※エッセイ213の本文は、2020年3月26日(木)に脱稿したエッセイです。
2011年8月に第1回目のエッセイをアップしました。辛うじてではありますが、月2回のリズムを規則正しく刻みながら、9年間も続けられたことに一番感激しております。継続と積み重ねは、私自身との約束事であり目標でしたから。
エッセイの主目的は、共育スタンスでの “薬剤師のマネジメント能力&リーダーシップのブラッシュアップ”、“同志の自発的やる気を相互に引き出すこと”、“薬剤師有資格者でプロと評価できる人事教育担当の育成”の三本柱で、その思いは現在も変わりありません。新型コロナウイルス禍において、その思いはさらに強くなりました。呟く内容については、理念・考え方、その具体論、基本的姿勢や考動指針など、本質的側面を可能な限り掘り下げて表現するように努力しました。もう一つ注力したのが、実施カリキュラムなどの方法論と実施理由です。今に到るプロセスでは、多くの方々から、多種多様な方途や着眼点を教えて頂きました。参考にしながら、そのエキスを借用したものもあります。最終的には、試行錯誤の末の自論ですから、“絶対に…”と確信できるものではありません。問題提起を通して、この業界(薬局、ドラッグストアなど)の人材育成のあり方を、虚心坦懐に議論し合いたいのです。私の力不足で思うような状況に至っておりませんが、ここで諦めては後悔の念が残ってしまいそうです。エネルギーのある内は、いくつかの機会を通して問いかけ続ける所存です。
さて、前回のエッセイでは、通常のカリキュラム以外の取組み活動を紹介しました。“同期の歌”プロジェクトです。実は、もう一つ気分転換的なプロジェクトを、恒例行事として組み込んでいた時期がありました。“MY新聞”と命名したプロジェクトを取りあげてみます。
“MY(まい)新聞”は、一人ひとりの初心の森
二つのプロジェクトは参加者の気分転換を意図しておりますが、企画運営する私の中では、単なる気分転換カリキュラムではありません。同期の歌については、エッセイ211回の本文で言及しております。MY新聞に関しては、1989年(平成元年)4月中旬にまとめた“MY新聞『初心』発刊に寄せて”という寄稿文から、その趣旨の一端を紹介したいと思います。
『15日間の新入社員導入研修お疲れ様でした。君達の自由で闊達な議論から、「先入観を捨てよ」、「頭を空っぽにせよ」というカリアッパの教えを、改めて認識させられました。皆さん一人ひとりがまとめたMY新聞は、こんな時にひも解いてみたらいかがでしょうか。
苦しい時、つらくなった時/克己心が薄れてきた時/自己変革のエネルギーが消えそうになった時/壁にぶつかった時/コミュニケーションが上手くとれなくて悩んでいる時/目標が明らかになって決意した時/頂上に上った時/無性に嬉しい時/何かに感動を覚えた時 ……………
君達自身や、君達の仲間の熱い血潮が、新しい飛躍を促してくれるでしょう!!そして、“自分の考えを持ち発表すること”と“相手の考えに耳を傾けて充分に聴くこと”の大切さを、いつまでも忘れないで欲しい。人は誰でも「相見互い」なのだから。【本店教育部部長 井上 和裕】』
私の思いは、タイトルの『初心』に籠められています。室町時代の能作家・能役者である世阿弥が説いた「初心忘るべからず」からとりました。どなたもご存知だと思います。実は、この初心には二つの意味があります。ご存知でしょうか。現在は、概ね“何かをやろうと思い立った最初のときの純真で新鮮な気持ちを忘れるな”という意味で使われていると思います。しかし、世阿弥は“自分の芸が未熟であることを、常に忘れてはいけない”と言っているのです。自戒こそが、本来の意味になります。その当時、「初心忘るべからず」を学び直し、『初心』の二つの意味を籠めてMY新聞のタイトルにしました。“この二つの意味を意識して自己啓発に励み成長してください”というメッセージが、MY新聞をカリキュラム化した一番の目的なのです。さらに、置き忘れてしまいがちな謙虚さを取り戻すために、“5年毎に、読み返しては如何でしょうか”ということも強調しております。尚、“何かをやろうと思い立った最初のときの純真で新鮮な気持ち”のことを、私は『初志』と言い換えて『初心』の本来の意味と区別しています。
そのMY新聞のコピーのいくつかが、私の手許に残されていました。先日、20数年ぶりに再会した後輩何名かに、そのMY新聞をお返ししております。原本は本人が保管しているはずですが、転勤・転居などでどなたも所在不明でした。瑞々しい初志や思いに再会して、心新たにしている様子にMY新聞の意義を感じた次第です。約20年間続けたMY新聞から、トピックス的記事を紹介したいと思います。私的関心度の高いトピックスですが、お付き合い頂きましたら幸いです。
その1:白のハーモニー誕生する
♪きみはおぼえて~いる~かしら~あのしろいブランコ♪と、井上部長の鶴の一声でコーラス隊が誕生した。ハーモニーなんて程遠いかもしれないが、とにかく一応ハモッている。私たち新入社員のフレッシュな歌声は、必ずや皆の心を打つ筈だ。しかし困ったのは人員不足。ソプラノのパートは他より人数は多いが、何と皆声を裏返してしまう。なかなか声が大きくならない。歯がゆい思いで歌っているのは私だけだろうか。コーラスの練習なんて、皆、中学か高校以来らしく、オタマジャクシの意味するものを、きれいさっぱり忘れていた。それに加えて忘れっぽいので、ついつい楽譜を見ながら歌ってしまう。指揮者を無視してバラバラ…。本番では、PAPAの指揮の下、一丸となってハーモニーを響かせよう。それが私たちの「成果」の見せ所だから。(平成元年4月12日 YF)
その2:白いブランコ?黒いブランコ?
あのビリーバンバン懐かしの名曲「白いブランコ」の合唱が、教育部(井上部長)の提案により、今、新入社員の間で行われている。ところで、その成果はどうであろうか。実際は、それはもう白いブランコではなく、黒いブランコとでも云うべき状況である。男性組のきなくさい声が女性組の美声をかき消し、いまだに成功していないのである。そして、“今年の新入社員には、「東京音頭」の方が似合っている”と、榴ヶ岡の桜が語っているのを、私は知っている。(平成元年4月15日 TM)
その3:○○○ロード
この曲は、平成20年入社の同期の皆との歌です。皆で力を合わせて考えた曲です。私にとって忘れられない思い出の曲になりました。くじけそうな時、辛い時、鳴きたい時は、この曲を口ずさんで元気を取り戻そうと思います。始めて同期の皆に出会った時、協調性があって、洞察力があって、一人ひとり強い意志を持っていることに感心した記憶があります。私は結構鈍感で困らせたことがあったかも知れないが、見守ってくれて嬉しかった。これは、私から皆へのラブレターです。どうぞ受け取ってください。(平成20年4月13日 RK)
ビリーバンバンの「白いブランコ」は、私が三部合唱に編曲し、研修中に練習を重ねました。発表の出来栄えは如何に?私の評価は、技術点3.2点(10点満点)、熱意点9.6点(10点満点)でした。予期せぬハーモニーに、当時の社長(早稲田大学グリークラブ出身)は大感激でした。
皆さん方のMY新聞を再読して、自戒の初心と新鮮な気持ちの初心(初志)の大切さに思いを馳せております。二つの初心の本意を考える機会を、繰り返して持ち続けなければいけません。今回のエッセイは、温故知新の世界でした。
井上 和裕(2020.3.26本文記/6.8前文修正)