エッセイ310:効果的効率的な教え方のプロセスとコツ

投稿日:2024年8月20日

 先ず、部下を持つ管理者を対象としたセミナーで、部下育成に関して申しあげている私見の一部を紹介したいと思います。

『評価は、目標に対する結果で判断することです。一方、部下育成(人材育成)は、プロセス主義でいきましょう。そのためには、明確で具体的な努力目標を明示できなければいけません。日々の出来事や仕事が成長の一番の教材となりますから、目標達成のための具体化計画を策定させることが肝心要のやり方となります。また、部下は上司を選べませんし、上司も部下を選ぶことは出来ません。そういう当たり前の現実をお互いが理解し合うことから、部下育成の旅がスタートしなければならないと考えています。(以下、省略)』

 業績も人材育成も、管理者の最重要任務です。それを両立させることが管理者の仕事であり、だから、給料が一般社員より高いのです。部下育成(人材育成)はプロセス主義と申しあげましたが、プロセス重視の肝は、部下を日々どれだけ意識して観察し、対話しているかにかかってきます。そして、育成のキーポイントの一つは、“管理者自身が、効果的効率的な教え方の基本プロセスを身につけている”ことが、必須要件となります。さらに、もう一つのキーポイントがあります。それは、部下に対する愛情です。それも、厳父と慈母の両面を併せ持った愛情のことをさします。“愛情なくして育成なし”ということを、常に意識して対処することです。今回のエッセイは、必須要件の効果的効率的な教え方の基本プロセスを取りあげてみましょう。

効果的効率的な教え方のプロセスとコツ

 人間は、自ら率先して繰り返し繰り返し実行することで、意識するしないにかかわらず、様々なことを学び身につけています。自力でスキル化することが可能なのです。しかし、全く未知の事を自分一人の力だけで学ぶというやり方は、賢いやり方といえない場合もあります。独学を否定しませんが、間違ったやり方が身について、我流に陥ってしまう実態を数多く見てきました。それでは時間の無駄遣いということになってしまいます。正確なやり方を、効果的効率的に、それも楽に早く身につけるためには、その道のベテランから学ぶのが一番ではないでしょうか。そこで、上司(管理者、マネジャー)の出番です。ということは、上司の教え方や学ばせ方によって、成長度合いに大きな影響を及ぼすということが言えそうです。

 実は、その教え方・学ばせ方には、基本プロセスがあります。スキル(知っているだけというレベルではなく出来るという段階)を身につけさせるためには不可欠な基本原則と考えて頂いて間違いありません。指導効果を高める効果的効率的な教え方の基本プロセスは、5つのステップから構成されています。以下、その基本ステップを紹介したいと思います。

◉ステップ1:訓練項目と内容を分かりやすく説明する

訓練者に対して、身につけたい項目と内容について、“何を(WHAT)、何故・何のために(WHY)どのように(HOW)やる”のかを、訓練者が理解できる言葉で分かりやすく解説します。時間を要する訓練項目については、“何時までに(WHEN)”という期限目標を決めることも大切となります。

◉ステップ2:訓練項目を実際にやってみせる

指導者が、訓練項目を実際にやってみせます。模範演技をするのです。実演しながら、今何をやっているのか、訓練者が十分理解できるようにすることがポイントとなります。分からなければ、分かるまで何度も実演して見せることも必要になってくるでしょう。

◉ステップ3:訓練項目を実際にやってもらう

訓練者に、実演した通りに真似してやってもらいます。最初は、模範演技のように出来ないことの方が多いかもしれません。間違ったり、ぎこちなかったりしても、決して焦らないことです。内容を十分に観察して、良く出来た(合格)点と改善すべき点を把握することが大切となります。

◉ステップ4:訓練項目を点検して、正しく出来るようにする

合格点と改善点を分析して、どこが、どのように良いのか(悪いのか)を、はっきりと解説します。大切なことは、自信をつけさせることです。そのためには、先ず合格点を誉めること、称賛すること。さらに、何故合格出来たのかを、本人から言ってもらうことも一法でしょう。その後に、改善点を順序立てて説明します。改善点は、訓練者が正確に理解するまで解説し、改めて実際にやってみせます。その上で、正しいやり方が自信を持って出来るようになるまで、繰り返して実演させます。

◉ステップ5:訓練項目が習慣化するまでフォローする

訓練項目にもよりますが、何回も繰り返して訓練しないと身につかないことの方が多いものです。時々、ステップ3に戻って復習訓練しましょう。日常の行動観察で合格点がでたら、訓練項目を卒業したことになります。

 以上が、効果的効率的な教え方の基本プロセスです。OJTで実地指導する場合はもとより、OffJTでのロールプレイングや実習を行う場合には、この5段階の基本ステップを踏みながら実施することが、指導効果を高めるのに最適であり、根気よく繰り返して指導することが大切です。取り入れることをお奨めしたいと思います。

 さて、この基本ステップを知るきっかけとなったのが、前々回のエッセイ308回で取りあげました山本五十六氏(1884年~1943年)の名言「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば 人は動かじ」です。時代が変わろうとも、仕事のやり方やツールが変わろうとも、人材育成の方途として身につけておきたい“教え方の基本のキなのです。

   EDUCOいわて・学び塾主宰/薬剤師 井上 和裕(2024.7.5記)

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