東京オリンピックでは、柔道の阿部兄妹が同日(2021年7月25日)金メダルを獲りました。女子52㎏級においてアマンディーヌ・プシャール選手(フランス)との死闘を征した阿部詩選手のコメントを、今でも忘れることが出来ません。プシャール選手が阿部選手の因縁の相手と言われる所以は、国際大会デビュー以来続けてきた対外国人選手の連勝記録を48でストップさせられたことにあります。得意技袖釣込腰を徹底的に研究されたことで、詩選手は自分の技を繰り出すことが出来ず、プシャール選手の得意技肩車で負けてしまいました。それからは、プシャール対策として、嫌いな寝技の稽古を積み重ねたそうです。すごく辛い稽古のようでしたが、“嫌いなことを積極的にやらないと、絶対に上にはあがれない”と覚悟を決めてのチャレンジでした。決勝戦では、延長の末、稽古を重ねた寝技(崩れけさ固め)で一本勝ちしたのです。“この大会だけを目指して日々、努力してきました。やっと努力が報われました”という言葉を残しています。
昨年の東京夏季オリパラと今年の北京冬季オリパラでの選手たちのインタビューで一番心に残っているのが、支えてくれた方々への強い感謝の思いです。家族、指導してくれたコーチ・スタッフ、ライバル、仲間、友人、恩師、所属企業、見ず知らずの応援してくれた方々などなど……。表現は様々ですが、だからこそ一人ひとりの個性ある言い方と文言が印象深かったです。30数年間、私は六つの会社で人材育成の仕事に携わってきました。どの会社においても、“感謝の思いを持ち続けることの大切さ”を何度も問いかけ、“自分の言葉で、直接口に出して感謝を伝えて欲しい”と、繰り返し語りかけております。今回のエッセイは、そんな私のある思いを紹介させて頂きます。
あなたには、協力者・支援者・忠告者がいらっしゃいますか?
今回のテーマを取りあげようとしたきっかけがもう一つあります。それは、2000年3月から約5年半放映された「プロジェクトX~挑戦者たち」(NHK総合テレビ)が、4Kリストア版としてBSプレミアムで再放送されたことです。今年1月2日(日)に気づいて、早速録画し始めました。20年前に夢中で見とれたいくつものプロジェクトXを見直して、当時とは一味以上も違う胸の高まりを覚えたのです。そして、アスリートたちと挑戦者たちの感慨深い思いの共通点に、私の心は動かされました。それは、希薄になりつつあるように感じている、共に歩んだ仲間や支えてくれた方々への感謝の思いです。さらに、心から発する文言に私の想像力を働かせてみると、何か共通する本質的なものを感じ始めてきました。それが、皆さんにも考えて頂きたい着眼点になります。以下、私の問題意識を呟いてみましょう。
意義ある生き方、納得した生き方、夢中になって全力投球する生き方をするためには、身近な協力者(コラボレーター)・支援者(サポーター)・忠告者(アドバイザー)の存在が必要だということです。30数年間、師匠と呼べるような人の必要性を提案してきました。例えば、ファンとして応援してくれる人、気にかけてくれる人、キチンと聴いてくれる人、励ましてくれる人、指導してくれる人、叱ってくれる人、率直に議論出来る人、切磋琢磨してくれる人、ハッキリと忠告してくれる人などをさします。このような方々の存在は、最近よく耳にします持続可能な取組みを促進する要因なのだと思います。一方で、私が今まで関わってきた人の中には、協力者・支援者・忠告者に恵まれない人もいらっしゃいました。感謝の気持ちが乏しい人、自分勝手で他律要因を問題にする人、傲慢で批判に終始する人、他人への迷惑を顧みない人などでしょうか。
感謝の思いは、“多くの人の支えがあって、今の自分がある”、“お蔭様です”という心の底からの認識であり、“人は一人では生きていけません。だから自分を大事にし、他人も大事にします”という生き方が日々の考動(思考&行動)の根源となっているから、自然に発せられるのです。感謝の気持ちを忘れない人には、協力者・支援者・忠告者がどこかで現れてくるのだと思います。そう考えながら、私自身の協力者・支援者・忠告者の有無を自問自答しております。
人財開発部/EDUCOいわて・学び塾主宰 井上 和裕(2022.10.7記)
【参考】エッセイ153回:身近な仲間の日々の努力にこそ光を(2017.10.2記)