エッセイ253:笑う門には福来る ~ 笑顔は副作用のない薬💊

投稿日:2022年5月6日

  ※ 今年3月3日(木)に書き上げたエッセイです。

 新型コロナウイルスが猛威を振るい始めたと意識して2年も経ちました。この間、私の頭の中では当たり前と感じるようになった自粛という行動制約が課せられています。気がつけば、日々の生活はもちろんのこと、仕事のあり方にも様々な形で影響を及ぼしたように感じます。その時々の状況に応じて、どうやって対処したら良いのかという試行錯誤が、今でも現在進行形で続いているのです。一昨年の初夏の頃になりましょうか。“喉元過ぎれば熱さを忘れる”にならないように、この新型コロナウイルス禍(以下、ウイルス禍)を変革の機会(チャンス)と捉えるようになりました。それも、気負いを前面に出すのではなく、気持ちを落ち着かせて、冷静で客観的な姿勢を崩すことなく、問題と思われるテーマの本質的なあり方や生き方を追究感覚で追求することにしたのです。付け焼刃的対症療法では、所属する企業や組織の社会的責任(CSR)を果たすことは無理でしょう。持続可能は開発目標(SDGs)には手が届かないでしょう。頭から離れない問題意識になっております。

 さて、この2年間のウイルス禍で、消えることのない問題意識の火種がいくつか存在しています。その一つが、私たちの日常生活において“笑顔”が少なくなっているように感じることです。自然に発せられる友好的な和顔、お腹の底から湧き出てくる笑い声、温かみのある笑みを添えたアイコンタクト、おもてなしに欠かせない微笑みなど、アレコレの笑顔が消え失せてしまうのではないだろうか、心配になってくるのです。そもそも笑顔は、信頼と安心のコミュニケーション成立の潤滑油ではないでしょうか。ですから、笑顔が少なくなっていく現象は、円滑な対人関係実現の基本のキであるコミュニケーション能力が衰退していくことを表していると思うのです。ITC化が進展するようになって、直接対話の頻度は下降線を辿っています。30年前からその比率は右肩下がりを始めました。ウイルス禍で推奨されているテレワーク推進が、直接対話の減少に拍車をかけることは、容易に想像できることです。和顔愛語の表現としての笑顔は、信頼と安心のコミュニケーションを促進してくれることは、どなたもが体験済みだと思います。今回のウイルス禍で繰り返された自粛制限があったからこそ、笑顔の花を咲かせることに気を配りたいと実感するようになったのです。生産性向上のためのテレワークが主流になることに異論はありませんが、一方で信頼と安心のコミュニケーション維持のための本質的な方途を追求する必要性を感じております。対人関係をプラス方向に導く笑顔の意義を、この機会に強調したいのです。

 前置きが長くなってしまい申し訳ございません。今回のエッセイは、笑顔の大切さを私に気づかせてくれたいくつかの体験を紹介したいと思います。ウイルス禍が収束し、マスクを外して大声で笑い合える日の到来を願うばかりです。

笑う門には福来る ~ 笑顔は副作用のない薬💊

 瀬立(せりゅう)モニカさんをご存知でしょうか?東京2020+1のパラリンピック代表選手です。5年前のリオデジャネイロ大会に続いての2大会連続出場になります。モニカさんは、高校1年時に体育の授業で頭を打ち、胸から下の感覚を無くしてしまいました。中学の部活でカヌーをやっていたこともあり、パラカヌー選手として現在も競技を続けています。前回大会に続いて、女子カヤックシングル(運動機能障害KL1)で決勝まで進みました。金メダルを目指しましたが、7位に終わってしまいました。大会後に“メダルを取らないと終われない。カヌーはやめられない”という気持ちから、3年後のパリ大会にもチャレンジすることを決めたようです。併せて、医師の道も目指しているとのことでした。

 障害を負って車いす生活が始まってから、モニカさんは部屋に閉じこもる毎日が続きました。そんな様子を見かねた看護師のお母さんは、ある時このように語りかけたそうです。“閉じこもって暗い顔しないでニコニコしていなさい。笑顔は副作用のない薬って言うでしょう”と。お母さんのその言葉を聞いたモニカさん、当時はその意味を理解できませんでした。しかし、笑顔でいると人が自然と集まることを感じるようになってきました。それからは、日常生活はもちろんのこと、パラカヌー競技の時も結果に関係なく笑顔で臨むようになったそうです。私がそのことを知ったのは、パラリンピック期間中のテレビ番組だったと記憶しております。瀬立モニカさんのことを知って、じんわりと気づかされたことがありました。私も含めて世間全体において、“人間性の豊かさを保ってくれる感受性と想像性の泉が涸れてしまうのではないか”という危機感です。さらに、“気持ちを前向きにしてくれる笑顔が消えかかっていないか”、“周りを明るくしてくれる笑い声が失せてしまってはいないか”という問題意識が芽生えてきました。確かに、ウイルス禍収束の気配が見通せませんでしたし、殺伐とした雰囲気が蔓延していましたから致し方ないのかもしれませんが……。だからこそ、笑顔や笑い声のメリットと必要性を強く感じたのでした。

 女子マラソン(T12視覚障害)に出場した道下美里さんからも、同じことを感じました。ご存知だと思いますが、道下さんは3時間0分50秒のタイムで金メダルを獲得し、目標としていた前回リオデジャネイロ大会のリベンジを果たしましたね。競技後のインタビューや事前取材の対談の時、その表情や姿勢から“見習わなければ……”と気づかされたことがありました。それは、表情と発する言葉から、道下さんを取り巻く環境や支援に対する感謝の思いが、透き通る雫のごとくあふれ出てくるのです。そして、必ず自然体の笑顔が弾け出ているのです。

 大谷翔平さんの笑顔にも触れない訳には参りませんね。大谷さんは、岩手県人の私にとって誇りの一人です。MLB(Major League Baseball)ロサンゼルス・エンゼルスの現役野球選手です。ベーブ・ルース以来のいわゆる投手と打者の二刀流選手で、2021年レギュラーシーズンMVP(Most Valuable Player/最優秀選手)の栄誉に輝きました。与えられた環境とおかれた立場を理解して、その都度の結果を受け容れながら、何よりも大好きな野球を毎日楽しでいる誠実な姿勢が印象的でした。だから、インタビューの時も含めて、一つひとつの所作に笑顔が添えられるのでしょう。常に親近感が生まれてきます。その人間性も評価されてのMVP受賞なのだと、私は一人悦に入っております。(大谷翔平さんに関しては、エッセイ250回に掲載しております)

 今回は、その笑顔がどこから来るのか、についても想像してみました。瀬立さん、道下さん、大谷さんに共通すると感じた私見も披露させて頂きます。先ず、各自が挑戦しているスポーツが大好きなことです。大々々好きだからこそ、楽しんで目標と向き合っているのだと感じられます。関わってくれた方々への感謝が第一で、“結果は周りの人が評価する”という考え方を貫いているようにも感じられるのです。もう一つは、目標が明確なことです。それも目先の目標ではなく、目標の根拠となる目的を意識した長期的視点に立っているように感じています。そのせいでしょうか、無理な気負いがありません。目標が叶わなくても、思いのほか淡々としているのです。だから、笑顔が自然と出てくるのだと思います。

 ウイルス禍によって、閉塞感が充満したままの状況が続きました。そんな中で、1年延期になった東京2020+1オリンピック・パラリンピックの開催に関しては、否定的意見の声が大きかったと思います。私は開催に感謝しております。これからの生き方を考える機会になりました。何よりも元気を頂きました。人としてのあり方を再認識する機会になりました。メダルの数よりも、そこに至る選手一人ひとりのプロセスや心の動きから多くのことを学びました。“笑う門には福来る”を信じて、和顔愛語の花を咲かせましょう。三者三様の笑顔から、長い間続く閉塞感を乗り越える希望の灯を頂きました。そのような日常生活への陽ざしを、今でも心から感謝しております。笑顔一つで心通えることがあるのです。付録を一つさしあげましょう。石川県星陵高校野球部に、何とも快活な部員の合言葉があることを知りました。それは“必笑”! 良いですね。

  人財開発部 井上  和裕(2022.3.3記)

【参考】EDUCOの森207回:笑う力(POWER OF SMILE)(2020.3.8記)/EDUCOの森250回:私が思い描いたオータニサンの仕事作法、考動習慣(2022.1.21記)

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