エッセイ291回は、今年(2023年)のテレビ放送で私が感銘を受けた方々の取組みを取りあげてみたいと思います。目の前にある問題と正面から向きあった結果として、それぞれの志に根差したSGDs&CSV(参考①)的取組みを主導し実践していらっしゃる前田哲平さん(48才)、陶山智美さん(24才)、そして長坂真護さん(39才)の取組みです。
この3名の志と活動姿勢から、私の心は何かが滲み出るような感覚で揺さぶられました。真直ぐな志と超のつくほどの迅速な行動力に、理屈抜きで感銘を受けたのです。勇気づけられたました。その取組み実態は、日々のあり様と多様な可能性を指し示しています。特に、世のため・人のため、そして自分のためにも日々一所懸命生きることの大切さです。“どのような姿勢でどのように生きていったら良いのだろうか?”という人生観を考えるヒントが詰まっていると思います。さらに、それぞれの取組みこそが、付け焼刃ではない本物の地道なSGDsだと感じました。尚、それぞれの取組みの詳細は、ネット上にかなりのボリュームでアップされています。
今年知った心が揺さぶられた3名の志と取組み内容
前田哲平さんは、2021年1月に設立した株式会社コワードローブの代表者です。前田さんの取組みを知ったのは、1月16日(木)テレビ岩手(日本テレビ系列)の“news every”でした。ホームページによれば、株式会社コワードローブのミッションの一つが、“障害や病気を抱える人々の悩み解決を起点に、ユニバーサルな社会作りに貢献する”ということです。障害や病気を抱えるなど身体の不自由な方々が、健常者と同じ選択肢の中から服を選びファッションを楽しめる社会作りを目指して、既製服を着やすくお直しする日本初のオンラインサービス「キヤスクKIYASUKU」(2022年3月開始)の企画・開発・運営を事業とされています。
キヤスク開発の背景は、代表者の前田さんが、当時在籍していたユニクロの聴覚障害者の同僚と知り合ったことがきっかけだそうです。そこで、障害者の服事情を知りたいと考え、当事者へのヒアリングを開始しました。その結果、服の選択肢の少なさに悩んでいることが分かったそうです。試行錯誤を繰り返して、お客様が自宅ですべてを完結できるサービスフロー、一般的なお直しサービスでは簡単に受けてもらえない特徴あるメニューを提供する「キヤスクKIYASUKU」に行き着いたそうです。洋服から社会を変えていくフロントランナーに、ただただ頭の下がる思いがしました。尚、株式会社コワードローブは、目の前の課題に真摯に向き合い、SGDs達成に向けて活動している人たちを応援する第2回SGDsジャパンスカラシップ岩佐賞(2022年創設)を受賞されています。(3月28日朝日新聞より)表彰8部門の中の平和・人権の部でした。
2月2日(木)の岩手朝日テレビ“大下容子ワイドスクランブル”では、陶山智美さんが店主として運営する「おすそわけ食堂まど」を取りあげていました。高知県香美市香北町の自然豊かな山間地域の空き家を改装して作った16席の食堂です。2021年4月にオープンしましたが、その名の通り、規格外の売れない野菜を生産者からおすそわけしてもらい、旬の食材を使った日替わり定食を提供しています。老若男女が集まる人気の食堂には、日曜日にエプロン姿の子供がやってきて手伝っている姿も紹介されていました。
私の心に響いたのは、陶山さんがおすそわけ食堂を始めた理由です。鳥取県出身の陶山さんは、世界の食糧問題・貧困問題の解決策は農業ではないかと思い、その農業を学ぶために高知大学農林海洋学部に進学しました。そんな中で、出荷された野菜の戻り廃棄問題に出会い、自分に何かできることはないかと考えて思いついたのが、子供食堂のような“おすそわけ”をコンセプトとした食堂をやることでした。そして食堂を通して、地元の人たちが地域課題と向き合い、おすそわけやその心が地域循環できるようにすることを考えるようになりました。在学中から準備を進め、卒業を期に本格的に事業を始めたそうです。若い陶山さんが、明確なビジョンを描いて、ビジョン実現のために試行錯誤している行動力に圧倒させられました。
長坂真護さんの取組みは、1月15日(日)テレビ岩手の“真相報道バンキシャ!”で知りました。また、3月10日(金)NHKBS101の“ヒューマン”では、『アートの力でスラムを救え!~美術家長坂真護 』として放送され、早速予約録画しております。
長坂さんの志と行動力に、震えがなかなか止まらないほど、心揺さぶられました。西アフリカにあるガーナ共和国の首都アクラには、電子ゴミの墓場と言われるアグボグブロシーというスラム街があります。長坂さんは、2017年6月に当地を訪れ、先進国が捨てた電子ゴミを燃やして生計を立てている人々の実態に触れて、「アートでガーナを変えて見せる」と発言し、「100億円集めて、リサイクル工場をみんなにプレゼントする。世の中を変える。ガーナを絶対救うためにがんばります」と約束したのです。ガーナでのそのプロジェクトを支えているのが日本でのアート制作です。2021年度の売上総額8億円、売上の5%が報酬で、税金やスタッフの人件費を除いた全てをガーナのプロジェクトに費やしているそうです。また、そのプロジェクトを支援している企業の存在を知る機会にもなりました。今回は、“ヒューマン”での長坂さんの発言やレポートの中から、私の心に貼りついたいくつかを紹介したいと思います。
- みんなでスラムを無くす。そこに報いを得られなければ、僕は地獄に落ちると思う。
- 金を渡すのではなく、環境と経済活動が両立する持続可能なシステムを作る。その第一歩としてリサイクル工場を建設した。それ(製造したリサイクル品)を外国に売って雇用を維持すれば、課題が同時に解決する。
- この絵の本当の価値は、今の僕の絵の技術だけなら多分200万円位。貧困地の強いエネルギーを先進国で見せる衝動を利用して2000万円で僕のアートが売れる。(顧客から)お金を預かっている感じですね。僕がリサイクル工場を造らなかったら令和の大ペテン師ですね。
- もう決めた、全員雇用。…… 100人だったら、100人分赤字でも自分のアートで稼いでやろうと思って。彼らが主役になるためには、オラクルとか新しい経営者が健全な黒字化とサスティナビリティ(持続可能性)を維持する世界を目指して走る。それを僕は全力で応援する。(自分の力で歩き出せる日まで)
- 自分らしく生きる場所は、自分で作らなきゃいけないなと思って、だからこのガーナの地で数千エーカーの土地を手に入れれば、そこに大きなサスティナブルな街を作れるんですよ。そこに最終的な僕の居場所があるんじゃないかと思っていて、だから頑張る。だからもがいて、バカでも思いっきり楽しんで、この世界をきれいにしたいなと思うんです。
- 私たちは、きょうではなく明日を見つめています。マゴ(真護)と一緒に働いていきます。未来を良くしたいから。(元バーナーボーイのアブデラ談)
長坂さんが何故のこのプロジェクトに命を懸けているのか、私ごときにはその経緯や思いを語ることはできません。恐縮ですが、現在公開されている各種情報をご覧頂きたいと存じます。
紹介した3名の志とそこに至った経緯、そして取組み実態を知れば知るほど、私自身も生きている限り問題意識を持ち続けて行動しなければいけないと感じております。喜寿目前で、心技体の衰えが顕著な私ではありますが、思いはキチンと整えておかなければいけませんね。もう一つ、感受性のアンテナ感度を日々高めていると、素晴しい取組みに精を出していらっしゃる数多く方々を知ることができます。生き方を教わるヒントの在処はイッパイあるのです。
EDUCOいわて・学び塾主宰 井上 和裕(2023.9.18記)
【参考①】CSVとは、Creating Shared Value (共通価値の創造)の略称です。2011年、「競争戦略論」で有名な米国の経営学者マイケル・ポーター教授が、ハーバード・ビジネス・レビューで提唱。企業における経済的価値創出だけでなく、社会と共有の価値を創造していくことを目指して、社会的価値をも生み出すために、様々な活動を自らが積極的に起こし、協業していく価値創造の実践が基本。