのは、修破離の修を卒業するまででしょうか。厳しくする対象は、“決めた目標を、計画通りに百%達成する”ということです。“決めたことを、決めた通りに、何が何でもやり通す”ということに尽きると思います。余談ですが、これまでの学校では百%達成は5段階評価でいうと「5」かもしれません。企業社会では、百%やって当たり前ですから、評価は「3」(普通=当たり前)なのです。このことを、しっかりと認識しておかなければなりません。基本修得までの段階における厳しさで大切なことは、“実行したかどうか”だけなのです。何もしないで、基本スキルが身につくことはあり得ません。実行を通して、基本修得の三年間、いや十年間にすることです。現在までの研修所感を拝見する限り、まだまだ厳しさが足りません。プロへの道をスタートして1年弱ですから、それは当然のことであり心配無用なのですが、気を引き締めてください。よく目にする現象なのですが、失敗したり、思うようにいかない場合、ついつい言い訳することです。他人や会社のせいにしたくなることもあるでしょう。他律要因というのは、自分の力ではどうにもなりません。自分の人生は、自分自身で作るものです。改めて、克己心・自助力の意味と意義をしっかりと意識しながら、基本をシッカリと身につけて頂きたい。存在価値の高い医療人になるためには、今の三倍、五倍の学びと行動が必要なのだと思います!

 次は「優しさ」についてです。優しさの原点は、何度も申しあげている『自分の事:相手の事=49<51』の姿勢を意識することです。昨年は〇〇ファーストなるものが幅を利かせていました。そこまで言わなくても、私たちの日常は『自分:相手=70>30』どころか『80>20』が実態ではないでしょうか。その様な日常の中で、医療という仕事の使命は、“相手の立場に立って考えることが基本なのだ”と思います。“患者さんのため”、“生活者のため”、つまり“誰かのお役に立つ”ということです。そのための基本スタンスは、『自分:相手=49<51』というのが私の見解です。100分の2の違いが重要なのです。そうは言っても、現実には、相手の立場に立つことは不可能かもしれません。大切なことは、そんな実態を認めた上での一人ひとりの心がけの問題なのです。生き方の問題なのです。

 私たちの仕事は、患者や生活者、会社の同僚、他職種の医療従事者との対話によって成り立つ仕事です。信頼と安心のコミュニケーションがあって、初めて専門的技能が活かされる仕事です。この機会に、改めてコミュニケーションの定義を復習して、そんな姿勢を貫いて欲しいと思います。そのためにどうするのか。基本は、傾聴することです。患者さんが、同僚が、或いは他職種の皆さん、他職場の皆さんが、遠慮しないで自分の思いを率直に発することが出来る環境を作ることです。その魔法の杖は、傾聴なのです。何度も申しあげてきたことです。もう一つ考えて頂きたいことがあります。それは、他人と対話をする時、誰かに何かアドバイスする時、或いは指摘・注意・提言をする時には、心に赤信号を点(とも)し、数秒間立ち止まって、こう呟いてジャッジして欲しいのです。「この表現(言葉、言い方、態度)で良いのだろうか?」、「どんな言い方をしたら対話が弾むのだろうか?」、「理解してもらうためには、どのような言葉を使えば良いのだろうか?」…と。そんな時間を持つことを躾化して欲しいと感じています。さらにもう一つ提案したいと思います。一人ひとりの矜持として身につけて頂きたいことです。それは、大切だと思うこと、絶対にここで言わなければいけないと思うことは、本気になって話して欲しい。必ず、その理由を添えて話して欲しい」ということです。それが、本当の優しさではないかというのが私の見解です。以上、時間を作って、いくつか申しあげた私の見解を考えてみてください。

 私は“人間の誠意は通じる”ということを信念に仕事をしてきました。しかし、現実は通じないことの方が、ずっと多かったと思います。180度異なる捉え方をされたことも、何度かあります。かなり以前のことですが、裏切られたようなこともありました。その傾向は、現在でも、概ね変わりありません。でもいいのです。「騙されたって構わない。でも、騙すことはしてはいけない」と。感受性が乏しい方は別にして、人間騙すことが出来たとしても、騙した人は一生その事を心の中に突き刺して生きていくのだと思います。そんなこと、私なら堪えられません。皆さんには、健全な感受性を持った人間健全な判断基準を持った人間になって欲しい。人間を愛(いと)おしく思える人間になって頂きたいのです。それが、他人への優しさであり、自分自身に対する厳しさなのだと思います。今回は、厳しさと優しさについて、皆さんに考えて頂きました。さらに踏み込んで、皆さん方に期待したい理想像を差しあげて、初年度の新入社員フォロー研修を締めましょう。

  自燃性人間(自己動機づけのできる人間)になれ/自ら燃えて、そのエネルギーを周囲の人間に分け与える人になれ/パーソナル・インフルエンス(影響力)の高い人間になれ/アクティブ・マイノリティ(多勢に対して、正々堂々と異を唱える人)になれ。そのための実現条件が二つあります。仕事と学ぶことが好きになること。好きになるまで修練することと、人間を好きになること。Y理論の人間観を絶対的信念にすること」です。

 さて皆さんは、この一年近くの間、私の思いに対して、精一杯応えようとしてくれました。理解しようと努めて、行動レベルで応えてくれました。そのことが、何よりも嬉しく感じております。心から、感謝申しあげます。有難うございました。一方、スタートしたばかりのひよこであることに変わりはありません。これからも、様々な壁にぶつかるでしょう。どう対処したらいいのか分からずに、右往左往することが何年間も続くでしょう。そんな時、頭がイッパイで手につかない時は、このことを思い出してください。成長の秘訣は、「継続は力なり」「積み重ねは力なり」です。表現を変えれば、小石(小さな実行体験&学び)を、コツコツ積み重ねることです。積み重ねてきた形(分野)の異なるバラバラの小石(知識・技能・ノウハウ・引き出し)が、ある時に考えもしなかった結晶となるのです。古希を過ぎて、自信を持ってお奨めできる秘訣です。10年後には、押しも押されもせぬ本物のプロフェッショナルに成長していることを願っております。  以上

 用意したメッセージのコピーを配布して、30分かけて対話しながら伝えた内容です。この思いは、今でも変わりません。そんな感覚で振り返ってみました。

    EDUCOいわて・学び塾主宰/薬剤師 井上 和裕(2025.2.28記)

【参考】エッセイ317回:共に学んだ新人薬剤師への激励句(2024.10.18記)

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