対象が新社会人であれ、新任管理者や中堅社員であれ、基礎教育における教育ニーズの多くは、千載不易の側面が多いように感じています。だからと言って、毎年同じやり方でお茶を濁していてはプロ失格です。私の場合、最低年1回の見直しを欠かしたことはありませんから、教材の改訂は小まめに行っております。
中には、20数年間使い続けている教材があります。同じカリキュラムの同じ教材であっても、重要ポイント、マーカーする箇所、特に意識して実行することを奨励したい項目などは、毎年教材研究を欠かさずに見直しております。ストーリーや言い方、進め方も、一から練り直します。そうすることは、ある時から決意をした私の仕事観であり倫理観なのです
2年前から、いくつかのカリキュラムを抜粋して、保存している20年前、10年前、5年前のMY虎の巻の比較を敢行してみました。同じ教材でも、進め方、ストーリー、表現方法、補足教材などが、どのような変遷をしているのか、不易部分はどこなのか、・・・ に興味を抱いたからです。
ねらいやストーリーの骨格は不変でしたが、使う言葉の変化はありました。強調ポイントには、明らかな変化がありました。進め方も同様です。「プレゼンテーションの基本」という2時間のカリキュラムでも、ICT技術の急速な進展は、コミュニケーション能力の教育課題に対して多大な影響を及ぼしているのが分かります。補足資料が変わっているのです。強調したい文言や繰り返して方向づけする箇所にも、かなりの変化がありました。20年前までは当り前の行動様式であったFace to Faceの意義や、基本的な能力強化策を強調しなくてはならない場面も増えています。
教育機会における不易流行を意識しながら、見直しすることが学びそのものであって、そこから新たな見方や考え方、捉え方を発見することがあります。継続して学び続けことが、自力でコントロールできる数少ない成長手段であることに気づかされます。
今回のエッセイは、以前も取りあげました思考停止について、もう少し考えたいと思います。
気づかない思考停止の当り前化が心配で…
前文で申しあげましたが、ICT技術の急速な進展は、コミュニケーション能力の教育課題に多大な影響を及ぼしています。教育課題の捉え方が多様化しているようにも思います。何しろ、知りたい情報があれば、その多くがその場で入手可能になりました。ツールさえ手許にあれば、誰もが手軽に検索をして入手できる便利な時代になったのです。
情報量も情報入手速度も、10年前とは明らかに異なります。20年前とは隔世の感があります。私自身その恩恵を受けている身ではありますが、心の片隅でボソッと、それも無意識につぶやいていることがあります。日常茶飯事とは申しませんが、諦念感を伴った習慣化された心配事になっているのでしょう。
私のICTツールはデスクトップ型パソコンです。知りたいことや確認したいことがあれば、パソコン上の検索画面を開き、検索窓口に知りたい情報に関するキーワードを入力するだけで、選択に困るほどの既存情報が表示されます。その中から、不確かな選択基準の下、“これならば信用できそう”と判断した情報にカーソルを合わせてクリックをします。
多忙で余裕のない時には、その内容をほとんど百%正しいと信じて、解ったつもりになっている自分の姿を見る時があります。時間的精神的余裕があると、そんな自分自身にゾッとする時があります。私以外の方々に同様のケースを感じた時には、末恐ろしくなった時もありました。
そんな危機感を覚えた時には、何かの本で読んだ問いかけを起動するように、私の脳内リスク監視システムにセットしております。
「クリックしただけで“わかったつもり”になってはいませんか?」という問題提起です。
この“わかったつもり”ということを、“情報入手=理解という思い違い”のことではないか、と解釈しております。表現を変えると、いわゆる思考停止状態を指します。
この思考停止状態、かなり蔓延していると感じております。20年前には当り前に行われていたディスカッション(討議)が、教育手段として強調されていることも一因です。
さらに心配していることがあります。思考停止状態に気づいていないことです。それは知らず知らずの内に思考停止を容認しているマネジメントや教育機会が増殖しているのではないか、という私なりの心配にまで発展しているのです。そのことは、思考停止状態が及ぼすであろう将来の負の遺産に対する危機意識へとつながっています。
考えること、掘り下げること、組み立てること、追究すること、…… 。最近、とみに申しあげる機会の多い“問題解決の思考プロセス”は、科学者の一員である薬剤師にとって必須の行動習慣でなければなりません。思考習慣であって欲しいと思い続けております。
考える力は、一歩踏み出す行動力であり、“迷う”ということは考えている証左になります。
進展し続けているICT化による手軽さや便利さの恩恵を、否定したり避けて通ることは出来ませんし、するべきことでもありません。情報ソースを探す、欲しい情報に触れる、地球の裏側の出来事がリアルタイムに分かる … 。現在のICTツールは、知るきっかけとしての優秀な手段であることに変わりありません。しかし、そっくりそのまま鵜呑みにするのではなく、それぞれのツールや手段の長所、短所を理解して、自分の頭で思考しながら活用することです。ネット情報を活用する時には、複数の情報を調べて、その内容を突き合わせて一度は自分の頭で考える行動習慣を身につけて欲しいと思います。
それにしても、健康食品、化粧品、トイレタリー商品…、数多くの謳い文句がネット上を支配しています。消費者による絶賛の声を尻目に、“ホンマかいな?”と高を括っております。
アンチエイジングは、アンチ思考停止がナンバーワン&オンリーワン!
ここ数年、つくづく感じていることを取りあげました。
(2014.11.9記)