エッセイ308:自分を育てる責任は、先ず自分自身にある~それが、人材育成の大前提

投稿日:2024年7月20日

 エッセイ307回では、同じ職場で共に学び合ったFさんとの真面目な雑談会の様子を紹介しました。実を申せば、“喜寿を過ぎて、もうしゃしゃり出ることは控える”と決めておりましたから、当初は固辞するつもりでした。翻した理由は、Fさんの後輩を育成したいという強い熱意が一番でしたが、私自身のある後悔の念が一因にもなりました。それは、後輩の人事教育担当育成が、思うようにはかどらなかったことです。そんな思いが蘇って、お会いしようという気になりました。

 さて、前回の呟きを書き終えてから、その内容に若干の物足りなさを感じております。今の時代にこそ気づいて頂きたい温故知新的な着眼点を、書き洩らしてしまったからです。今回のエッセイ308回は、前回の続編ということになります。

自分を育てる責任は、先ず自分自身にある~それが、人材育成の大前提

 二人の共通見解だったのが、ハングリー精神の必要性です。ハングリー精神とは“高みを目指す強い向上心”であり、“現状を変えようとするチャレンジ魂”を指します。今の時代では敬遠されそうなイメージですが、社会環境が変わっても、人間にとって欠かすことできない成長促進要因です。Fさんと意見交換しながら、ハングリー精神の具体的内容を考えてみました。いくつかの候補の中から、“ライバルや目標とする人を持つ”という結論になりました。それは、“その人を越えてやる”、“その人を見返してやる”という気持ちを内に秘めて、手抜きをしないで目の前の課題と向き合うことです。また、壁にぶつかって投げ出したくなった時の歯止め役にもなるでしょう。先行き不透明で行き詰まり感の強い時代だからこそ、試行錯誤しながらチャレンジすることが求められます。Fさんも私も、最近のビジネスパーソンの現状維持型の行動姿勢から、その必要性を強く感じておりました。

 ハングリー精神の持ち主は、向上心が強い分、現状に満足することなく、かなりシビアな評価を自分自身に下します。ですから、原因が何であれ失敗した時、かなりの悔しさを感じるはずです。そのようなメンバーに対して、「Fさん、あなたはどのような声をかけますか?」という問いかけをしたところ、次のような回答が送られてきました。「悔しいという思いは、一所懸命向き合った証拠です。これからの人生で、悔しい思いを何度も経験するでしょう。そんな時、それまで以上に真剣に向き合って踏ん張れる力になって表れます。悔しい経験の積み重ねは、あなたの人生を彩り豊かにしてくれると信じています。そのことを、私は先輩たちから学びました」と。スキージャンプのレジェンド葛西紀明さんは、こんなことを述べていらっしゃいます。「僕は何百戦もやっていますが、ほぼ負けています。ただ、勝つことのうれしさを求め、悔しさをモチベーションにしてやってきました」と。

 指導のあり方にも話が弾みました。辿り着いた一つが、海軍大将で戦死した山本五十六氏(1884年~1943年)の名言です。ご存知の方が多いと思います。「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば 人は動かじ」。30年以上も前になりますが、この名言から学んだことがあります。教え方には基本となるプロセス(トレーニング・サイクルと命名)があるということです。機会を改めて紹介したいと思います。

 Fさんとの別れ際に、ここ数年つくづく感じている個人的見解を伝えました。それは、知識・技能を含めた能力は、自分自身で考えて実践するということを通して、自主的・能動的に学ばなければ身につかないということです。教わることは、きっかけとして重要です。謙虚に教わることで、視野が拡がっていきます。さらに、教わったことを掘り下げて考え、考えたことを実践することで、自分自身の血となり肉となるのです。このことは、“自分を育てる責任は、先ず自分自身にある”ということを意味します。その指針は、人材育成の大前提の一つなのです。ですから組織の長は、“自分を育てる責任は、先ず自分自身にある”ということの真意を、メンバー一人ひとりに問いかけて共有することから始めなければなりません。本気になって、自分の言葉で語りかけることで、メンバー一人ひとりの人材育成の旅がスタートします。ジッと耳を傾けていたFさんから、2週間後に語りかける内容が送られてきました。

    EDUCOいわて・学び塾主宰/薬剤師  井上 和裕(2024.6.3記)

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