4月2日付けの新聞には、毎年恒例の記事が掲載されます。主な有名企業の新入社員入社式でのトップの声の要旨です。
激励の言葉は当然として、現在の経営環境下での期待したい行動指針が強調されることが多いようです。将来を背負ってくれる新入社員への期待度が、非常に高いからでしょう。
その様子を想像しながら、私には以前から気になっていることがあります。当り前の基本が見過ごされている世の中になったと感じられることが、根本的要因なのかもしれません。それが企業経営にもいえる現象ではないか、と思えてくるからです。私が気になっている内容は、マス媒体の報道で知り得たほんの一部がもとですから、間違った指摘になるかもしれません。その場合は、一見解として受け止めて頂きたいと存じます。
今回のエッセイは、その気なっていることをつぶやきます。
入社式では企業理念の本質をシッカリ語る
昨年と今年、さらには10年以上も前の入社式での社長訓示の報道内容を見比べております。
過去一年間の業績、経営環境の実態によって、その内容や厳しさに差が生じてくることは当然のことでしょう。それを除きますと、具体的内容は業種や会社によって異なってくるのでしょうが、根っこの部分は概ね似たり寄ったりの内容ではないかと思えてきます。求められる能力や行動姿勢、現状を打ち破るための行動指針、具体的な仕事の進め方と取り組み方など、これから始まる新入社員研修でも触れられるであろう内容が中心のような感がしないでもありません。
内容は別にして、社長の生の声を直接拝聴できる機会は、年に数えるほどしかないかもしれませんから、新入社員にとっては心の高ぶりが半端ではないでしょう。それだけ、貴重な時間なのだと思います。
一方、企業倫理が問われる事態が相も変わらず飛び込んできます。“エーッ、あの企業が……”と言われるような有名企業も例外ではありません。だからと言う訳だけではありませんが、経営トップの口から新入社員に対して必ず語って頂きたい内容は、不祥事など起こさない企業の存在意義に関わる“根源的な何か”ではないでしょうか。私が言及したい“根源的な何か”とは、社是・社訓も含めた企業理念の核心のことです。
先ず、“企業理念とは何か?”についての私見から申しあげましょう。
企業理念は、『企業の根本的な存在理由や存在意義』を表わし、『時代の流れや時空を超えた、企業経営に対する普遍的な価値観であり、揺ぎ無い信念と行動原理』ではないでしょうか。
存在理由、存在意義という視点でもう少し掘り下げてみれば、企業の目指す方向や事業領域を表わし、意思決定の価値基準・判断基準となります。行き詰まった時に帰るべき原点は企業理念、と言われる所以でもあります。さらに、日々の仕事遂行の行動規範としての社員共通の哲学であったり、時には社外へのメッセージという役割も担います。全ての企業業活動の源泉にもなります。正に、企業文化の中核と言えるのではないでしょうか。
企業経営の普遍的価値観であり、揺ぎ無い信念と行動原理を表わした企業理念を、その意味する本質的側面から始まって、自社の具体的理念の詳細を、将来の企業を背負って立つ若人に対して、経営トップ自身が、滔々と熱く、朗々と高らかに語って頂きたいのです。さらには、企業理念の番人になることも、強く訴えかけて欲しいと思います。そしてこの訓示は、新入社員だけではなく、従業者(経営陣も含めた社員全員)に対する本気度を表明する一番の機会なのです。自社の存在意義に関わる“根源的何か”を語ることこそが、何よりの歓迎表現であるべきだと強く思います。
入社式後に始まる新入社員研修では、教育担当者からレクチャーされるのでしょうが、企業理念が企業経営の根っこであり幹であるからには、経営トップがその意義と意味を直に語るべきです。それこそが企業不祥事の一番の防止策であり、ステイクホルダーに対する誠実な企業経営の公約宣言になると確信しているのです。
入社式において企業理念の本質を真剣に語ることを、大小を問わず、全ての会社で実践されることをいつも願っております。
(2015.4.15記)