181回・182回のエッセイでは、採用や新入社員教育のあり方、それらの試行錯誤事例の概要を取りあげました。“行き詰まったら、一度原点に帰ってみよう”という言葉に導かれて、白紙のキャンバスに向かって土台から作り上げることにしたのです。見直し作業でよくやる失敗例の一つに、過去を全否定し「変える必要のないところ(=変えても意味がない)」、「変えるべきではないところ(=さらに悪くなる)」までも変えて、負のスパイラルに陥ってしまうことがあります。効果の出ないことにエネルギーを費やせば、メンバーのやる気までもが衰退してしまいます。見直す場合には、より知恵を働かせてメリットとデメリットを明らかにし、その時々の経営環境に応じて仕訳することが肝心でしょう。
今回は、課題や問題を目の前にして、PDCAサイクルを回す時の基本的進め方を取りあげてみます。何度となく触れてきた内容が中心になると思います。
何故、なぜ、ナゼを反復すれば、根源的な原因が見えてくる
20年以上も前になります。何かの研修で、ある問いかけをやってみました。“あなたの考える『仕事とは?』は何でしょうか”という質問だったと思います。ブレーンストーミング的なグループ討議でしたが、議論の中で意味深な一言がさらりと言いのけられたのです。“仕事というのは、日々発生する問題を解決することではないでしょうか!”と。考える間もなく、“言えてるネ”と納得してしまいました。そんな時に思いついたのが、問題の定義を明らかにして、メンバーが共有できる問題解決の基本手順を手引き化することでした。
それから数年後、2年間だけでしたがドラッグストアチェーンの本部で人材育成の仕事に携わりました。入社早々感じたことは、自主的に考えて自律的な仕事の進め方ができていないことでした。そこで、仕事の進め方の基本修得を喫緊の教育課題として、“仕事の進め方の基本をスキル化することが何故重要なのか!”を含め、PDCAサイクルをより具体化した“成功確率の高い「問題解決の基本手順」”を作成し直したのです。その中でも最優先の課題と位置づけたのが、解決の入口であるPLAN(計画)でした。そこで、PLANの流れを五つ(「手順1:問題把握」、「手順2:原因分析」、「手順3:対策案列挙」、「手順4:対策案比較選択」、「手順5:実行計画立案」)に分けて、肝心要となる考動指針や留意事項も明記することにしたのです。(別紙参照)
横道にそれますが、それから20年近く薬剤師の皆さん方と仕事を共にして、相変わらずPDCAサイクルのような仕事遂行上の基本スキル(共通専門能力)に問題があると感じております。顧客のためになる貴重な専門知識(固有専門能力)を勉強しても、その専門知識を十分に活かすための基本が身についていなければ、宝の持ち腐れになるでしょう。このことは、薬剤師としての可能性の扉をさらに拡げる度合いが、低空飛行状態のままであることを意味します。この件は、これまでのエッセイやE森で、何度も問題提起してきたテーマです。
話を本題に戻しましょう。
PLANの五つの手順の中でも、手順1と手順2がポイントではないでしょうか。それが私の実感であり見解なのです。成果につながる一番の勘所であり、この二つをしっかり押さえておけば、八割方問題が解決したといえると思います。
先ず手順1の問題把握から考えてみましょう。最初の関門は、問題の定義を再確認し共有化することです。その理由は、問題と原因を混同して迷路に入って彷徨うことがあるからです。この点が最初の関門だと常々感じております。問題とは、目標・あるべき姿(理想像)・ルールと現実の姿とのギャップのことです。そのギャップが何なのか、どれだけのギャップなのかを、四直四現主義(直ちに現場で、現人を、現物を、現時点で)で、事実(ファクト)を積み上げて、可能な限り数値化することが基本でしょう。この段階では取組み姿勢が旺盛ですから、メンタル的に熱くなって解決を急ぐ傾向が見受けられます。過去の経験が邪魔したり、先入観が幅を利かせたり、冷静さを欠いて拙速な方向へと進みがちになります。時間を要することも厭わない客観的で冷静な見解こそが、以降の手順のムリ(無理)・ムラ・ムダ(無駄)を防ぐのです。
次は手順2についてです。
問題を明らかにしたら、その問題がなぜ発生しているのか、原因・背景・経緯を分析し、それらの要因を絞り込むことが次の手順です。この原因分析は、PDCAサイクルをスパイラルアップさせるための基盤となります。原因の判断違いは、それ以降の手順が徒労に終わることを意味します。私が実践している分析作業では、次の二つのステップを踏むようにしております。
先ず、原因と思われる項目をリストアップすることです。それも、可能な限りたくさん出すことを意識したいのです。この段階では、質より量といえましょう。
次のステップは、知恵の絞りどころになります。キーポイントが二つあります。
一つは、原因の原因を追求することです。つまり原因Aであれば、原因Aの原因、つまり原因Bの追求です。さらに原因Bの原因である原因Cへと連鎖させて考えることで、問題発生の本質的原因が明らかになってきます。このやり方を5W法といいます。原因Aに対して、WHY(何故?)を5回(WHY→WHY→WHY→WHY→WHY)も繰り返して、真の原因により近づけていこうというやり方です。WHYという問いかけを繰り返すことで、問題発生の原因を掘り下げて、本質的で根源的原因に辿り着くことができます。対症療法だけで済まさないで、同じ問題を繰り返さない根治療法を追求したいのです。問題解決のあり方は、その時々の状況に応じて対処することになりますが、本質的側面に着手しなければ、喉元過ぎた段階で再発生する可能性が高くなるでしょう。同じ愚を繰り返さないためにも、様々な分野で応用可能な5W法をもっともっと活用するべきだと感じております。
もう一つは、整理整頓してまとめあげた原因一つひとつの相関関係にも目を向けて体系化することです。そうすることで、複数ある原因の優先順位や原因それぞれの関連性が見えてきますから、以降のステップである対策案列挙(手順3)、対策案比較選択(手順4)がより円滑に進められるでしょう。より的確な対策案の選択が可能になります。
右肩上がりの成長神話が崩壊してから、経営資源の効率化と即効性がマネジメント推進上の優先的目標になりました。その結果、時間を要する根治療法が敬遠されて、目先の対症療法を容認する傾向が促進されたのです。WHYという問いかけが疎まれてしまいました。最近気になることの一つに、企業不祥事が繰り返されていることがあります。それも、“あの一流企業が再び……”、“えっ…、あの企業が……”という具合に…… 。そして、官公庁や各種団体までもが、同じ不祥事を繰り返しているように見受けられます。問題が発生した時、その多くは対症療法から着手するでしょう。しかし、同じ轍を二度と踏まないように本質的・根源的原因を解決する根治療法を、同時に進めていかなければいけません。有名企業や行政機関の相変わらずの体たらくからは、口先だけの抽象的対症療法で嵐が過ぎ去るのを待っているとしか思えないのです。そんな問題意識が、5W法を思い出させてくれました。“5W法よ、永遠に!”と声高に申し上げたくなったのです。
最後に、私の初心話を初公開させて頂きます。今だから笑いを交えて紹介できる話ですが、何とも嘆かわしい未熟な時代の実話なのです。過去の赤面話としてではなく、自戒の教訓として公表したいと思います。
5W法の5W(WHY→WHY→WHY→WHY→WHY)を、5W1Hの5W(WHAT、WHY、WHO、WHEN、WHERE)と誤解していた時期がありました。教育担当なりたての頃です。私の担当する中途採用の新入社員研修で、「5W法の5Wは、5W1Hの5Wと同じです」とやってしまったのです。当然のことですが、直ぐに先輩講師からチェックが入りました。それ以降どのような心境で進めたのか、今でも忘れることはありません。
当時は、教材研究はもとより、準備のイロハも分からないままに、講師業務を担当しておりました。決して消えることのない、私の“初心忘るべからず”の第1号ですね。場所も光景も、そしてその時の心情も鮮明に残っております。この経験以来、準備万端調えることを、6W3Hで行動レベルまで落とし込んだ具体的準備を、誰よりも早期着手という指針のもとで続けております。
(2019.2.18記)