前回のエッセイ256回では、私が意識している三つの視点(着眼点)を取りあげて呟きました。
一つ目の“本気にならなければ本物レベルには行き着かない”と、まとめの“倦まず弛まず本気になってコツコツ努力を積み重ねて、自分自身の能力を熟成させること”は、不惑を迎えて間もない頃に強く意識し始めた指針です。合併会社の新設部門(人事・人材育成関連)を任されましたが、仕事遂行に四苦八苦した時期でした。自信の無さからくる不安と焦りで落ち着かない気持ちの毎日で、目の前の課題解決の方途を、思いつくまま手あたり次第に着手していました。動いているだけで精一杯でしたから、何をどうやったのか、思い出すことができないほどです。そんな日々が1年以上続きましたが、不安と焦りは相変わらずで、途方に暮れる状況は変わりませんでした。逃げ出したい感情が沁みだし始めて数ヵ月後のある日、もう一人の私が恐る恐る顔を出したのです。その経緯が何であったのか思い出せませんが、“ジタバタしても始まらない。地道に取り組もう”という思いが、降って湧いたように現れました。冷静になって自己点検して納得したことですが、元来人付き合いの苦手な私は、余りにも周りの評価や見栄えを気にし過ぎていたのです。そこで、もう周囲の目など気にしないで、焦らずコツコツ努力することにしたのでした。そして、“本気にならなければ本物レベルには行き着かない”、“倦まず弛まず本気になってコツコツ努力を積み重ねて、自分自身の能力を熟成させること” と、自分自身に言い聞かせました。
今回のエッセイは、それ以外に私自身の指針となったアレコレを紹介したいと思います。それらは、能力開発を前進させるチェック項目として活用できると確信しております。
行き詰まった時には、謙虚に看脚下して原点回帰しよう
40才前後の数年間が、社会人となって二度目の大転換点でした。35年も前のことです。私は、新設部門(教育部)の実務責任者を拝命しました。お手本となるノウハウなどゼロですから、毎日が不安と焦りの連続でした。単身赴任で7時半から21時前後まで毎日仕事していましたから、満足な三度の食事を摂ったことはありません。もちろん週休二日制以前の時代です。私自身が納得できる仕事の出来栄えにはほど遠いと感じ続けながら、克服するべき課題が途切れなかったことが、ある意味で心の拠り所になっていたと思います。不思議な感覚ですが、忙しさが折れそうな気持ちを支えてくれていたのでしょう。就任して2年近く経った頃でした。“このままでは心身ともに駄目になってしまう。この壁を乗り越えなければ…”という思いが、顔を出してきたのです。行きつ戻りつ考えながら、優柔不断さをかなぐり捨てて、サイコロを振りました。行き詰まった時は、「謙虚に自分自身を看脚下しよう。足元を点検しよう。そして原点に立って倦まず弛まず努力を積み重ねよう。5年間、継続して実践する」と、決心したのです。現状の私自身にルーペを当てて客観的姿勢で看脚下したら、心の弱さを素直に認められるようになりました。本気で向き合っていなかったこと、中途半端で諦めていたこと、失敗を他律要因のせいにして逃げていたこと、等々……。その上で、新たな出発の土台となる視点を明確にして、原点回帰でリスタートすると決意したのです。
以下、その時に実感した視点のいくつかを披露しましょう。これらは、最近とみに忘れ去られている能力開発の基本のキだと思っています。“本気にならなければ本物レベルには行き着かない”と合わせて、これからの仕事のあり方や生き方を考える自己チェック項目として活用してくれたら嬉しく思います。先ず、“時間をかけて鍛錬したことしか身につかない”ということです。人材育成の仕事に携わって、つくづく感じています。部門責任者としては、“業績が低迷している時や意気消沈している時に頑張るのが真のリーダーの姿”と肝に銘じたことを思い返しております。
これらも含めたいくつかの指針を踏まえて、“倦まず弛まず本気になってコツコツ努力を積み重ねて、自分自身の能力を熟成させること”と心に刻んで現在に至っている私なのです。
人財開発部長 井上 和裕(2022.5.5記)
【参考】エッセイ288回:あれがあったから今がある~私の人生のターニングポイント(2019.3.25記)/エッセイ225回:私が仕事を好きになったのは、…(2020.10.10記)/エッセイ254回:不易と位置づけたい考動指針の本質的な基本着眼点(2022.3.21記)