エッセイ286:人は一人では生きていけませんね

投稿日:2023年9月5日

 速いですね。採用と社員教育の旗を降ろして半年が過ぎました。そんな中で、ライフワークと決めたつぶやきエッセイでは、“山びこが響き渡るように”とまではいかなくても、魂をこめて呟き続けております。最近は、時間的余裕が精神的余裕を与えてくれたのでしょう。数ヵ月前から、つくづく風に感じることが、いくつか沁み出してくるのです。感じることと言っても、これまでの人生を思い返して“やっておけば良かった”という後悔の念やボヤキがほとんどではありますが…… 。察するに、私の性格的側面の産物のような気もしますが、失敗にもめげず精一杯全力投球し続けた結果でもあります。いくつもの要因が積み重なった状況であることを認識しながら、つくづくと身に沁みて感じること、挑戦しておきたかったことなどを含めて、後ろ向きにならぬよう大らかな問題提起をこれからも続ける所存でおります。

 今回は、研修を含めた教育機会の根幹として問いかけ続けてきたカリキュラムを取りあげてみます。いのうえ塾教育機会の全教材の中で、時代が変わろうとも、何をおいても残しておきたいページの紹介です。

人は一人では生きていけませんね

 私が企画運営する新入社員導入研修に、『人生と仕事』というカリキュラムがあります。人生における仕事の意味や意義を考えて、人として今後どのように生きていくのかという自身の考えを意思決定することがねらいです。その中で、次のような問いかけをしております。

 「人」や「人間」という文字の成り立ちを考えてみたいと思います。「人」は、“あなたが私を、私があなたを支えている”というように見えませんか。

 「人間」は『にんげん』と読み、“人は多くの人の間に存在する”ことを意味します。また、同じ文字を『じんかん』とも読み、あの世に対するこの世を指し、“人の住む世の中”という意味になります。

 このようなことから、私達が日々生活している場や空間そして関係は、お互いがお互いを支え合っていることを表しているのだ、と思えてきます。

 よく考えてみれば分かることですが、人は一人では生きていけませんね。今の自分があるのは、どれだけ多くの方々のお世話になったことでしょうか。この機会に、考えてみましょう。一人では何もできませんね。仕事もそうではないでしょうか。多くの仲間や協力者の支えがあって成就し、その中で自分自身も成長しているのです。

 もう一つ考えてみたいことがあります。人は誰でも、長所と短所を併せ持っています。自分を大事にしたいのであれば、他人の個性や存在を認めなければいけません。人は相身互いだということです。 ……

 紹介した文言は、新社会人に対して、30年以上も前から、意識して向き合って欲しい課題として問いかけている内容です。その理由は、“お互いがお互いを支え合う”、“人は一人では生きていけない”、“人は相身互い”という生き方の原点となる共生という考え方が、私たちの周りから徐々に消えてしまいそうな気がし始めたからです。そのような傾向が、何とも口惜しかったのです。今でも、そう感じ続けております。

 そんな問題意識が常に頭から離れないからでしょう。6年前の2017年のことです。放送作家で作詞家の永六輔さん(1933年~2016年)の「生きているということは」という詩に出会いました。一行目の22文字を耳にしたその瞬間、吸い寄せられるように、一字一句漏らすまいと必死にメモしました。以来、いくつかの研修カリキュラムのまとめの中で、人としてのあり方を見詰め直す機会として、じっくり姿勢で朗読しながら問いかけるようになりました。

    ~生きているということは~

 生きているということは 誰かに借りをつくること

 生きていくということは その借りを返してゆくこと

 誰かに借りたら誰かに返そう

 誰かにそうしてもらったように 誰かにそうしてあげよう

 生きていくということは 誰かと手をつなぐこと

 つないだ手のぬくもりを 忘れないでいること

 めぐり逢い愛しあいやがて別れの日

 その時に悔やまないように 今日を明日を生きよう

 人は一人では生きてゆけない  誰も一人では歩いてゆけない

 朗読後、“あなたが感じたことを披露してみませんか?”という問いかけを通して、グルグル回りの応答の対話を進めていきます。私見を押し付けることも、結論を出すことも求めません。考え方は十人十色を前提として、一人でも多くの他者の経験や思いに耳を傾け、多種多様な考え方を知り、自分自身の考えを見直すきっかけになってくれることを願っているのです。人の考え方の原点には、これまでの人生経験や現状実態がかなりのウェイトで影響していると思います。“理想はそうかもしれないが、今の私にはそう考える余裕なんてありません”という方がいらっしゃいました。ぶっきらぼうに、“そう言われても、私には実感がありません”と言い切った方の顔を思い出しました。日々生きることで精一杯な方、いじめられたことがトラウマになっている方、他人とのコミュニケーションが苦手な方など、それぞれが事情を抱えて生きているのです。問いかけに対する現状の考え方が何であれ、これからの人生で行き詰まった時に再見することを、最後に付け加えております。

 それにしても、地球上のアチコチで、○○ファーストが蔓延っているように思います。自分さえ良ければ……、という傾向が大手を振って歩いているように感じています。だからこそ、「人は一人では生きていけません」と呟き続けたいのです。私一人の力では如何ともし難いと思いながら、“人は一人では生きていけません。人は相身互いなのです”と問いかけ続けようと、梅雨空を眺めながらつくづく感じている今日この頃の私です。

    EDUCOいわて・学び塾主宰 井上 和裕(2023.6.30記)

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