一年前になります。料理研究家の小林カツ代さんが亡くなられました。平成26年1月23日(木)のことでした。
簡単ではあるが手抜きではない料理研究家として、料理のあり方をトコトン追究された方であることを知りました。確か、NHK-TVの映像ファイル「あの人に会いたい」という再放送番組(10数分)だったと思います。その時のあの人は、亡くなられた小林カツ代さんでした。
“伝えること”は、料理研究家の主要任務だそうです。その番組の中での自信に満ちた表現は、私の心にジャストフィットしたのでした。『料理は化学です』と …
その言葉に魅せられた理由が、二つありました。
高校時代、私の大好きな教科の一つが化学でした。とにかく、成績が良かったのです。文系志望でしたが、理系志望者を抑えて県内模擬テストで一番だったこともありました。そのことが、薬学部受験のきっかけでもありました。
もう一つは、日頃から“企業内人事も社員教育も化学反応だ”という認識をもっていたからです。ある時から、社員一人ひとりの知恵による化学反応こそが、人材育成の根幹だと考えるようになりました。化学反応の触媒役に徹して言動することは、人事教育担当のあり方の重要な行動指針の一つだと考えております。今でもそう位置づけております。
『料理は化学です』に心を強く揺さぶられながら、昭和61年(1986年)10月に教育部門責任者を拝命した時のことを思い起こしております。
このエッセイは、企業の教育担当者、人材育成に関わっている方々への問題提起です。
鍵をかけていた私の小さなプライド
チームワークの面白さの一つが、“三人寄れば文殊の知恵”をお互いが実感できることではないでしょうか。それは、チームメンバーのそれぞれの知恵が、自発的に化学反応を起こして新たは知恵が生み出された結果、一人では実現不可能であった課題が解決できるようになることです。よく言われます組織活性化とは、それぞれの組織の中に、様々な化学反応を巻き起こすことではないでしょうか。前文で申しあげましたが、“化学反応を発生させたり巻き起こす触媒役が、人事教育担当の職責を果たす幹”と自認して以来、今でもその考え方に変わりありません。
28年前に教育部門責任者を命じられて半年後、触媒役を果たすための人事教育責任者の必須要件として、二つの課題を設定しました。自分自身に課しました。
“全社員の氏名を正確に書くことが出来ること”、“顔と名前が常に一致していること”でした。『料理は化学です』に出会って、当時の苦悩を思い起こしたのです。
30年近く以前の当時、専任の教育部は会社にとって始めての部門でした。システムもノウハウも、そしてお手本もありませんから、頭を悩ませながらの試行錯誤の連続でした。試行錯誤というよりも、右往左往しながらの自信のない毎日でした。行き当たりばったりの日々でした。一歩進んでは半歩下がり、10歩前進しても10歩下がるといった具合です。
半年後の昭和62年3月下旬には、新卒新入社員が入社してきます。研修が始まります。未経験ですから、どのような教材を使ってどう進めるのか、それすらも分かりません。自信の欠片もありませんから、常に躊躇しながら恐る恐るの毎日でした。何をどうやって料理したのか、私の脳裏には何も残っておりません。思い出せません。
それから一年も経っていないと思います。先ず“在籍する社員を知らなければ職責を果たすなど出来ない”ということに気づいたのでした。どなたかのアドバイスだったのかもしれません。何かのきっかけが示唆してくれたのかもしれません。失敗から気づかされたのかもしれません。それも思い出せません。
当時の社員数は550名(内、正社員400名)ほどと記憶しております。東北6県に15の拠点がありました。社員名が記載された職制機構図(全拠点の組織図)で、氏名を覚えることからスタートしました。精神を集中させて丸暗記と音読を繰り返しました。昼食時間、終業後、帰宅後、休日を利用しては、拠点別組織別に社員名を何度も書き出して覚えました。どれだけの時間を要したのかも記憶から抜けております。
拠点での仕事がある時には、とにかく社員の顔を覚えることを最優先にした時期もありました。四直四現主義の会社でしたから、拠点回訪の頻度が多かったことは、今でも感謝しております。
元号が平成に変わった頃には、全社員の顔と名前が一致していること、全社員の氏名を記名できること、この二つはクリアしたと思います。さらに、一人ひとりの主なプロフィール(当然、マル秘事項)も頭の中に入れました。その会社では、14年間人事教育の仕事に従事しました。全社員の顔と名前が一致していたことは、人事責任者になってから、その重要度を強く感じるようになったのでした。
“全社員の氏名を正確に書くことが出来ること”、“顔と名前が常に一致していること”の2点について、口外したのは初めてになります。私には口に出して言えるほどの能力も公表できる特技もありませんが、この二つのことは私の心の中のささやかな自慢であり、仕事に対する責任感の表現であり、誠実な仕事遂行を支える小さなプライドでした。
*「料理は科学」という言い方をされている料理研究家もいらっしゃるようです。
小林カツ代さんは、「料理は化学」と表現されていました。科学と化学の違いを、どれだけ意識されて使い分けているのか、そのことは追究しておりません。科学と化学の違いを調べてみなければいけませんね。
(2015.1.22記)