エッセイ269:あの人は、今何をしているだろうか? 

投稿日:2022年12月20日

 私が教育責任者に就いた時、イの一番に着手したのが、六百名前後の社員全員の顔と名前を一致させることでした。さらに、社員全員の氏名を、正確に自筆出来るようになることでした。合併会社でしたから、八割強の社員とは面識がありません。目の前の多くの課題と格闘しながら、その間隙を縫って取り組みましたから、達成するまで相当の日数を要したと思います。人事考課制度を運用する実務責任者でもありましたから、社員全員の顔と名前が一致していることは当然の責務という認識でした。例え、社員数が千名であっても、五千名であっても、挑戦したと思います。記憶力に少しは自信のあった年代でしたが、目標達成したことは数少ない密やかな自慢であり、自信の一つになりました。そんな気概で仕事と向き合っていたことが、76歳になって何とも信じられないような、照れくさいような感覚の一コマです。

 30数年前の感慨にふけりながら、これまで関りのあった方々で、“今どうしているだろうか?”という人の顔が浮かんできました。今回のエッセイは、私が気になっている人のルフランです。

あの人は、今何をしているだろうか? 

 テレビ朝日系列のドキュメント・バラエティ番組「あいつ今何してる?」をご存知でしょうか。毎回楽しませて頂きました。ゲスト出演者の気になっている学生時代の同級生・同窓生が、“今、何しているのか”を調査して参加してもらう構成です。それ以外にも、有名高校の現役教師イチ押しの卒業生を取りあげて、現在の活躍状況を紹介することもありました。私の視野拡大に一役買ってくれたと思います。残念ながら、一年前の昨年9月で幕を降ろしました。あの番組のエッセンスを想い出しながら、私自身が「あの人どうしているかな?」と気になっている何人かの顔が浮かんできます。その内の二人(MさんとFさん)は薬剤師で、二十年近く前に出会いました。それぞれの考えを率直に出し合いながら、共感する点が多かったと記憶しております。ある時期、お互いの全人格を認めて行動を共にした同志のような感覚でした。 

 Mさんとは、私がA社を退職するまでの5年間、主に薬学生の採用と若手薬剤師育成の仕事を通して協働した間柄です。薬局のマネジメントを含めた組織運営、人材育成に一家言ある稀有な人で、大学病院前の薬局責任者でした。病院勤務を始めとして豊富なキャリアの持ち主で、常に現場主義を貫く負けず嫌いな姿勢には感服させられました。Mさんの仕事ぶりは、後にも先にもお目にかかったことがないレベルでしたが、現在も変わっていないでしょう。患者さんに本気で寄り添うMさん式服薬支援には、何度も驚かされました。服薬支援というより、コーチングやカウンセリングに近いと思います。その時々の状況に応じて、臨機応変に的確に対処するのです。数時間かけて、患者さんと対話することもあったそうです。疑義紹介を含めた医師への問い合わせも、臆することなく徹底していました。正に、患者第一の姿勢なのです。このレベルに到達するまでには、数多くの体験と年月を要したと思います。出会った初対面の印象は、鮮烈そのものでした。この姿こそが、かかりつけ薬剤師の稀有なロールモデルの一例だと……。現在のMさんは、50才代後半の円熟期に入ったと思います。改めて、薬剤師の人材育成について議論したいと願うばかりです。

 もう一人のFさんは、コメディカル人材バンク支店長の紹介で知り合いました。薬局を全国展開するB社の東北ブロック長で、お互いが抱いている業界や企業運営の問題点・課題に共通点が重なったことから交流がスタートしました。何度か意見交換をして意気投合し、B社東北ブロック薬局長会議で、マネジメント講座を開講する運びとなりました。育成課題を明確にしてカスタマイズしたカリキュラムで継続実施しましたが、Fさんの転職によって交流が途切れてしまいました。私より二回り下の年令だと思います。残念ながら、現在は連絡先不明の状態です。

 二人に共通しているのが、現状の課題と将来像が明確で、現状を打破したいという強い思いと旺盛な行動力でした。在籍企業においてはアクティブマイノリティ的存在でしたから、ビジョン実現には苦労が多く挫折を味わっていたはずです。私も同じような境遇を味わってきましたから、意思疎通は早かったと思います。二人とも老け込む年齢ではありませんから、後輩育成を御旗に、これからの行動の処し方を拝聴したい気持ちが高まっています。

    人財開発部 井上  和裕(2022.10.31記)

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