新年度を迎えました。現役世代の皆さんは、どのような年度目標を掲げて、厳しい経営環境を乗り越えようとしていらっしゃいますか。目標達成に向かって日々精進すれば、少々の壁やストレスがあっても乗り越えることができるでしょう。モチベーションを維持しながら、仕事を楽しむ余裕も生まれてくるのではないでしょうか。77才の年金生活者である私は、ライフワークとなりましたエッセイを通して、その時々に気づいた問題提起を続けることが目標です。企業の社員育成と採用の旗を降ろして一年近くになります。当然のことですが、仕事現場から足が遠のいてしまいました。実態とかけ離れることのないよう気配りしながら、身近な仲間との交流から得られる現場情報を介して、何らかの表現でブツブツ呟いていく心積もりでおります。心身の衰えをつくづく実感しながらも、弱気にならず何とかモチベーションを保って問題提起や課題提言を続ける所存です。年度初めのエッセイ304回は、これまでの40年近い人材育成の仕事において、ブレることなく実践し続けてきたことを呟いてみたいと思います。振り返って総括してみれば、そのいくつかは“やり続けて良かった”と評価できることでもあります。その中から、主に研修運営に関する2点を取りあげてみましょう。
研修や日常の育成機会において実践し続けた私の指導ポイント
研修運営担当者として実践し続けると決めたことの一つは、何をおいても“準備万端整えて対処する”ことでした。1986年10月にTK販売の専任教育担当に任命されて、イの一番に実践し始めて現在に至っております。私自身が講師として担当するカリキュラムは、意識して念入りに準備したと思います。最終的な目標は、“研修教材を見ないで進める”ことでした。教材を見ないということは、“何ページの何行目に何が書かれているのかが分かっている”というレベルを指します。寝る時間を惜しんで、かなりハードな教材研究に没頭しました。枕元には、ペンとメモ帳、懐中電灯を置いて、気づいたことは24時間メモできるようにしたことが、何とも気恥ずかしく思えます。実践し続けて5年ほど経過した頃から、心的余裕を持って受講者と向き合えるようになりました。その時々の状況に応じた進め方を調整出来るようになってきました。そのようなレベルに達してくれば、無意識の内に、より難易度の高い目標を目指すようになります。特に力を入れたのが、経営環境の変化に即応した新たなカリキュラム作りへの挑戦でした。“継続は力なり”、“積み重ねは力なり”ということを実感するようになったのは、準備万端整えることを実践し続けたからだと思います。この行動姿勢は、今でも私の身体に染みついております。
もう一つは、今回のエッセイにおいて、特に取りあげたいと考えていたことになります。教育担当成り立て前後の研修は、商品知識を含めた新たな知識教育がメインでした。ですから、教材やマニュアルがあって、各担当者からの説明を受け身で学ぶというワンウェイコミュニケーション的な進め方になります。それはそれで、研修目的に沿っているということになりましょうが、“人材育成の目的の根幹は何だろうか?”、“ワンウェイ形式の進め方は、社員育成にどれだけ貢献しているのだろうか?”、“現状の育成機会とやり方で、果たして良いのだろうか?”というように、いくつかの問題意識が、日を追う毎に膨れあがってきました。ある時、社員の育成課題を明らかにした教育体系を構築しなければ、現状抱いている問題意識が解決されないことに気づいたのです。その経緯と方向性は、エッセイ300回(2024.2.2記)で取りあげました。
先ず、“社員一人ひとりの潜在意識と潜在能力を引き出し、自己啓発・相互啓発できるようにすること”を育成課題にしました。「教育とは何か?」の自問に対する回答でもあります。さらに、“自ら考え、自ら判断し、自ら取り組み、自ら行動するというセルフマネジメント力強化”を、もう一つの柱にしてスタートしました。その上で、その育成課題を達成するための私自身の行動指針を策定したのです。その行動指針は、社員に対してキチンと向き合うことの意思表示であり、倦まず弛まず自己研鑽し続けるという決意表明でもありました。それが、今回取りあげます“研修や日常の育成機会において実践し続けた私の指導ポイント”になります。いざ宣言したものの、経験が浅く実務能力が未熟な私には、成果に結びつく自信などありません。しかし、その都度、我武者羅に具体的な対処法を考えて実践することを怠りませんでした。その姿勢が功を奏したのでしょうか。何年かして、意図することが根付き始めつつあることに気づいたのです。それでは、5項目からなる“研修や日常の育成機会において実践し続けた私の指導ポイント”を紹介したいと思います。
★研修や日常の育成機会において実践し続けた私の指導ポイント
1.受講者・チームメンバーにやる気や好奇心を抱かせる~学ぶことは楽しいこと、自分の身になること~
2.重要な点とそうでない点をはっきり区別して教える~重要な点=幹の部分 / そうでない点=枝葉の部分~
3.考え方の筋道と正しい手順を教える~筋道とは;主旨・経緯(なぜ)/ 正しい手順:プロセス・流れ~
4.学び方や知識の在処を教える~教えるとは、自力で解決できるようにすること~
5.学ぶことに対する基本スタンス(行動理論)を矯正する~学ぶ機会があることに感謝する思考習慣/自力で心を耕し、人格を磨き上げる行動習慣~
この指導ポイントは、全ての研修カリキュラムにおいて、進め方や教材研究する時の必須着眼点と位置づけました。各カリキュラムの実施予定時間の何倍、何十倍もの時間を費やして、私自身が一から学ぶことを課したのです。今思えば、これこそが、“準備万端整えて対処する”ことの本質的側面と思えてきます。各項目のねらいや意図に関することは、これまでのエッセイで言及してきました。今回は、40年近い人材育成の仕事で、愚直と言えるほどに実践し続けてきたことを紹介しました。私自身は“やり続けて良かった”と総括しておりますが、そのことに対する評価は、関わりのあった方々にお任せするしかありません。評価結果がどうであれ、自分自身の顧客のためになることを、信念を持って実践し続けることこそが、あちこちで意識されるようになったSGDsの真骨頂ではないでしょうか。
EDUCOいわて・学び塾主宰/薬剤師 井上 和裕(2024.4.6記)
【参考】エッセイ126回:日常の社員教育の指導ポイント(16.6.22記)/エッセイ300回:この研修は、あなた方自身の考えを、あなた方 … 創り上げる機会です(24.2.2記)