労働災害の分野で有名なハインリッヒの法則は、ある工場で発生した数千件の労働災害を統計的に調査した経験則だそうです。1件の重大事故があったとすると、その背後には29件の軽微な事故、さらに300件の無傷害事故(いわゆるヒヤリハット)が隠れているということで、1:29:300の法則とも呼ばれています。世界中の労働災害のバイブルとしてだけではなく、薬剤師の世界での調剤過誤を始めとして、様々な分野において活用されているようです。
さて、ハインリッヒの法則と聞いて、あなたはどのようなことを思い浮かべますか?私の場合は、私自身の自家用車運転中におけるヒヤリハットです。数年前から、それまで考えられなかったヒヤッとすることが増えてきました。具体的には、“右左折時に道路から後輪がはみだす”、“歩道のガードレールや柵にぶつかりそうになる”、“信号のない横断歩道の歩行者に気づくのが遅くなった”、“信号に対する反応やブレーキ操作が明らかに鈍くなった”などが挙げられます。また、狭い道路や夕暮れ時の運転が怖くなってきたので、、5年以上前から夜間の運転は控えております。何しろ事故は、絶対に許されません。そのような実態に鑑みて、免許返上を意識するようになりました。一方で、買物や通院などの移動手段として、車なしには考えられないのが現実です。昨年秋に運転免許証の更新手続きを行いましたが、次回までには返上時期を明らかにする予定でおります。
さて、エッセイ334回では“有意義な人生へと導いてくれる、私の考える肝心要の心構え(思考習慣)”を呟きました。さらに、研修などの教育機会においては、その意味を共有することの重要性を提起しております。今回は、10年ほど前から取り組んでいたある事例を紹介したいと思います。2018年の新卒新入社員導入研修での取組みです。
私の考える考動指針~「だから、私は……します」を考える
先ず、私の考えを問題提起として投げかけた全内容を一字一句紹介しましょう。2018年度新卒新入社員導入研修のオリエンテーションにおける問題提起と宿題提案です。
‴ 今から8年前の出来事と言えば、東日本大震災をおいて他には考えられません。思い知らされたこと、決して忘れてはいけないことが、山ほどあるのです。想定していた通りの風化現象のはやさが気になり、被災地での出来事を学ぶ機会を企画して、継続開催にも力を入れました。現役薬剤師、そして薬学生に対してです。私個人にとっては、それまでの私の思考習慣・行動習慣に変化をもたらしてくれました。そんな8年間でしたが、その要因は3.11からの教訓なのです。そして、それらは、これから何十年も続く君たちの人生の心構え(思考習慣)として考えて頂きたいことなのです。先ほどの「“WELCOME”いのうえ塾へ」で言えば、『一人ひとりが目的意識を持って、自ら考え、自ら判断し、自ら行動するというセルフマネジメント力を発揮して、自分自身の潜在意識・潜在能力を引き出す人財』実現のための前提要件となる、非常に重要な心構えだと考えています。皆さんの心に、どれだけ響いてくれるかは何とも言えませんが、是非受け止めて、一人ひとり考えて頂きたいと思います。
(1)想定外と決別する → (だから)想定していなかった事態に遭遇しても、その事態を受け止めて向き合うこと。
※言い訳は他律要因でしかない。想定外は言い訳と心得よう。想定外は、思考停止に陥る。
(2)一生かかっても知らないことが、エベレストの高さほどあることを自覚する →(だから)謙虚に学ぶ。教えを乞う。我以外皆我師也。
(3)人は誰でも、一人では生きていけない →(だから)周りを活かす。共に。法令遵守(コンプライアンス)。
(4)十人十色、百人百色、千人千色 →(だから)人の数だけの回答がある。傾聴する。自分:相手=49<51。
(5)人は誰でも、好き嫌いがある →(だから)全員が満足する回答はない。絶対に正しいという答えはない。
これらの大前提に納得をしたら、「だから、私はこうします」という具体的考動(思考&行動)指針を表現してください。ここでは、例として私見を紹介したいと思います。そして、この五つの心構えと自身が考えた考動指針を大前提として、目の前の問題や課題と向き合ってください。数年間は、これらを活かして考えることは難しいと思います。しかし、スランプが続いたり、チーム運営が難しくなった時には、この前提条件を紐解いてくれたら、何らかのヒントが出てくると思います。こうやって自力で考えながら、視野を拡大して、引き出しを増やしてください。
もう少し具体的な指針をプレゼントしたいと思います。最初に申しあげましたが、頭がいっぱいで消化できない方は、このように捉えてください。今回は、これらの中から目標を2項目選んで頂きましょう。それを本日の研修レポートに書き記してみましょう。選択と集中の考え方で、スキル(技能)化してください。三日坊主だって、10回やれば30日実行したことになりますから。何事も積み重ねなのです。積み重ねこそが、真のプロへの王道なのです。‴
心構え(思考習慣)として提案したのが、“(1)想定外と決別する”、“(2)一生かかっても知らないことが、エベレストの高さほどあることを自覚する”、“(3)人は誰でも、一人では生きていけない”、“(4)十人十色、百人百色、千人千色”、“(5)人は誰でも、好き嫌いがある”の5項目です。さらに、私の考えた具体的考動指針を、イメージし易い例として応答の対話形式で共有化しました。そして、各自の考える考動指針を掘り下げて意思決定し、ひと月半後の5月中旬を納期とした宿題にしたと記憶しております。
今回のエッセイは、数人の方からの依頼がありましたので、その概要を取りあげてみました。参考になれば幸いです。
EDUCOいわて・学び塾主宰/薬剤師 井上 和裕(2025.7.18記)

