エッセイ283:合宿のすすめ ~ 合宿研修イイネ!(2-1)

投稿日:2023年7月20日

 前回のエッセイ282回では、合宿研修の意義と有用性に言及し、積極的に企画実施することを推奨しました。今回は、推奨する根拠として、私の企画運営した薬学部卒新入社員導入研修受講者の声を紹介したいと思います。12名が受講した2週間の合宿研修での所感から抜粋しました。

 その当時、薬剤師国家試験合格者の発表時期は、研修前半の4月初旬でした。発表当日は、誰もが朝から気が落ち着きません。全員合格であれば良いのですが、残念ながら不合格者が出る場合もあります。覚悟していることではありますが、研修の運営と不合格者のフォローの同時並行は、当たり前の任務として淡々と進めなければなりません。本人たちは、受験後に自己採点しております。合格ライン以下であれば、半ば合格を諦めているでしょう。しかし、廃点問題が出る可能性もありますから、一縷の望みを抱いているかもしれません。いずれにしても、国試の合否に関わらず合宿生活を送ることになります。耐えながら学んでいる不合格者の健気な姿に対して、“結果は謙虚に受け容れた上で、一年後の合格に向けて乗り越えることが、将来の大きな財産になる。長い人生にとって、一年間は、ごくごく短い時間の出来事なんだから… ”と励ますことを怠りませんでした。また、大多数の合格者に対しては、“これまで通りの自然体で接しなさい”と伝えた記憶が残っております。合否を問わず、このような体験を経て、人としての心根がシッカリ根付くことを願う一心で語りかけました。10数年前からは、合格発表日程が3月に前倒しされました。前述のような光景は、遠い昔話になりつつあります。その時の悩ましい苦慮を思い出しながら、合宿研修のアレコレを呟いております。今回は、“合宿のすすめ”シリーズの第二便になります。合宿研修の受講者の感想から、合宿の意義が実感できると思います。

合宿のすすめ ~ 合宿研修イイネ!(2-1)

 先ず、Sさんの声です。前年薬剤師国家試験不合格だったSさんは、入社を辞退して独学で再チャレンジしました。試行錯誤して合格を勝ち取り、改めて入社してくれたのです。

「自分の頭で考える」。研修では、この言葉をよく聞いたように思います。自分の頭で考えることが出来なければ、自己責任意識を持つことは出来ないし、セルフマネジメントなんて出来るはずもありません。振り返ってみると、この研修を通じて「自分の頭で考える」力は、かなり向上したように思います。グループ討議をはじめ、2分間スピーチ、所感作成、MY新聞などは、自分の考えを自分の言葉で述べる訓練となっていたのだと、今、実感しています。また、服装や言葉遣いなどのビジネスマナー、報連相やニッコリテキパキハイオアシス、PDCAサイクル、6W3Hなど、社会人の基礎となるべきものを、徹底的に学びました。この研修がいかに大事であったのか、これから心の底から実感することとなるでしょう。「人は考えた通りの人間になる」。これも研修で学んだことです。患者さんを満足させることが出来る薬剤師になるのだ、と決意を新たにしました。最後に一つ。それは「研修がとても楽しかった」ということ。これは「すごい」と思いました。なぜなら「楽しめた=興味を持ち集中していた」ということだからです。学んだことがストーリーのように繋がりを持ち、一歩一歩ステップを登るような研修を作りあげた井上部長。本当に有難うございました。「あいつも一人前の薬剤師になったよなあ」、そう言われることが出来るように、日々勉強し続けていきます。

 “心を耕す”というのが、私の企画運営する研修のキーワードの一つです。また、心構えの土台となる“人は一人では生きていけない。相見互いなのだ”という文言を繰り返し投げかけました。Bさんは、それらのキーワードの大切さを心に刻みながらコメントしてくれました。

この研修に参加して、心を耕すことが出来ました。今までの学生生活では学ぶことが出来なかったことを学びました。本来、人が勉強するべきことではないか、と思うことでした。それは、“人”についてです。人間は生きていく中で、必ず人と関わりをもって生きていきます。心に残る言葉がありました。「人は一人では生きていけない」「何もせずに生きていくことは苦痛です」「やれることを、やるかやらないか、ただそれだけ」などです。これらに共通していることは、人間の内側にあるもの、「心」なのです。いかに「心」を変化させていくか、この2週間は心の勉強でもありました。心を耕すことで、自然と行動として顕れてくると思います。

 “中身の濃い、あっという間の2週間 … ”は、全員が実感したようです。UさんとKさんは、そのことに触れてくれました。

とても内容の濃い2週間で、あっという間に過ぎてしまった気がします。オリエンテーションに始まり、就業規程・・・と、色々なカリキュラムが一つひとつ進むにつれて、新しい視点や考え方の種が蒔かれているような感覚がありました。また、自分なりに最善を尽くそうと、毎日、試行錯誤し体当たりで、研修に取り組んでいたような気がします。研修期間中、会話をすることや気持ちを伝えることの大切さも学び、そう実感しました。新入社員同士の会話の時間が、とても楽しかったです。また、失敗した時には、声をかけてくれたり、励ましてもらったり、支えられました。知識はもちろんなのですが、そこには人間性を伸ばす大事なヒントがありました。一日を終える毎に書く所感も、自分と向き合い自分を見つめ直す良い機会となりました。今回の研修から、「薬剤師」というのは、肩書きではなく、私自身の全てを持って滲み出るものなのではないか、と思いました。薬剤師は、リンゴの皮の部分ではなく、果肉であり果汁であるべきだと考えます。

1日、あっという間に終ってしまうので、2週間がとても早く感じました。これだけ密度の濃い毎日を過ごした経験は、もしかすると初めてかもしれません。これらのことを学ぶに当たり、ずっと頭をフル回転させて考えていました。その「考える」ことが重要なのだと思います。言葉の意味を知ること、そして、何故どうしてと疑問を持ち、理由を考えることが大切だということを学びました。それにより、知識をただ習得するよりも、さらに深い理解を生み、今まで見えてこなかったものが見えてきたように思います。  (次回に続く)

   EDUCOいわて・学び塾主宰 井上 和裕(2023.6.8記)

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