エッセイ13:教育担当のプロを目指して

投稿日:2012年4月1日

平成24 年の主要テーマとして、“教育担当のプロを目指して”を意識した問題提起、そして経験

から学んだ行動指針などの私見をご紹介したいと考えております。

その理由は、“人材育成推進の鍵を握る企業内教育担当の育成こそが喫緊の大きな課題”、さらに

“プロといえる教育担当者が見当たらない”という問題意識、危機意識から発したものです。年初

のエッセイで提唱した「教育の基本理念(人材育成の着眼点)」(第7 回)、「教育活動の基本原則」

(第8 回)は、企業内教育推進のプラットフォーム(土台)となるものです。それらを2 回にわた

って、わざわざ取りあげた理由は、企業内教育(人材育成)推進の基軸であり機軸となる理念の存

在に出会ったことが無いからです。範囲は限られておりますが、この10 数年の調剤薬局やドラッ

グストア業界での仕事において、議論の遡上にすら取りあげられた例(ためし)が無かったからで

す。

今回は、日々の仕事の中での人材育成上の指導ポイントをつぶやいてみたいと思います。今まで

のエッセイの中で、サブタイトルとして“教育担当のプロを目指して”と付け加えたシリーズのト

ップを飾ったのが、今回の“日常の教育機会の指導ポイント”でした。改めて、加筆修正を行なっ

ての再登場となります。

【改めて、日常の教育機会の指導ポイント ~ 教育担当のプロを目指して】

企業内教育において、教わる側は当然として、教える側には、それなりの覚悟と姿勢が必要です。

その覚悟や姿勢は人材育成の成否を決める必須条件という位置づけになります。先ず、それらは一

体何であるのか、を考えてみたいと思います。

教えるという行為の目的の一つは、「教える内容を、理解し納得させる行為」ではないでしょう

か。限られた時間・空間・機会の中で、効果的効率的に目的達成するためには、かなりの工夫と粘

り強い努力が必要となります。この場合明確にしておきたいのが、効果第一優先ということです。

その上で効率化に目を向けるということです。それらのことを再認識して、“日常の教育機会にお

ける指導ポイント”を再編してみました。

本題に入る前に、もう一つ言及しておきたいことがあります。

それは、日常の教育機会は研修(OffJT)だけではないよ、ということです。OJTや自己啓発

はもちろん、会議・ミーティング、日常の対話、プロジェクト活動、さらには顧客とのやり取りな

ども含まれるということです。仕事に従事している時間内で考えられる全ての育成機会のことを、

日常の教育機会と位置づけたいと思います。教育=研修という先入観・固定観念に縛られている方

が多いのが実態ではないかと実感しております。この機会に、是非改めて頂くことを切望しており

ます。

以下、私が意識しております日常の教育機会の指導ポイントです。

1.学ぶことに対する基本スタンスを矯正する~学ぶ機会への感謝の心

教わる方々に、“学ぶ機会があることに対して感謝すること”を、当たり前の心構えとして、

胎におとしてもらうことです。「会社が教育機会を積極的に作ることは当然の責務である」、

というような受身的考え方の人は、先ず、“学ぶ機会に感謝の心を持つ”という意識改革か

らスタートしなければなりません。

もう一つは、自分自身の成長願望を、ハッキリと口に出して公言できるようにすることです。

具体的には「とにかく学びたい。だから、教えてください」と真剣に言える人を育成するこ

です。

2.部下や受講者のやる気・好奇心を高めて、感受性・想像力を養い発揮させる

そのためには、徹底して知識を増やし、スキルアップすることです。そうすれば、今まで解

決できなかったことが解決できるようになりますし、仕事遂行上役に立つことが徐々に増え

ていきます。新たな能力が身についてきたことが実感できれば、自ずと自主的に学ぶように

なります。学ぶことが楽しくなってくるのです。

学ぶことが楽しくなる秘訣は、“継続は力なり”&“積み重ねは力なり”しかありません。

毎日の小さなコツコツ努力を、何年も何十年も積み重ねるしか道はないのです。それを支え

てくれのが、好奇心、感受性、想像力になります。経験の浅い段階では何も見えてきません

が、そのうちに的を得た問題意識が拡がる感覚が芽生えてきます。

3.自力で解決できるようにする

教育の目的の一つは、“自力で解決できる人材”にすることです。自助力の練磨です。

そのためには、

①“学び方や考え方のステップ・対処方法”と“知識の在処(ありか)”を教える

困難な問題が発生した時、今までのやり方では解決できない課題に取り組む時には、何をす

ればいいのか、どうしたらいいのか、何を調べたらいいのか、スタートから大きな壁にぶつ

かります。また、研修では時間的な制約があります。そんな時は、学び方や考え方のステッ

プ・対処方法と知識の在処をしっかりとインプットさせることが、後々現場で活きてきます。

学び方や考え方のステップ・対処方法とは、目標・目的の達成確率が高い問題解決の基本手

順(プロセス、流れ)や主旨・理由(何故)のことと、健全な心構えを言います。知識の在

とは、具体的な専門書・テキスト・手引・書籍・教材・情報などと、それらの存在場所(例:

○○図書館など)、そして誰に訊けば分かるのか、など知識の入手先や入手経路のことです。

②重要な事柄と重要でない事柄を明示する

人間の脳力(吸収力)には限度があります。絶対に身に付けておかなければならない事柄(根

幹の部分)と、そうではない事柄(枝葉の部分)を、明らかにしてハッキリと分けて教える

ことが教育効果を高めてくれます。

4.徹底して基本を修得させる

「教育の基本理念」の中に、“育成の原則は修・破・離である”というのを明記しております。

業績や成果を左右する要素の一つは、どれだけ能力を身につけたかです。その能力の土台は

基本なのである。若いうちに、基本を徹底的に身に付けたかどうかで勝負ありと言いたいの

です。

ここで「修破離」(“しゅはり”または“すはり”)の復習をしましょう。「修破離」は、元来、

能を学ぶ時の心得で、『修』『破』『離』の三段階を経て自己の完成を目指すというもので、

発展段階説ともいえます。以来、芸事や職人の世界で受け継がれてきました。今流に表現す

れば、自分創造ということになりそうです。一つひとつの意味は、以下の通りです。

● 修 : 自分の師匠や優秀な先輩の教えややり方を徹底して学ぶ段階。基本の考え方や技術を

自然に出来る段階、実践している段階まで、充分に修得すること。

「修」を「習」や「守」と、表現しているケースもあるようです。

● 破 : 充分にマスター(修得)した基本に、自分自身の考え方や工夫を加えて、従来のやり

方を一回破ってみて、より良いものに昇華させる段階。

● 離 : それまで学んだものから離れて、自分流の独自のスタイル、自分の流儀を完成させる

こと。自己実現の段階ともいえる。

この修破離を、別の見方で表現すると、修は「基本修得」、破は「応用」、離は「発展・展開」

といえそうだ。

ピカソの画風も、イチローのバッティングフォームも、徹底した基本修得が土台だったよう

に思います。新卒新入社員の場合は、「人間としての基本」「ビジネスパーソンとしての基本」

「薬剤師・医療人としての基本」を、徹底して身につけるように注力することです。そして、

与えられた全てのことに、一所懸命取り組む行動姿勢を身につけさせることが肝要です。

40 歳台で組織の中心で活躍している人達は、押しなべて雑用の達人です。掃除の仕方、

コピーの取り方から始まって、メモの取り方、挨拶の仕方、仕事の進め方、報連相のやり方、

学術書の活用の仕方、意思決定の判断基準など…どのようなことにも基本があります。特に

社会人1 年生には、余計なことに眼を向けさせないで、徹底して基本を修得させることです。

間違った癖を直すには、克己心と覚悟が必要になります。生半可な覚悟では通用しない、苦

難の道になります。“若いうちに身につけた基本は一生ものだ”と、思い知らされた経験を

何度もしました。人財育成の秘訣は、やはり修破離。成長の秘訣は修破離なのです。

(2012.1.25 記)

*参考1:入社1 年間で定着させたい「新22の行動習慣」

1.ニッコリ、テキパキ“ハイオアシス”を言う習慣

2.だれかれの区別なく、キチンとした挨拶をする習慣

3.心を込めた自筆のお礼状を出す習慣

4.毎朝自宅で新聞を読む習慣

5.日々目標を持つ習慣

6.目標達成のために6W3Hを動員した計画を立てる習慣

7.実行したことを振り返って、次につながるチェックをする習慣

8.メモ用具を必携し、こまめにメモをとる習慣

9.約束事・約束時刻を厳守する習慣

10.初めてのことでも恐れずチャレンジする習慣

11.何事も、まず肯定的に考える習慣

12.気が向かないことでも、まず実行してみる習慣

13.不明な点はどんなことでも謙虚に教えを乞う習慣

14.指示・命令・依頼を復唱する習慣

15.報告・連絡・相談をこまめに植える習慣

16.結論を先に言う習慣

17.失敗の原因を、まず自分に求める習慣

18.有言実行・言行一致の習慣

19.前向きな人と自分から進んで付き合う習慣

20.美点凝視の習慣

21.健全な判断力(判断基準)を養う習慣

22.親孝行の習慣

*参考2:エッセイ第73 回「基礎教育は企業全体の質を高めるための戦略」(2007.5.5 記)

ここで取りあげる基礎教育とは、以下のようなケースを指す。

新入社員の入社導入研修や、新しい仕事へ異動になったり、新しい職位に任命された時に行なわ

れる研修のことをいう。例えば、新任マネジャー研修、新任課長(部長、役員)研修、新任営業担

当者研修などのような呼び方をされる研修を想定して頂きたい。

先ず、現実問題として、上記のような基礎教育がどれだけやられているのだろうか?

内容は別として、新入社員導入研修はやられているとして、それ以外は放任的なOJTと自己啓

発任せというのが現実と思われる。

何故、そのような実態なのか?

簡単である。運営できる人材とノウハウを持ち合わせていないことが、最大の要因ではないかと

想像がつく。必要性を感じてはいるのだが、“どうやったらいいのかわかりません”ということで

しょうか。外部研修に派遣している企業様がいらっしゃいましたら、それはもうご立派の一言につ

きますが、結局は付け焼刃のような気がしてならない。

もう一つは、“そんなことに時間と費用を投下する余裕なんてない”“本人のやる気次第だ。放っ

ておいてもどうにかなるよ”というような、現実的と言おうか無責任な発言である。

さて、今回特に申しあげたいことは、基礎教育の効用は何かということである。

ホッとマンの見解は、「企業全体の質を底上げして高めてくれる」ということである。チームス

ポーツで言えば、「選手層を厚くする」ということと同じである。その結果、企業の永続的発展の

土台が、知らず知らずのうちに構築されていくのである。

新入社員の場合だと、就業規則に始まって、企業理念・行動指針などの考え方の土台になるもの

から、マナーや職務遂行に必要な仕事の進め方の基本などが主要カリキュラムになる。入社初日か

ら、現場主義OJTと称して現場に配属されたら、どうなるであろうか。基本を正確に教える事が

できる上司がいて育成計画なるものがあればいいが、最初から現場配属の企業では不可能なのが実

状であろう。

部下を持つようになれば、“マネジメントとは何か”“リーダーシップとは”“管理者の任務と職

務”“OJTのあり方・すすめ方”など、マネジャー・課長・部長職を遂行するための基礎を知ら

なければ務まらない。

新入社員や初任者には、“不安解消”と“自己動機づけ&自己確信の意欲促進”のために、基礎

教育を実施することは、当たり前の企業の責務である。そうすれば、当面どのような目標を描いて

任務を全うすればいいのか、自ずと判断できるようになる。“急がば回れ”なのである。時間が無

いことを理由に、基礎教育を省いている企業は、いつまで経っても社員の質の向上を図れないでい

ることになる。

基礎教育をしっかりと実施している企業は、人材育成が日常の仕事を通して当たり前に行なわれ

ている。基礎教育を疎かにしている企業は、基本的な職務遂行能力が身についていなかったり、基

本が何かも知らない社員が多いようだ。

基礎教育は、まさに、企業全体の質を高める戦術なのである。

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