28年前に作成したマネジャー基礎コース研修ノートが目の前にあります。初めて部下を持った新任マネジャー向け研修のメイン教材です。確か2泊3日の合宿研修でした。企画・教材作成から運営まで、プロジェクトチームの一員として参画しました。“マネジャーの役割”、“リーダーシップ”、“目標による仕事の進め方”、“OJTのあり方、進め方”の四つの単元で構成され、私が担当(教材作成、インストラクション)したのは、“OJTのあり方、進め方”、“目標による仕事の進め方”だったと記憶しております。一年後には、全ての単元を一人で企画・運営できるようになりました。
“OJTのあり方、進め方”の中に“効果的なOJTの基本5原則”というのがあって、これからの組織運営にこそ必須と思える内容に驚きを覚えています。今回のエッセイは、その5原則の紹介と、その中の一つに焦点を当ててみたいと思います。
ブラックリストではなくホワイトリストを持て
先ず、試行錯誤しながら辿り着いた“効果的なOJTの基本5原則”を紹介しましょう。
[原則1]傾聴対話を心がける [原則2]ブラックリストではなくホワイトリストを持て [原則3]結果ではなく、結果の基になっているプロセス(原因)を矯正する [原則4]性格ではなく、心構えに目を向ける [原則5]身を持って範を示す(率先垂範・知行合一)
その中から、「原則2:ブラックリストではなくホワイトリストを持て」を取りあげてみます。
どなたも、長所・短所を併せ持っています。また、その時々の状況によって、長所・短所が入れ替わることだってあります。エッセイ243回(メリット&デメリット考)でも触れました。マネジャー基礎コースのプロジェクト企画会議では、“人間にとって大切なことの一つが個性である。個性は十人十色だ”という結論に至ったと記憶しております。さらに、“個性を伸ばすために、どうしたら良いのか?”という議論の中で出てきたのが、“長所・短所を明らかにした上で、いかにして長所を伸ばすかに尽きる”ということになりました。きっかけは、“強みよりも弱みに目を向ける者をマネジャーに任命してはならない”という経営思想家ピーター・F・ドラッガーの主張でした。そのような経緯から「ブラック(短所・欠点)リストではなくホワイト(長所・利点)リストを持て」という表現が採用されたのです。ただし、ブラックリストも必要ですから、「ブラック(短所・欠点)リストだけではなくホワイト(長所・利点)リストも持て」というのが、正確な表現になります。一般論かもしれませんが、長所・利点よりも短所・欠点が眼につき易いものです。強調したかったのは、置き去りにされているホワイトリストを持つこと、ホワイトリストを基に個性を伸ばすことだったのでした。それ以来、私自身も、人の良い点に眼を向けるように努めました。私のホワイトリスト作りです。さらに、私の感じている長所・利点を、そう感じた理由も含めてそれぞれに伝えることも始めました。あれから28年経ちますが、この基本原則は、仕事の進め方や勤務形態が変わろうとも不易の人材育成の基本だと確信しております。
仲間や同僚、家族の長所・利点を見つける。それを、言葉を飾り立てずに自然体で伝える。この閉塞感の中で、我慢を強いられる中で、何と素晴しいことではないでしょうか。さらに、余裕があったら、自分の出来る範囲で、誰かのために尽力する、何かのために尽力する。何と素晴しいことではありませんか。そのような積み重ねは、今盛んに問われているSDGs(Sustainable Development GOALS/持続可能な開発目標)推進の原点の一つだと感じ始めております。もっと長所・利点に眼を向けましょう。もっともっと褒め合いましょう。そして感謝し合いましょう。75才になって、つくづく感じ入っております。
人財開発部 井上 和裕(2021.10.18記)