エッセイ317:共に学んだ新人薬剤師への激励句

投稿日:2024年12月6日

 私が企画する教育機会では、スタート時のオリエンテーションと最後の総まとめに、かなりの時間をかけて運営しておりました。数日間にわたる研修であれば、オリエンテーションには最低でも1時間、総まとめは40分近くの時間を充当して企画します。新社会人を対象とした新入社員導入研修では、初日のオリエンテーションに2時間強、最終日のまとめは所感作成も含めて2時間かけておりました。モチベーションを高めて臨んで欲しいからです。そして、参画したという充実感を味わって頂きたいからです。受講する新入社員は、これから始まる長期間(2週間~3週間)の研修に対する期待と不安が入り混じって席についています。オリエンテーションでは、“受講者の不安を取り除いて、より自然体で臨むことができるように運営すること”を念頭に、“期待と希望を膨らませて、安心して参画できる環境(雰囲気)を醸成すること”が、研修内容と進め方の着眼点となります。具体的内容は、別の機会に譲りたいと思います。

 総まとめにおいては、“受講者一人ひとりが研修の全過程を総括して、現場に戻ってからの取組み課題を明確にすること”が、イの一番の眼目になります。私からは、これから始まる新たな人生の門出に対する激励句を差しあげておりました。今回のエッセイは、総まとめで新卒薬剤師向けに差しあげた激励句(メッセージ)を紹介したいと思います。明日からは、現場での実務実習がスタートします。真剣勝負の本番になります。想定している何倍ものストレスが待ち受けているでしょう。数えきれない失敗を重ねると思います。挫折を味わうことが、一再ならずあるでしょう。研修において共に学んだ教育担当者としての願いは、それらの壁を乗り越えて、押しも押されもしない一人前のビジネスパーソンに変身して欲しいのです。その思いを表現したのが、私からの激励句になります。

共に学んだ新人薬剤師への激励句

(1)初志を心に抱いて、はばたけ若人

*無限の可能性を秘めた若人よ、その無限の可能性にチャレンジして具現化してください。背筋を伸ばして、大きく羽ばたいてください。そのためには、今まで学んだ限られた世界だけにしがみついていては、君達が画いている社会貢献は実現しません。

(2)健全な判断基準を持てるように、一所懸命精進すること

*CS(顧客満足)〔PS(患者満足)&DS(生活者満足)〕・ES(従業員満足)に立脚した、正しい意思決定が出来る大人になることです。

(3)企業社会とは、“結果で判断される社会”だと、自覚しなさい。肚に落としなさい

*自己責任意識で自律しなさい。使命感を持って自立しなさい。そうすれば、克己心が強化されて、失敗の原因を自分に求めるようになります。物事を、肯定的に捉えることが出来るようになってきます。また、結果の基(原因)は、プロセスにあります。だから、PDCAサイクルをスパイラル状に回すというセルフマネジメントを日々実践しましょう。

(4)理想と現実のギャップから逃げ出さない、押し潰されないこと

*そのギャップを埋めながら目標を達成していくのがプロの仕事人。投げ出したら、逃げ出したら、自分に負けたことになります。自分を信じて取り組みましょう。青い鳥は自分の心の中にいるのだから。

(5)薬剤師免許証がなくても、存在価値の高い、仕事が出来る、信頼される人になれ

*高い志を持ち続けましょう。日々心を耕し、厳父と慈母の心根を身につけ、広い視野と着眼点による状況対応力を練磨して、誰か一人の人に尊敬される人間を目指しなさい。

(6)入社してからの三年間を、徹底した基本修得の三年間にすること

*育成の原則は、何が何でも“修破離”です。アレコレ考えないで、手を抜かないで『修』(基本修得)に専念しよう。

 入社三年間を、徹底した基本修得の三年間にしよう。基本修得に、全力投球しよう。諦めず、焦らず、忍耐強く。強力な支援者(ブレーン)と応援者(ファン)としての師匠を持とう。修得した基本が、近い将来大輪の花を咲かせ、進化の種を育んでくれる。 君達の将来を意義あるものへ導いてくれるのは、入社三年間の徹底した基本修得である。 強い信念と克己心、思いの強さが、君たちの人生の成功の扉を押してくれる。 入社三年間を、徹底した基本修得の三年間にしよう。

 各項目の内容とその理由を説いてから、次のことも付け加えたと記憶しております。“この新入社員導入研修では、企画や運営を含めて、多くの社員が関わってくれています。お世話になったと感じた方に対しては、直接、あなた自身の言葉で感謝の思いを伝えましょう。そのような当たり前の行為の積み重ねが、心を耕してくれるのです”と。

 今回紹介したメッセージは、2008年4月13日(日)の新卒新入社員導入研修の最終日に、私からの激励句として語りかけたものです。受講者一人ひとりの表情を見ながら、“何故そうなのか?”ということを、私自身の経験をもとに対話することに注力しました。現場に出ると、想像をはるかに超えたアレコレにぶつかります。仕事そのものはもちろんのこと、職場を含めた仕事環境、ステイクホルダーとの対人関係など、気を遣うことの毎日が続きます。心無いこと、悲しいこと、理不尽なことに出会うこともあるでしょう。しかし、そのような多種多様な障害を乗り越えて、しなやかで動じない心根の薬剤師に成長して欲しいのです。そんな思いをメッセージにして、現場に送り出しました。また、入社導入研修以降は、翌年2月までに5回のフォロー研修を定例化しました。最後のフォロー研修では、初年度研修の修了証を差しあげております。一年間共に学んだ同志一人ひとりへの個別激励句です。その一部も紹介しましょう。

「あなたは、どのような場合でも、穏やかで柔和な眼差しと表情を、回りの仲間に発信している。ウラオモテの無いオットリタイプで、人の心を自然に安らかにしてくれる。あなたは気づいていないと思うが、意識していないからこそ本物なのだ。そして、高分子吸収体のような知識吸収力を持っている。だから、学ぶ機会があれば、どんなことにも、どんな場合にも、積極的に、好奇心と問題意識を働かせて取り組んでみなさい。基本修得の三年間を実現できるかどうかは、あなた自身の甘えに打ち克つことだ。必ずできるから、やり遂げなさい」(Yさんへ)

 「リーダーの基であるリードの語源は、「前に出る、死ぬ」の意味が含まれている。だから、“命をかけるぐらいの気概を、指導者(リーダー)は持たなければならない”ということになる。リーダーの条件の一つは、“人柄と、常に責任をとる覚悟”である。これから2年以内に、そんな人間になって欲しい。人がついていくのは、皆が君を信頼しているからだ。私は、同期の13人で、業界のオンリーワンスタンダードを作ってくれることを望んでいる。その牽引車になりなさい。無心で機関車になりなさい」(Kさんへ)

 個別激励句作成には、想像以上の観察眼とエネルギーが必要でした。今振り返って、“やる”と決めた目標をやり遂げたことで得たものが何であったのか、思考を巡らしております。

   EDUCOいわて・学び塾主宰/薬剤師 井上 和裕(2024.10.18記)

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