エッセイ307:手間暇かかるのが人材育成。だから、しっかりと手間暇をかけるのです!

投稿日:2024年7月5日

 新年度を控えた2月中旬、40才間近の知人Fさんから電話がありました。私の年令の半分ほどの方ですが、以前同じ会社に所属していた仲間のような間柄です。時候の挨拶に始まって、しばし近況報告に花を咲かせた後、「実は、後輩社員の育成のあり方について、お会いしていろいろ相談したいのですが…… 」と、お願いをされたのです。会話の内容から、かなり悩みながらも日々試行錯誤している様子が伺えました。さらに、原点に返って、知り合いの先輩から教えを請いたいという思いが、ひしひしと伝わってきたのです。何とかお役に立ちたいと思い、それから半月後、意義の有る対話を数時間持つことができました。

 今回のエッセイは、その当日俎上に上った人材育成のあり方例を中心に、無作為的に呟いてみたいと思います。かなり地味で、当たり前と思える内容です。また、“何が正解なのか?”は、その時々の状況によって異なってくるということを、Fさんは納得してくれたようでした。大切なことは、疑問に感じたこと、問題と思うことについて、身近な仲間と直接会って、真面目な雑談会で意見交換することが、一番の対処法だと強く感じております。一方で、そのような機会がどれだけ持てているのか、以前からかなり気になっている私です。

手間暇かかるのが人材育成。だから、しっかりと手間暇をかけるのです!

 先ず確認したかったのが一人ひとりの仕事そのものが、最高の能力開発機会である”ということでした。つまり、日々の仕事のやり方にこそ育成課題が詰まっている”という人材育成の大前提を共有したかったのです。そこで、私が提唱する教育理念(全10カ条)を紹介しながら、人材育成の基本的考え方とその意味をお伝えして真面目な雑談会の幕を開きました。

 最初に出た話題は、“人材育成は手間暇かかる”という共通認識でした。また、現状の対応策に眼を向けてみれば、“目先のお仕着せ型研修がメインで、中長期視点に立った仕事を教材とした計画的人材育成はお寒い状況にある”という危機意識をお互いが抱いていることも分かりました。そのような率直な対話と気負いのない雑談を通して語り合った人材育成のあり方例を、いくつか紹介したいと思います。“手間暇かかる要因は何だろうか?”ということから、本質追究の対話がスタートしました。

 人材育成という任務を果たすためには、“失敗を含めた豊富な経験と的確な実務遂行能力”、“個別育成課題に対する状況対応力”の二つが、身につけておきたい優先度の高いスキルになります。それらは、人材育成を任務の一つとするリーダーにとって、避けて通れない当然の啓発課題であることを意味します。しかし、そう簡単に修得できるスキルではありません。相応の時間と経験を要しますから、どうしても手間暇かかる要因の一つになるでしょう。スキル修得に時間を要するという観点からすれば、社会人となった段階から意識したい能力と、私自身は常々感じておりました。ですから、部下を持つことが明らかになった段階で、“人材育成は手間暇かかる任務”と肚に収めることが、肝要な着眼点だと思います。言い方を変えれば、“人材育成は手間暇かけて取り組む重点任務”と、肚を括ることではないでしょうか。手間暇かかるという意味では、粘り強く継続して試行錯誤する気力の存在が、どうしても必要になってきます。焦りは禁物です。成長を急ぐと、大切な着眼点を見失ってしまいます。根負けしないことです。根気よく向き合いましょう。

 “どのように対処したら良いのだろうか?”という具体的方途に関しては、1時間以上かけての対話を繰り返しました。議題に上がった内容を、いくつか取り上げてみたいと思います。一つ目は、“目標や指示することの意図を説明し、納得して取り組んでもらう”ということです。目標には、全社目標、チーム目標、個人目標があります。先ず、それぞれの意図するところを対話形式で説明します。さらに、説明して終わりではなく、納得して取り組むレベルまでコミュニケートする努力が欠かせません。

 二つ目は、目標達成のための具体的方途を、一人ひとりに掘り下げて考えさせることです。本質追究姿勢のブラッシュアップが主な目的となります。その上で、自主性・自律性を高めるために、考えた方途案をグループミーティングで揉み込むのです。各自が考えてチームで議論しながら意思決定することを繰り返すことで、能動的な行動目標へと変身するでしょう。グループミーティングの進行役は、状況に応じてメンバーに任せることも一法だと思います。状況に応じてというのは、正に後継者育成という意味が含まれます。ただし、当人とのコンセンサスを忘れてはいけません。意図することを率直に伝えて、キチンと動機付けすることです。突発的な無理強いは、やる気を削ぐことになります。その他には“定型業務以外にメンバーの出番を作って場数を踏ませてやり切らせる”ことが、三つ目のポイントになります。上記のミ-ティング進行役指名と同じように、メンバーに対して主旨を説明することを忘れてはいけません。

 メンバーに出番を作った私の実践例を紹介したいと思います。グループ運営の一部を、メンバー一人ひとりに担ってもらいました。月間重点商品の進捗状況をフォロー(実態把握と情報共有、目標達成の作戦会議運営など)することです。重点商品は、月替わりで毎月10品目ほどありましたから、一人当たり2品目は担当することになります。このやり方での収穫は、“目標達成に向けての諸準備を計画的に実践する行動習慣が身に付いたこと”、“メンバー間の情報交換や意見交換が活発になったこと”、そして“明らかに目標達成度がアップしたこと”でした。しかし、それらを差し置いて最高の収穫と感じたことがあります。それは、“活き活きと仕事に励んでいる姿”、“主体的に率先垂範を楽しむ姿”でした。

 もう一つ紹介したいことがあります。メンバー一人ひとりの個別面談を定例化することです。中堅クラスメンバーの場合は年6回を目途に、年間スケジュール化しました。新人クラスの場合は、月1回を基本として対応しました。面談の目的はいくつかありますが、その一つが“チーム目標達成を目指して、私自身がメンバー一人ひとりと真剣に向き合うため”です。“私の仕事時間は、メンバーのための時間でもある”ことを忘れないためでもあります。このことを教えてくれたのが「1分間マネジャー」(K・ブランチャード、S・ジョンソン:著/小林薫:訳/ダイヤモンド社)でした。出会ったのが、1987年5月下旬と記憶しております。

 管理している部下の顔を一人一人、一日のほんのわずかな時間でいいからチェックしよう。そして、部下こそもっともたいせつな財産であることを、肝に銘じよう。 (「1分間マネジャー」P.14より)

 今回のエッセイは、後輩のFさんと真面目な雑談会で語り合った人材育成のあり方例のいくつかを取りあげてみました。中には的外れもあるかも知れません。大切なことは、身近な同僚と、お互いの考えを出し合って意見交換しながら、その時点でベストと思える対処法を実践することです。失敗してもPDCAサイクルを回し続けることです。そのような行動作法が、アチコチで盛んに取り組まれているSGDsの本質の一つではないでしょうか。

     EDUCOいわて・学び塾主宰/薬剤師 井上 和裕 (2024.5.18記)

【参考1】私の提唱する「教育の基本理念(人財育成の着眼点)」理念5『私達の能力を発揮する場所は、仕事場である。最終的には、顧客との接点である現場や窓口、日常のオフィスとなる。そして、一人ひとりの仕事そのものが、最高の能力開発機会(チャンス)なのである。このことは、自分の手で課題を見つけだし、仮説を立てて、PDCAサイクルをスパイラル状に回すことを意味する』:仕事が教材/最高の育成テーマは、正しく仕事そのものです。日々の出来事です。日常の出来事を教材に出来るのは、社員一人ひとりの“問題意識”と“感受性”ではないでしょうか。育成&成長の教材は、自分の周りの身近なところに転がっています。自分事(じぶんごと)として捉えたいものです。そして、解決するためには、具体的な目標と6W3Hを動員した計画が不可欠です。さらには、“成長という産物は、簡単には手に入らない”を大前提として、“倦まず弛まずコツコツと対処するべき”と、つくづく感じています。

【参考2】エッセイ305回:私の目指したリーダーの姿(2024.4.19記)/エッセイ303回:目標設定をする上で、こんなことが起きていませんか?(2024.3.21記)

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