エッセイ172:ロールプレイングの目的は、進め方は…

投稿日:2018年11月19日

 私が主宰しております学び塾(平成30年6月3日)では、塾生のロールプレイングを行ないました。
 後輩指導の一環として、「行動理論とは何か?」、「行動理論の意義は何か?」について、15分間を目途に講義することを課題としました。いのうえ塾、学び塾を通して、行動理論の意義と不易性を繰り返し取りあげております。それだけ重要な引き出しであることから、キチンと理論武装して説得可能のスキルを身につけるためです。ロールプイング実施を明らかにした第20回学び塾では、参考として私が考える最善のパターンを実演しました。
 何事もそうですが、ロールプレイングで演じること、つまり実施することが最終目的ではありません。どのような場合でも、その手法・手段を選択した理由があります。選んだ手法・手段のねらいが存在します。演じる立場の皆さんが、その理由やねらいを理解しているかどうかによって、事後の訓練成果に大きな違いが生じます。このことを、強く強く申しあげておきたいのです。私の知る限りでは、そこまで掘り下げた教育機会は少ないと思います。率直に申せば、ここ十数年間、出会った記憶が思い出せないのです。
 今回のエッセイでは、ロールプレイングについてまとめた最新の資料を紹介したいと思います。ロールプレイングを実施する時の教材として、是非ご活用頂きたいと存じます。

ロールプレイングの目的は、進め方は…

1.ロールプレイング(Role Playing)とは
 
 薬剤師と患者、或いは上司と部下、営業担当者と顧客というように、現実と同じような模擬場面を設定して、参加者が特定の役割を担って演技をする訓練手法のことです。
 これは、与えられた課題や想定される問題を『考える』とか『話し合う』ということだけではなく、一歩進んで自分なりに『解決策を考えて演じつくす』ことによって、問題解決のあり方や役割・立場の理解を、『身をもって体得する』という訓練手法です。役割演技法とも言われています。
 ロールプレイングは、ヤコブ・レヴィ・モレノが1923年に創案した心理劇から発展したグループセラピー(集団心理療法)です。元来、神経症や心身症などの治療を目指した技法でした。近年では、ビジネスマナーの基本動作や基本スキル、商談技術、服薬指導、対人関係やコミュニケーションスキルの訓練などに応用されています。

 *ヤコブ・レヴィ・モレノ(1889年~1974年:アメリカ人/精神医学者)
   ルーマニア生まれ。オーストリアのウイーン大学で医学、数学を学ぶ。
   アメリカに移った後も集団心理療法の研究を続けて、特に子供を対象とした集団療法を行った。

2.ロールプレイングのねらい

(1)『学んだこと(頭で理解した知識)』を演じてみて、実際に『出来ること(習慣化した技能)』につなげる。
      ※「百聞は一見に如かず、百見は一験に如かず」
(2)演技者と観察者が、技術を学ぶための実際的教材とする。
      ※ Learning by Doing
(3)失敗体験を分析して、反省点を見つけ出す。
(4)傍目八目の眼を養う。
(5)自己変革への自発的動機付けを喚起する。

3.期待される訓練成果

(1)相手の考えや感情の動きを掴むことの難しさを知る。
(2)相手の話しや訴えを、全て聴き取ることの難しさが分かる。
(3)傾聴すること、共感することの重要性が認識できる。
(4)対話やその進め方によって、都度状況が変わって展開することが分かる。
(5)自分自身の言動の実態が分かり、克服課題が見えてくる。
(6)その場の状況に応じた自主的行動、個別的対応がとれるようになる。
(7)同じやり方で対処しても、相手によって受け容れ方が異なることが理解できる。
(8)共通に理解できる言葉を活用することの必要性が認識できる。
(9)共通認識を確認して共有化することの重要性が分かる。
(10)ボディランゲージの効果が体得できる。

    信頼と安心のコミュニケーションの難しさを意識するようになる

4.基本的な進め方

(1)目的や進め方(演技の基本ルール、演技時間)の説明
(2)役割、想定項目の提示
(3)観察者のフィードバックのやり方の説明
(4)演技者の決定、演技順番の決定
(5)演技者の事前準備
(6)役割の演技
    ・全員への想定項目、目標の説明
    ・全員の拍手で演技の本番スタート
    ・観察者はロールプレイングコメント用紙に気づいたことを記入
(7)演技の評価・分析とフィードバック
    ・観察者の感想
    ・フィードバック(VTR)とトレーナーの講評
    ・演技者自身の感想
(8)再演技

5.心構え

(1)明日の覚悟は覚悟ではない。“今この時”と覚悟して、本気で取り組む。
(2)本番は稽古のつもりで、稽古は本番のつもりで。
(3)“我以外皆我師也”の姿勢で。
(4)結果ではなく原因(プロセス)を気にせよ。
(5)“あがり防止の良薬なし”と心得よ。
     ①自信の持てるスキルを身につけるしかない(基本の修得)。
     ②目標必達魂を持つこと。
     ③万全の準備をすること(備えよ常に)。
    万全の準備をした上で、
     ④“失敗してもともと”と開き直る。
     ⑤次の人へのサンプルと割り切る。

                                                                 (2018.8.20記)

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