エッセイ306:ビジネスマナー研修における教育担当の基本姿勢

投稿日:2024年6月20日

 仕事人生において、4月で思い出深いのは、何といっても新卒新入社員との基礎研修でしょう。1987年から30数年間のほとんど毎年が、20才前後の若人と向き合い、共に学び合う毎日でした。最初に出会った方々の多くは、そろそろ還暦を迎える年代だと思います。どのような会社人生であったのか、率直な感想をお伺いしたい欲求に駆られる時があります。それ以上に、共に学び合えたことへの感謝の気持ちを伝えたいと思うようになりました。それぞれの立場で真剣に取り組んだ事実が、これまでの私の人生にとって有形無形の財産になっていたと実感しております。その間、観桜を楽しむゆとりは持てませんでした。その反動でしょうか、5年前からの4月中旬は、アチコチの桜並木を訪れる一週間になっております。

 さて、今回のエッセイは、ビジネスマナー教育を取りあげたいと思います。私が企画する新卒新入社員研修では、ビジネスマナー教育に力を入れて取り組みました。その理由と意味について、改めて考えみたいのです。

ビジネスマナー研修における教育担当の基本姿勢

 前文で申しあげましたが、私がこれまで企画運営した新卒新入社員研修(概ね、15日間から20日間)では、いわゆるビジネスマナーに関するカリキュラムに、かなりの時間とエネルギーを投入したと思います。進め方も、ビデオ教材を使い、グループ討議に重きを置いて、それぞれのマナーの意味や理由を考えるように工夫しました。さらに、知識で終わらせるのではなく、徹底したロールプレイングとミニテストで、意識することなく当たり前にやっているレベルを目指しました。

 例えば、朝夕の挨拶から始まって、講義の開始時・終了時、研修会場への入退室において、挨拶言葉とお辞儀の仕方をルール化して徹底させたのです。ご存知だと思いますが、お辞儀には分離礼と同時礼があります。いのうえ塾の場合は、分離礼で進めました。その理由は、機会を改めて紹介したいと思います。カリキュラムは、ビジネスマナー教育のねらいに始まって、「正しい姿勢とお辞儀の仕方」、「職場ルールの基本」、「電話の受け方・かけ方・取り次ぎ方」、「指示・報告・質問・意見」、「お客様の応接・応対」、「正しい言葉遣い」、「電子メールのマナー」、「ビジネス文書の書き方」、「人間関係のルール」、「冠婚葬祭・テーブルマナー」の10科目で、予定所要時間は15時間前後から20数時間で企画運営したと記憶しております。それだけの時間と手間暇をかけることに対して、異論だけではなく反論も耳にしました。当時の私は、経営トップから全面委任されていましたから、会社の意思決定ルールに則って、拙速を戒めて筋を通して対処しました。今回のエッセイは、“何故マナー教育に力を入れたのか”ということを提言することです。ここからは、当時の考えから現在の思いを含めて、アレコレ呟いてみたいと思います。

 54才から転職を重ねる毎に、マナー教育の意義を強く感じるようになりました。きっかけは、不惑の年令に達した方から、新入社員研修で徹底して学んだビジネスマナー教育に感謝されたことが、一再ならずあったからです。また、マナーに関して“どのように対処したら良いのか?”と訊かれた時、“当時の研修ノートや配布教材が、非常に役立っている”という声を、何度となく頂きました。いのうえ塾の場合、ビジネスマナーは一人の人間として生きていく上で必須の土台と位置づけております。さらに、これから続く人生を、より有意義で豊かなものにするために、早い時期にこそ身につけておくことに意味があると考えておりました。しかし、良~く考えてみますと、多くの方々は、義務教育から社会人になるまで、それほど大切で重要なマナーに関する基本や本質を学ぶ機会が殆どなかったのではないでしょうか。その様な現状認識から、新入社員研修において、かなりの時間をビジネスマナー教育に充てたのです。上記のような経緯や考え方に基づいて、ビジネスマナー教育に力を入れてきました。私の企画運営するビジネスマナー教育のねらいを、いのうえ塾研修ノート「ビジネスマナーの基本」(通称、空本)のはじめに明記しております。全文を紹介したいと思います。

【私たちは、社会の一員として、毎日たくさんのルールやエチケットを守って生活してきました。歯を磨く、お風呂に入る、席をゆずる、学校に行く、道路にゴミを捨てない、交通ルールを守る、…… 。これらは私たちの生活の土台であり、気持ちの良い毎日を送るために、なくてはならないものとなっています。会社のような組織の一員になると、さらに、組織人としてのルールも身につけ、守らなくてはなりません。そのルールは、これから始まる研修の中で、「ビジネスマナーの基本」として学んでいきます。ビジネスマナーは、ビジネス社会で気持ち良く仕事を進めるための土台なのです。これがしっかりしていると、知識や技術が一層輝いて見えます。逆に、マナーの悪い人は、どんなに素晴らしい知識や技術があっても、それが台無しになってしまうでしょう。そして、自分個人の責任だけではなく、組織全体の責任が問われることになるのです。自分一人の言動が、会社全体に関わってくることを、深く自覚しておかなければなりません。

 マナーには、まず相手の立場を思いやる心が必要となります。形が完成されていても、心がこもっていなければ、相手には何も伝わりません。とは言っても、心がこもっていれば形はどうでも云いという訳ではありません。正しい基本動作が身についていなければ無礼になってしまいます。ですから、常に相手に対するおもてなしの心を持ち、「ニッコリ テキパキ ハイオアシス」などのように、状況に応じた正しい作法が出来なければいけないのです。ビジネスマナーの真髄は、相手を思いやり、その上で、いかに組織全体で仕事をし易くするかというところにあります。お客様はもちろん、社内の人たちにも受け入れてもらえるマナーを身につけることが、社会人への第一歩といえるでしょう。これからの時間は、職場内や取引先との打合せなど様々な場面におけるマナーについて学んでいきます。いずれも社会人となった私たちが身につけなければならない基本的なものばかりです。皆で活発に意見を出し合いながら、明日からの活動の基本をつくりあげてみましょう。】

 今回もう一つ取りあげたい着眼点があります。人生の土台となるビジネスマナーを企画運営する教育担当の基本姿勢です。前々回のE森で紹介した「研修や日常の育成機会において実践し続けた私の指導ポイント」と併せて考えついた基本姿勢です。現在においても、私の自戒の指針となっております。

 ビジネスマナー研修における教育担当の基本姿勢

1.「マナーは守るもの」から「積極的に働きかけるもの」というスタンスで。

2.「なぜビジネスマナーが大切なのか、なぜ対人関係の潤滑油なのか」を、いつでも、どこでも説くことができる。

3.自分自身が、何を・どれだけできるのか、日々やっているのかを定期的にセルフチェックする。

4.常に、自分自身のスキルレベルを上げる、という向上心を持っている。

5.自社の中で、自他ともに認める  “ビジネスマナーの最高の模範者、一番の実践者”を目指すこと!

 エッセイ306回は、私が企画運営する新卒新入社員研修において、かなりの時間とエネルギーを投入しているビジネスマナー教育の意味と理由を取りあげました。地球規模の社会情勢、経営環境の変化によって、経営そのものを始めとして仕事のあり方が問われています。その中には、最近では見向きもされなくなった不易な能力的側面が存在すると思います。“その代表選手がビジネスマナー!”と、強く強く感じている私なのです。

   EDUCOいわて・学び塾主宰/薬剤師  井上 和裕(2024.5.11記)

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