新卒者の採用に携わって40年近くになります。ゼロベースからのスタートでしたから、目の前にある仕事と課題を、一つひとつやり終えることで手一杯でした。目的を理解して取組むというレベルには、ほど遠い進め方だったはずです。成果に結びつくレベルに達するまで3年を要しました。計画通りの成果を生み出す実力がついたと自覚できたのは、それから5年はかかったでしょう。お手本もありませんでしたから、試行錯誤の日々で、とにかく必死でした。今思えば、だからこそ、自力で考えて、一から作り上げることが当たり前という行動様式が身についたと思います。そんな中で、手応えを感じながら、楽しんで取り組むことが出来たことがいくつかありました。その一つが、新社会人となる方々の採用試験問題作成と面接方法の企画でした。今回のエッセイは、その時の様子を呟いてみましょう。
問題:1+1+1=3+αを、言葉で表現しなさい
これまで、5社の採用業務に携わりました。最初に手掛けたのが日用品卸売業で、主に大学新卒者が対象でした。その中で、採用試験問題作成と面接方法の企画に関するチョッピリ鼻の高い自慢話を紹介したいと思います。当時としては、かなり画期的だったと自負しております。注目して頂きたいは、その着眼点です。今のような時代環境にこそ取り入れて欲しいと思える内容なのです。
選考試験の企画から紹介しましょう。先ず、選考試験の目的と選考評価基準を明確にすることからスタートしたことは、今でも忘れておりません。客観性と俯瞰的・複眼的視点を意識して、適性検査と筆記試験の両輪作戦でGOすることにしました。適性検査については、筆記試験や面接では分からない側面を見極めることの出来る検査方法を探りました。具体的には、性格の普遍的側面、行動面の特徴などです。また、時間をかけずに自力で手軽に実施可能な方法であることも考慮したと記憶しております。いくつもある中から、内田クレペリン検査にしました。初年度は、自社内で判定できませんから、結果が分かるまで1週間のタイムラグが生じました。そこで、内田クレペリン基礎技術認定講座に社員を派遣して、次年度からは自力でリアルタイムに判定できるよう対処したことも忘れられません。
筆記試験は、読み書き算盤を含めた基礎能力を判断する問題にしました。市販の採用試験問題集を10数冊購入して、問題の表現方法、具体的な問題内容を調べることから始めてみました。それらの情報を参考にしながらも、自力で考えることに方向転換したと思います。いくつかの候補問題を作成して、若手社員に実際に解いてもらいました。何度も練り直しながら、正答の無い異色のオリジナル問題を一問だけ組み込んだのです。それは、「1+1+1=3+αを、日本語で表現しなさい」という問題です。それも、その問題の回答によっては、他の問題が零点であっても内定候補者に推薦するという位置づけにしました。採用予定者数が二桁であったことから、多様な人材を確保したいということが理由だったと思います。皆さんもチャレンジしてみてください。私の考えた回答は、次回以降のエッセイで紹介させて頂きます。
面接については、一次面接の進め方に工夫を凝らしました。受験者数が80名前後だったことから、グループによる同時進行の質疑応答形式としました。1グループ10~12名として、各グループに役員・部長クラスと若手社員が数名入って進行役を務めます。予定時間を40分前後としながら、進行状況を観察して適宜臨機応変に対処しました。この方式の主眼は、役員と上級管理者に新卒採用業務の重要性と選考の難しさを認識してもらうことでした。さらに、受験者と直に接することで、内定までのプロセスと評価の多面性を理解してもらい、入社後の育成に対する動機づけが促進されることを期待したのです。
当時と現在では、時代環境はもとより、採用や人材育成に関する考え方や方途に大きな違いがあるでしょう。大切な着眼点は、どのような仕事であれ、課題の本質を明らかにして、自力で考えて試行錯誤し続けることではないでしょうか。それも、目先の成果だけに眼を向けるのではなく、長期的視点で見極めることを意識することだと思います。そんな思いが、今回のエッセイの根底に流れていることを強調しておきます。
EDUCOいわて・学び塾主宰 井上 和裕(2023.8.5記)