エッセイ212:同期の歌 ~ ONE TEAMの象徴として

投稿日:2020年8月20日

   ※エッセイ212の本文は、2020年3月15日(日)に脱稿したエッセイです。

 昨年11月2日(土)に閉幕したラグビーワールドカップ(以下RWC)2019日本大会から、数多くのことを学ぶことができました。改めて気づかせてくれたこともいくつかありました。

 “鉄と魚とラグビーの町”釜石の東日本大震災復興のためにも、地元開催誘致の旗を振り続けた一人が中田義仁さん(中田薬局代表取締役社長)でした。釜石誘致推進会代表、釜石開催支援連絡会副会長として、仕事の合間をぬって活動してきたことは、エッセイ198回の前文で紹介しております。開幕日(9月20日)の朝でした。中田さんから以下の内容のメールが届きました。

「正直なところ、いつもと同じ気持ちで朝を迎えました。特別な高揚感はないのです。今まで関わってきた子供が成長している姿、関係者の皆さんが喜んでくれているという瞬間が、一番嬉しく感じます。気持ちは、RWC後の釜石に移っています。一番難しい局面ですね」

 年が明けてからは、RWCのレガシー継承の新名所として、ラグビー神社建立に奔走されています。また、薬局経営者としては、健康サポート薬局という旗を立てて、今後の薬局のあり方を追求されています。その足取りは、新型コロナウイルス禍によって鈍足気味です。しかし、健康サポート薬局としてのあり方を、足元から見直す好機と捉えて、ビジョンの再構築を期待しております。エッセイ212回は、RWC2019日本大会から感じとったことの一つを呟いてみたいと思います。

同期の歌 ~ ONE TEAMの象徴として

 国家間の団体スポーツ競技において、多くの場合、国歌斉唱があります。私の受け止め方ではありますが、選手自身が声を大にして歌っているのがラグビーだと思います。他の競技の多くは、“声を出しているのだろうか?もっと思いっきり歌おうぜ!”と、そう感じることがあるのです。ラグビーの場合、どのチームもそうですが、国や地域の代表であることに責任と誇りをもって、覚悟して臨んでいると感じられるのです。感極まり涙しながら斉唱する選手もいらっしゃいます。その理由は十人十色でしょうが、ストレートで掛け値なしの使命感・信念の賜物だと感じさせてくれます。そんな姿に接していると、どこのチームであろうとも応援したくなるのです。

 また、前回(RWC2015)のジャパン共同キャプテン廣瀬俊朗氏は、自ら率いるプロジェクト“スクラムユニゾン”において、アンセム(anthem:国歌や応援歌)を選手と一緒に歌おうという活動をされていました。日本流のおもてなし表現として、他国のアンセムを精一杯歌う観客の姿が掛け値なしに好かったですね。ちなみに、ユニゾン(unison)とは斉唱のことですから、スクラムを組みユニゾンすることで、観客自身もノーサイド精神のONE TEAMになっているような感覚に見舞われました。ラグビーと言えば、正にその“ノーサイド精神”でしょうか。肉体がぶつかりあう格闘技に近いスポーツですが、試合終了後、敵・味方の別なく握手をし、ハグし、健闘を称え合う姿は、“お互いを認め合う”というノーサイド精神の自然な表現であることが明らかでしょう。ひいきのチームが負けたとしても、後味のすこぶる良い、そして清々しい気分に導いてくれるのです。

 今回のエッセイで取りあげたかったのが、ブレイブブロッサム(Brave Blossoms:ラグビー日本代表チームの愛称)のチームソング「ビクトリーロード」です。カントリーロードの替え歌ですね。チームジャパンの代表を最後まで争ったFWの山本幸輝選手らが作詞をされたそうです。試合だけではなく、練習やミーティング終了後、或いは試合前に、皆で歌って士気を高めていたようです。RWC2019のチームジャパンの合言葉ONE TEAMを支えてくれたと感じております。カントリーロードと言えば、多くの方々は、ジブリアニメ“耳をすませば”の挿入歌を思い出すでしょうが、原曲は米国カントリーウェスタンの名曲で「Take me home, Country roads」(日本語訳:故郷へかえりたい)というタイトルです。ジョン・デンバー、ビル・ダノフ、タフィー・ナイヴァ―トの共作で、日本でもファンの多いジョン・デンバーの代表曲なのです。

 ビクトリーロードの存在を知ったのは、RWC 2019日本大会開幕後だったと思います。聴いて直ぐに思い出したのが、1988年(昭和63年)の新入社員導入研修でした。私が専任教育担当として、初めて一人で企画運営した研修です。20数名の新卒新入社員との、合宿を含めた4週間の日程だったと記憶しております。通常のカリキュラム以外に、気分転換的な活動も組み込みました。その一つとして立ち上げたのが“同期の歌”プロジェクトで、以降毎年の定番行事となりました。研修期間中に、同期全員の総意で、同期入社者の絆の象徴としての心の共有歌を意思決定するプロジェクトです。飲みニケーションや何らかの取組・イベントでの締めの歌、お祝い事における応援歌、或いはスランプや挫折に出会った時に心を支えてくる歌、不思議な縁で出会った同期入社者の愛唱歌(Our Favorite Song)などを意図して企画しました。

 学生時代の4年間、私は東京薬科大学合唱団に在籍しておりました。当時の仲間とは、卒業してからも交流があります。集まった時、皆で合唱したくなる曲がいくつかあります。それらの曲は理屈抜きに、日常の気持ちの安定剤であり、明日からの活力剤になり、生きてきた喜びを感じさせてくれる存在なのです。そんなことが、“同期の歌”プロジェクトのきっかけになっていたと思います。正に、2019ブレイブブロッサムのチームソング「ビクトリーロード」と同じ原点なのです。それから、所属する会社は変われども、20数年間も毎年“同期の歌”プロジェクトを続けました。その多くは当時の代表的ヒットソングでしたが、その中から、“思いが籠められ考え抜かれた”と、私が感じた曲をいくつか紹介させて頂きます。

 先ず、プロジェクトをスタートさせた1988年(昭和63年)の「スタンドバイミー」です。かなりの時間をかけて議論していました。翌1989年(平成元年)は、水前寺清子さんの「365歩のマーチ」でした。この曲の歌詞を、これからの一人ひとりの生き方に重ね合わせて決めた、と受け取った同期の歌です。この2年間は、新入社員数が20名前後であったことから、気分転換策として合唱にも挑戦しました。ビリーバンバンの「白いブランコ」を、私が三部合唱に編曲し、研修中に練習を重ねましたね。研修最終日に披露して、当時の役員を驚かせた記憶があります。1992年(平成4年)の「それが大事」は、私も大声を出して歌いまくりました。2002年(平成14年)の「明日があるさ」には、ユーモアとセンスの良さを感じましたね。

 自分たちの思いをより籠めて、歌詞を替えた同期の歌もあります。その最初が、2007年(平成19年)の「世界に一つだけの花」でした。“世界”を会社名にし、主要なキーワードが散りばめられているのです。数百人参加の会社研修会で披露し、大喝采を浴びていました。2008年(平成20年)は、ジブリアニメの「カントリーロード」の替え歌でした。新入社員導入研修後の入社式では、ところどころで二部合唱を響かせてくれました。心温まる綺麗なハーモニーには感嘆しました。合宿形式の3週間でしたが、夕食前後の練習が思い出されます。RWC2019のチームジャパンのビクトリーロードから、11年前のその出来事が蘇ってきたのです。景色は異なりますが、今回のブレイブブロッサムのようなONE TEAMだったと思います。その根底には、10数名全員で理念や志の共有化を目指したこと、真剣に真面目に将来像を模索し続けた事実が横たわっていたと思います。

 同期の歌の根底にある色合いは年代によって異なりますが、1988年からの“同期の歌”プロジェクトが、チームマネジメント活性化の触媒の一つとなっていたような気がします。そんな新たな挑戦は、逡巡と不安の渦の中で進行していきます。途中で“止めにしよう”という諦念感が首をもたげることだってあります。しかし、考え方や思いが最適と感じるのであれば、ぶれずに続けることではないでしょうか。そんなことを「ビクトリーロード」が思い出させてくれました。このことに気づけば、続けて良かったと思えることが、もっともっと出てくるような気がします。  

    井上  和裕(2020.3.15本文記/2020.6.3前文修正)

【参考】エッセイ148回:私のリーダーシップスタイルの原点は、……(2017.8.2記)

    エッセイ178回:三日坊主、十回積み重ねればひと月分になる!(2019.9.18記)の前文

最新の記事
アーカイブ

ページトップボタン