エッセイ326:身体の前で手を組む時、上に添える手は右手、それとも左手?

投稿日:2025年4月5日

 “無くて七癖”、ご存知だと思います。一見して何の癖も無さそうな人でも、良く観察すれば、七つ位の癖は見つけられる。つまり、多かれ少なかれ、誰だって癖を持っている、ということでしょうか。余談になりますが、“七”は“無くて”の語呂合わせで、特に意味は無いそうです。また、“無くて七癖、有って四十八癖”、“人に一癖”という類語もありました。今回のエッセイは、その癖について呟いてみたいと思います。

身体の前で手を組む時、上に添える手は右手、それとも左手?

 自分自身の日々の姿勢を客観視すれば、立ち居振る舞いから始まって、言葉遣い、電話や来客応対など、自ずと癖が出てしまうものです。予期していなかった時、あるいは突発的な場合は、尚更ではないでしょうか。私の企画運営するビジネスマナー教育の隠れたねらいは、気づいていない癖を知ることにあります自分自身の癖を知るということは、本人の人間性を磨き上げる身近なテーマを知ることにもつながるからです。そのような理由から、新社会人には、かなりの時間を割いてロールプレイングなどの実技を取り入れ、好ましくない癖を自覚した上で矯正することを目指しております。この隠れたねらいの意味を理解して研修に参画する人は、取り組む姿勢が明らかに違ってきます。いかにして、ねらいを共感させて共有するかは、インストラクターの腕前一つにかかっているといえましょう。

 さて、いのうえ塾の新社会人向けビジネスマナー教育は、“正しい姿勢とお辞儀の仕方”が最初のカリキュラムです。その中では、身体の前での手の組み方に関しても言及しております。“あなたは、左手の上に右手を添えていますか?それとも、右手の上に左手を添えていますか?”という問いかけです。その質問に戸惑う方もいらっしゃいますが、ほとんどの方は、意識することなく、どちらかの手を添えているのが実態のようです。正に手の組み方は、癖の一つかもしれません。いのうえ塾では、一年ほど前まで、右手に左手を添えるのが正しい組み方と教えてきました。いつどこで学んだのか忘れてしまいましたが、武士の作法からきていることを知りました。刀を抜く手の右手を、左手で抑えることで、“私はあなた(相手)に敵意はありません”ということを表しているというのです。ですから、立位でも座位でも、右手に左手を添えて応対するよう方向づけしておりました。一方で、由来はそうだとして、左利きの方もいらっしゃいますから、多様性を尊重する今の時代にそぐわないのではないかと、常に釈然としないままでいたのも事実です。

 そんな私の疑問を解いてくれたのが、昨年4月初めのことです。インターネットで何かを調べていた時、アイランド株式会社が運営する「朝時間.jp」というライフスタイルメディアに掲載されている“右と左、どっちが上?知っておきたい「手の組み方」のマナー”という記事に出会ったのです。(https://asajikan.jp/article/26890/)好印象マナー講師林慶子氏が執筆されていました。拝読しながら、目からうろこが落ちました。結論は、上に添える手は、左右どちらでも良いというのです。左手が上の場合は、“相手に敵意がありません”ということは同じでしたが、うろこが落ちたのは、右手が上の場合の理由でした。日本人のほとんどが右利きのため、右手を上におくことは、“何かがあった際、直ぐに手を差し出せるように”という理由があるということです。直ぐに手伝えますよ、サポートしますよ”という思いを表したい時は、“右手を上にするとよい”とコメントされていました。さらに、手の組み方に決まりはありませんから、職種やその時々のシーンで、臨機応変に対応することを奨励されています。その場合に役立つのが、左手が上の場合と右手が上の場合の理由を知っておくことになりますね。“知識は宝なり”なのです。

 今回のエッセイは、手の組み方の訂正でもあります。これまでも触れておりますが、間違いは素直に認めて、可能な範囲で訂正連絡したいのです。小さな生涯学習を続けることは、“自分磨きの身近な手段でもある”と、改めて実感させられました。

   EDUCOいわて・学び塾主宰/薬剤師 井上 和裕(2025.2.11記)

【参考】エッセイ306回:ビジネスマナー教育における教育担当の基本姿勢(2024.5.11記)

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