エッセイ225:私が仕事を好きになったのは、……

投稿日:2021年3月5日

     *2020年10月10日に仕上がったエッセイです。

 74才になって二日経ちました。令和2年も、残すところ70日ちょっとです。2月中旬から、新型コロナウイルス(COVID-19)に追い掛け回されている感覚が続いています。

 私が関わる新卒薬剤師の教育機会は、毎月オンラインで課題を差しあげております。提出された課題レポートには、私からのコメントをA4版数枚ほどにまとめて、間接的ではありますが対話機会を絶やさないようにしました。それ以外に、動機づけを目的として、私の呟きをエッセイにして差しあげております。今回は、入社半年の区切りに届けたエッセイ「私が仕事を好きになったのは、……」を、そのまま紹介したいと思います。皆さんには、私の意図することを感じとって頂きましたら嬉しく思います。

が仕事を好きになったのは、……

 私が新社会人として薬局に勤務したのが、もう50年以上も前のことになります。基本給2万数千円、週休1日(実態は月2休)、1日実質10数時間労働の住込みでした。20坪ほどの町の薬局です。薬局と言っても医薬分業前の業態ですから、気軽に相談できる町のよろず薬局の風情がありました。制度化粧品にも力を入れており、美容部員によるメーカー間競争が激しかったですね。当時の世間の仕事観は、今では考えられない滅私奉公が美徳の時代でした。また、スマホもパソコンも無い時代ですから、人と会うにもそれなりの時間と事前準備を要しました。ですから、何事も直にノートすることが欠かせなかったですね。仕事の価値観も当たり前も、今とは別世界だったかもしれません。

 薬剤師の職能としては、大学での調剤実務実習がゼロに等しかったこともあり、調剤技術を身に付けるためには病院に勤務するしかありませんでした。社会環境や仕事環境、そして仕事遂行道具も、今とは比較にならない時代だったということです。そんな中で、当時とほとんど変わらない問題があります。それは、“勤務先で育ててもらうのが当たり前”という依存意識が底流にあるような気がすることです。その傾向は、ほとんど変わっていないと感じてしまうことがあります。企業にとって社員育成は当然の責務ですから、育つ環境を整えていくことは当たり前であり、企業運営の大前提でなければいけません。私の知る限りにおいて、中田薬局は数少ない合格点を与えられる企業だと太鼓判を押したいと思います。しかし、いくら環境が整えられていても、成長できるかどうかの鍵は、本人自身の向上心であり自己責任意識(自分を育てる責任は自分にある)なのです。その自己責任意識が、疎かにされているような気がします。そこで、仕事そのものに関する私の見解を紹介しましょう。これからのあり方を考える着眼点にして頂きたいと思います。

 50数年間の私の仕事人生は、10の会社で、五つの職種(病院薬剤師、薬局薬剤師、トイレタリー・石鹸洗剤類・サニタリー製品の営業、営業企画、人事教育)に携わってきました。今振り返ってつくづく感じるのは、“仕事はやってみないと分からない、プロの仕事遂行能力はトコトンやってみないと身につかない”ということです。もう一つは、“スタート・ダッシュが重要になってくる”ということに行き着くような気がします。私見になりますが、全ての職種に共通する課題だと思います。気になるのは、そのことが腹に落ちていない人が多いと感じてしまう場面に出会うことです。それでは、私がどのように対処してきたのかにも触れておきましょう。私は、体力の許す限り、誰よりも余計に時間をかけて仕事をしました。特に薬局薬剤師と人事教育の仕事は、仕事量で対応していました。非効率なこと、無駄なことにも、かなりの時間を費やしたと思います。しかし、気がつけば、何年か後に仕事遂行能力が飛躍的にアップしている感覚を持てるようになりました。だからと言って、長時間労働を推奨しているのではありません。誤解のないように申しあげれば、当時と現在では仕事環境に大きな違いがありますから。「仕事は盗んで覚えなさい」、「見よう見まねで覚えなさい」という時代でした。仕事のマニュアルもありません。基礎教育機会も無かったですね。ですから、自己責任意識(自分を育てる責任は自分にある)がなければ、先へ進めなかったのです。そんな時代ですら、“勤務先で育ててもらうのが当たり前”という依存意識が多数を占めていたように記憶しております。

 ここから本題に入ります。皆さんの平日の一日を思い浮かべてください。仕事に関する時間の比率がダントツのナンバー1ではないでしょうか。そうであれば、仕事そのものを心の底から好きになった方が、心身を豊かにしてくれると思うのです。私が“心の底から仕事が好き”と思うに至った要因は、任されている仕事がキチンと果たせるようになったからなのです仕事の出来栄えを、多くの方々に認めて頂けるようなレベルになったからなのです。どのような仕事であれ、職務をキチンと果たせるようになれば好きになるのではないでしょうか。

 今回の呟きをまとめてみます。先ず、“①仕事はやってみないと分からない、仕事遂行能力はやってみないと身につかない”ということです。だから、“②スタート・ダッシュが重要になってくる”のです。次は、“③成長できるかどうかの鍵は、本人自身の向上心であり自己責任意識(自分を育てる責任は自分にある)”ということ。もう一つは、“④仕事の出来栄えを認めて頂けるようになるまで日々研鑽すること、基本をしっかり身に付ける”ことに尽きると確信しております。社会人半年を経て、一度立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。今回の呟きは、これで終了します。

     井上 和裕(2020年9月9日)

 今年度入社した新人薬剤師への私見エッセイでした。50年前の記憶を辿っての呟きでしたが、仕事環境の大きな違いを何か懐かしく感じてしまいました。さて、最近はアフターコロナを意識しながら、“これからの人材育成の本質的あり方がどうあればいいのか”を、あれこれ考えながらの日々が続いております。しばらくの間、頭を悩ましながらOffJT、OJT、自己啓発のあり方を再構築したいと考えているのです。その前段として、Face to Faceによる対面教育機会とOnlineによる教育機会のメリット・デメリットを、アレコレ書き出すことから始めました。情報収集にも精を出しております。Online教育に関しては、思いついた方途を、“百聞は一見に如かず、百見は一験に如かず”精神で、試行錯誤の実践チャレンジを当面の間続ける所存です。(2020年10月10日記)

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