エッセイを始めたのが2005年4月でした。19年近く前になります。その当時、正社員として勤務していた調剤薬局チェーンP社のホームページを抜本的に改変することとなり、その役目が私に回ってきたのです。リニューアルオープンしてからは、日々の活動を中心とした更新情報提供に注力しました。トップページのお知らせコーナーでは、私の任務である社員育成の取組み事例を、主に薬学生向けとして詳しく紹介しました。会社のイメージアップへの貢献度は、かなり高かったと思います。さらに、目玉コンテンツとして、二つの定期配信企画を思いついたと記憶しております。
その一つは、医薬品に関する諸情報をコラム形式にした「薬識蔵」です。提案者でもあったベテラン薬局長Aさんが執筆してくれました。もう一つは、現役薬剤師と薬剤師の卵である薬学生の視野拡大を目的として、エッセイ形式で、その時々感じた問題意識を率直に投げかけることにしました。「採用担当者つぶやきエッセイ」と命名し、月3本をノルマに私が担当することになったのです。エッセイ第1号は“『どんな薬剤師になりたいのか?』~それが私の第一声”で、主に就職活動中の薬学生と若手の現役薬剤師に向けて発信しました。振り返って、この問いかけの反響は、かなり大きかったことを思い出しております。それまで採用実績ゼロであった新卒薬学生でしたが、私の在職中には毎年10数名入社して頂きました。大学就職担当者から驚きの声をかけられたことが、今でも記憶に残っております。
P社退職後は、現役薬剤師や知人・友人からの要請もあって、同じスタンスで呟き続けることにしました。2016年春からは「EDUCOの森」に衣替えして現在に至っております。気がつけば、エッセイをスタートさせて18年以上も経ったことになります。今回が通算588号で、号外編(全28号)を含めますと616号になりました。こうやって呟きながら、新型コロナウィルス(COVID-19感染症)禍の中で気づいたことがあります。前置きは以上にして、その気づいたあることに言及してみたいと思います。
私の小さな学び直し例~学び直しの種は、身近な所にゴロゴロ転がっています
「採用担当者つぶやきエッセイ」は、“継続は力なり”と“積み重ねは力なり”を力水にしながら、11年間も続けたことになります。1回当たりの文字数が2,500字前後として、最終号が410号ですから、100万字も語彙を書き連ねた勘定になりましょうか。時々、過去のエッセイを読み返すことにしております。言葉遣いはもとより、表現方法や文脈の稚拙さと間違いが、かなりの頻度で現れてくるからです。読み返すことは、語彙や表現力を学び直すことにつながり、常にブラッシュアップを心がけるようになりました。そして、この様な学び直しを通して、成長度合いを実感する機会に出会い、アレコレ呟くことを自然体で楽しんでいるのだと思います。それでは、本題に入りましょう。
最初の5年間は、途切らせることなく200号目指して呟くことを目標にしました。“何とかなるだろう”精神9割でスタートしましたが、ノルマと課した月3号のペースを維持することは至難に近い業でした。200号(2010年7月)前後までは何とか持ち堪えましたが、その前後からペースを保つことがしんどくなってきたのです。その時に思い知らされたことがあります。それは、私自身の心構えの甘さと気負い過ぎが要因と思われる息切れでした。勢いに任せて、高を括っていたのでしょう。一方、そのような状況ではありましたが、私の問題意識の泉は、涸れることなくコンコンと湧き出てくるのです。そこで、気持ちを整えて、私の考える自己啓発・相互啓発・人財育成の着眼点を、生き方の原点となるライフフィロソフィー点検の着眼点を、繰り返し思いっきりぶっかけて問いかけることを主目的として、湧き出る問題意識を書き貯めることにしました。一時集中して書き貯めることで、精神的余裕を生み出そうとしたのです。同時に、この呟きを生涯のライフワークにすると決めました。ライフフィロソフィーの点検は、この世に別れを告げるまで続く旅だからです。自己啓発・相互啓発・人財育成の旅には、終着駅が存在しないからです。
それから5年後の春(370号を過ぎた辺り)、タイトルを「EDUCOの森」と改名して、自分自身を看脚下する材の提供を意識しながら、日々の気づきや感じた思いを率直に種蒔きすることにしました。そう考えた理由の一つは、もう一人の私から“そう言うあなたはどうなのよ。あなたには、問題提起する資格がありますか?”と、時々、優しく逆質問させられることがあったからです。そこで、自戒の意味を込めながら、心を鎮めて問いかけ続けるための呟き指針を作成しました。一つ目の指針は、改めて無知の知を自覚して向き合うことです。もう一つの指針は、“向き合うとはどうすることなのか?”という問いかけに対するシンプルな回答になります。それは、一にも二にも謙虚に学ぶことです。以来、この二つの指針を心に刻んで、根を詰めることなく生涯学習を楽しんでおります。
そのような状況下で、2年ほど前に気づいたことがあります。この二つの指針が、私自身の小さな学び直しの処方箋になっているということです。さらに、これまでの仕事人生を振り返ってみれば、目の前の課題解決のために、一から学び直したことが何度もあったことを思い出しました。教材作成も含めた新教育体系の企画・運営、新人事評価制度の策定・導入、新会社への転籍実施など、その時点で持ち合わせている能力では太刀打ちできない課題ばかりでしたから、会社からの支援を得ながら、いくつかの外部研修に出向きました。いくつもの書籍を読み漁りました。また、プロジェクトメンバーで切磋琢磨しながら対応策を議論しました。まさしく、最近盛んに奨励されているリスキリングを実践していたように思います。
もう一つ思い出したことがあります。30年前、“経営環境の変化に即応するためにはアンラーニング(Unlearning)しなさい”ということを、事あるごとに言われ続けたことです。バブル経済が崩壊した時期に重なります。アンラーニングとは、これまでの常識や知識を捨てて新たに学び直すことです。まさに、今で言うリスキリングのことだと思います。先ほど紹介した教材作成も含めた新教育体系の企画・運営、新人事評価制度策定、新会社への転籍実施は、アンラーニングの世界で一から学び直しました。今でも、その癖は根付いているのでしょう。いずれにしても、学び直しの種は、身近な所にゴロゴロ転がっています。後は、問題意識を高めて学び直しを実践するかどうかだけの問題ではないでしょうか。常に言い続けております“決めたなら、後はやるかやらないかだけの問題”なのです。
EDUCOいわて・学び塾主宰/薬剤師 井上 和裕(2023.8.30記)
【参考】エッセイ118回:ようこそ(WELCOME)EDUCOの森へ(2016.4.27記)/エッセイ175回:これからも、無知の知を認めて本質を追求し続ける(2019.1.3記)/エッセイ205回:“無知の知”と“能力の多機能化”(2020.6.12記)/エッセイ279回:あなたに任せておけば大丈夫 ~ 能力が実力となって、はじめて“あてにされる存在”になる(2023.4.5記)