エッセイ275:君たちが会社を変えるんだぞ ~ Nさんとの再会で味わった縁の糸の不思議さ有難さ

投稿日:2023年3月20日

 この数年間、明るい心弾む出来事が少なくなりました。情けないのが、企業であれ個人であれ、いわゆる不祥事が目に余ることです。それも、企業や業界のリーダーと言われる方々が関与していることです。そんな著名な方々による歯切れの悪い言い訳や他人事と感じさせる対応には、もうガッカリさせられます。人間の歴史を紐解いていけば、それ以上の不祥事や裏切りが連綿と続いているのかもしれません。しかし、真正直に一所懸命生きている多くの市井の人間は、心の中で軽蔑していると思います。

 規模を問わず多くの会社や組織には、立派な理念と方針が存在します。不祥事は、それらと実活動が大きく乖離しているのです。言行不一致ということになります。私が企業を診る時、言行一致の度合いを評価尺度にしております。言行一致の程度で、企業の実態と実力は勿論のこと、何よりも活動の原点となる会社運営の本性が透けて見えるのです。所属する業界のパイが飽和状態になれば、ステイクホルダーからイの一番に退場勧告を受けることでしょう。企業にとってのSDGsの基本は、理念に即した正直な経営をぶれることなく地道に実践し続けることです。それが、私の見解になります。

 私がこの11年間お世話になっている中田薬局、前回のエッセイで紹介したうさぎ薬局は、掲げた理念実現のために、実直に言行一致を貫いた会社運営に徹しています。そのような会社と経営者に出会えたことが、私には何よりも幸運な人生の一コマなのです。出会いのきっかけを与えてくれたキューピットに感謝しかありません。そんな春めいた気分に浸りながらの呟きになりそうです。そうそう、今日は立春ですね。

君たちが会社を変えるんだぞ ~ Nさんとの再会で味わった縁の糸の不思議さ有難さ

 10年近く前、以前勤務していた会社の後輩Nさんと20数年ぶりに出会いました。岩手県遠野市のホームセンターでの思いも寄らない出来事でした。それ以来、何度か食事を共にし、途切れていた縁を紡いでおります。3年前の転勤でご無沙汰状態でしたが、紅葉に目を奪われ始めた昨年10月半ば、55才になったNさんから、思いの籠った嬉しいメールが届きました。Nさんのようなミドルシニアが、後輩にとっての身近な存在となっている限り、組織メンバーのモチベーションが萎えることはないと想像させられた内容です。以下、私とNさんとの出会いと関わり、そして今回頂いたメールについて紹介したいと思います。

 Nさんは、1989年(平成元年)TK販売に入社しました。その時の人事教育担当が私です。入社前年10月の内定者懇談会において、集合時刻を間違えて大遅刻したことが、懐かしい忘れられない思い出として残っております。同期の間では、今でも語り種になっていると思います。人懐っこい表情、陰日向のない正直で誠実な姿勢から、誰かれなく信頼されるナイスガイのNさんは、どこか引っ込み思案で、やや一歩下がってチームを支える役割が似合うタイプという印象を抱いておりました。再会後は、あれこれ気を遣ってくれました。私が在職中に企画運営した研修で学び合った馴染みの後輩とのコミュニケーション機会を、何度か作ってくれたのです。その心遣いが、何よりも嬉しかった。それからは、紡いだ糸が途切れないように、エッセイを押しかけでお届けしております。

 そんな矢先のこと、昨年(2022年)10月14日に“ご無沙汰しております”で始まるメールを頂きました。その中で、私の心に沁みたNさんの心意気や行動姿勢の一部を紹介したいと思います。それらは、私の経験則からして、実践することのハードルがかなり高いテーマなのです。読み返すほどに、私なりのエールで応援したくなります。そんなナイスミドルシニアの存在は、組織活性化を促進する得難い触媒になります。Nさんの姿勢から、多くのミドルシニアには、これまで培ってきた貴重な経験に自信を持って影響力を発揮して頂きたいと願っております。以下は、Nさんの了解を得て、私の心に沁みたメールの中身を抜粋してみました。

『 私が55才になって、最前線から離れて俯瞰できるポジションになってみると、現在の会社の問題が色々と見えてきました。一方、今までこれだけ会社のお世話になってきたのに、“何も残さずゴールして、後は次の世代の後輩に丸投げして良いのだろうか?”って、真剣に考えるようになってきました。 ……… それでも良かったのですが、いざ業績の右肩下がりが続いている現在では、考え方もやり方もドラスティックに変えないと生き残れません。しかし、昔の成功体験が忘れられず、現状を直視しないで、課題を先送りしているように感じてなりません。……… 今の賢い世代のメンバーは、とっくにおかしいと気づいていますし、ある程度の解決策も実は知っているはずです。それなのに、まだ気づいていない古いマネジメント方式を継承している多くのマネジメント層が、歯がゆくてたまりません。……… 私の今の立場は、部下がいるわけでもありませんし、教育担当でもありません。しかし、幸いこんな性格ですから、色々な部署の若手社員と仲良く対話できますし、たぶん皆さんも聴く耳を持って聴いてくれています。また、事ある毎に“君たちが会社を変えるんだぞ”と、説教じみたお節介を焼くこともできます。今は、それが楽しいです。……… 』そして、最近参考になったというおすすめ本を3冊紹介して締め括っています。

 改めて、“何が私の心に沁みたのか?その理由は何なのか?”を呟いてみます。

 リーダー職でもマネジャー職でもないNさんが、“お世話になった会社、育ててくれた会社に対する恩返し”を実践していることに心が動かされました。それも、定年までの会社における行き先が決まっていて、直接的影響力の及ぶ範囲が皆無に近い中での決断です。思いが確かで強かったとしても、実行に移せる人がどれだけいるでしょうか。そんな現実を思い浮かべると、Nさんの心意気と行動力に、心の底からエールを送りたくなったのです。さらに、そうまでさせる考動(思考&行動)姿勢の要因が何であるのか、想像力を働かせてみました。その回答を想起させてくれたのは、今回のメールの冒頭内容と何年か前に頂いたメールのある文言でした。それは、新入社員導入研修と数年間のフォロー研修で数多く学んだこと、遠慮なく語り合い共感し合った10数名の同期入社の仲間の存在だと思います。横一線でスタートする会社人生も、20年過ぎればそれぞれの職位に差がつきます。上下関係が生じますし、後輩が上司になることも厳然と存在します。Nさんは、そのような実態に一喜一憂し卑屈になるのではなく、自分自身の職位を受け容れて、その上で自分の役割をキチンと果たそうとしているのです。それも、Nさん自身が考えて行き着いた人生観・人間観・会社観に基づいた役割なのです。

 私は、入社一年目のまとめの研修で、このような問いかけをしていました。「同期入社であっても、20年も経てば上下関係が生じてくるでしょう。役員・部長・支店長もいれば平社員もいるということです。そうであっても、同期入社の同志として対等に議論し合える間柄であって欲しい。この一年間皆で語り合ったこと、こんな会社にしたいと議論し合ったことを忘れないで欲しい。人は一人では生きていけません。見ず知らずの人も含めて、多くの方々のお世話があって皆さん一人ひとりが存在しているのですから。…… 」と。この私の問いかけを、Nさんの人生観の根っこにしてくれていることが心に沁みました。

 さて、Nさんとの縁の糸は、新たな縁を呼び込んで、数年後に開花しそうなアナザーストーリーへと延びていく可能性を秘めています。30数年前の不思議な出会いから始まって紡いだ縁の糸が、絶えることなくしなやかに伸び続いている理由の中にこそ、サスティナブルな取組み推進を可能にする本質的要因が隠されていると強く感じております。Nさん。NさんにしかできないNさん流インフルエンサー役を楽しんで続けてください。キチンと受け容れてくれる、心ある同期や後輩は必ず存在します。そして、この恩返しの行動は、定年退職後の第二の人生をより豊かなものにしてくれると確信しております。

   人財開発部/EDUCOいわて・学び塾 主宰 井上 和裕(2023.2.4記)

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