前回と前々回の2回に分けて、私が提唱しております「教育の基本理念(人財育成の着眼点)」の全文をご紹介いたしました。今回は、「教育の基本理念」を実現するための行動指針の必要性を感じてまとめたものを取りあげたいと思います。
その10カ条の指針には、「教育活動の基本原則」と命名しました。「教育の基本理念」とともに、人財育成のもう一本の大黒柱として、車でいえば両輪と位置づけて現在に至っております。
その基本原則は、人財育成機会全般を企画・計画・運営する時の具体的な意思決定基準や行動指針となるものです。企業内教育に散見する“総論賛成、各論反対”の歯止めの役割を担ってくれることも期待しているのです。“やって良いこと”、“やるべきこと、やらなければならないこと”だけではなく、“やる必要のないこと”、“やってはいけないこと”を判断する時の基本指針なのです。
100年以上も前に、ジェームズ・アレンは言いました。“人は考えた通りの人間になる”と。基本理念と基本原則が完成した時、アレンの言葉を心に貼りつけて、志実現のために日々精進すること、失敗を恐れずに試行錯誤し続けることを、心静かに誓いました。その誓いは、私にとりまして、いつまでも忘れてはいけない大切な記憶の一つとなりました。
私の提唱する「教育活動の基本原則」1~4
●原則1『会社・各組織の教育方針・教育計画と社員一人ひとりの個別育成計画を、できる限り合致させること』:目標による管理
P・F・ドラッガー氏をご存知ない経営者・管理者はいらっしゃらないと思います。日本の企業経営に多大な影響を及ぼし、“経営の神様”とか“マネジメントの父”といわれた経営学の第一人者でした。
ドラッガー氏は、こう言われたそうです。「経営に哲学があるとすれば、それは“目標と自己統制によるマネジメント”である」と。“目標と自己統制によるマネジメント”は、通称“目標による管理(マネジメント)”とか“目標管理”と呼ばれております。
仕事の進め方の基本は、“目標による管理”を土台として、PDCAサイクルをスパイラル状に回していくことだと思います。人財育成は、その“目標による管理”に包括して進めていくルーティーンでなければいけません。さらにこの原則1は、原則5と6を実現するための大前提であり、スタートラインなのです。
●原則2『現場に適合した教育を、自力で実施すること』:現場密着型教育、研修企画検討表
社員育成や企業内教育を他人任せにしたら、一体どうなってしまうのでしょうか。アウトソーシング主流で良いのでしょうか。それらは、マネジメントの基盤である社員育成責任の放棄であり、経営資源の退化につながります。自社の社員を自力で育てられない企業に、明るい未来が訪れるとは到底思えないのです。
もう一つ、教育は机上論だけでは運営できません。各現場の個別の原因や事情に適合した教育内容でなければ、成果に結びつかないのは当然と言えましょう。成果に結びつかないことに対して、誰だってシャカリキになれるわけがありません。そうならないために、全ての教育機会は“研修企画検討表”を使って、十分な実態解明をベースに推進することです。教育手法は、実態解明後の検討テーマになります。
現場密着型教育を、方針も目標も計画も無しの『現場丸投げ方式』と勘違いしている方が、思った以上に多いことも気になります。それをOJTとは言いません。OJTの勉強不足・理解不足・認識不足が、本末転倒の勘違いをさせてしまうのです。
●原則3『いま必要な教育を優先的に行なうこと。やる必要のない形式的教育を、わざわざ行なってはいけない』:教育ニーズを明確に(研修企画検討表)
研修・セミナーでもOJTでも、実施することが目的であってはいけません。開催して自己満足しているケースが多いように感じております。そんな目的曖昧の教育は、成果が得られないばかりではなく、時間の浪費、費用の無駄遣い、やる気の喪失…、悪いことだらけでしょう。
研修を含めた教育機会の企画は、問題解決の基本手順に則った“研修企画検討表”を活用して、事実に基づいて比較検討することが肝要です。ルールを決めて、関係者全員に徹底するだけで済むことだってあります。仕事同様、企業内教育は緊急度と優先度を明確にして推進するものです。「時は金なり」を知らない教育担当者や管理者には、“喝!”を出すことになります。
●原則4『教育は人事機能の一部である。だから、人事制度全般と連動させて企画運営すること』:人事と教育の一元化、キャリアプラン・キャリアパス
人財育成の推進には、企業全体の業務内容と各組織の関連を理解しておくことが必須条件となります。そうしませんと、各組織バラバラの詰込み教育が一人歩きして、空中分解するでしょう。
人事制度も教育制度も、人的資源の革新を通して、企業理念を具現化するためのものです。経営環境に即応するためのものです。人事機能の鳥瞰図を描けば全体が見えてきます。企業内教育の企画は、そこからがスタートとなります。社員一人ひとりのキャリアプランとキャリアパスが、個別育成計画の柱になるのです。
(2016.7.20記)