天職とまでいかなくても、これが私にとって適職と自認できる職種は、与えられた仕事や目の前の仕事を、失敗しながらも、誠実に、精一杯、一所懸命やり抜く、試行錯誤を積み重ねていくうちに、ある日突然のように現れる気がします。ちなみに私の場合は、40歳代前半あたりから自覚し始めたように思います。突然現れるという言い方をしましたが、その前兆として“この仕事を生涯追究の友とする”という決意をした記憶があります。決意したことで、越えなければならない眼前の壁の高さが、私自身の能力を遥かに超えていたとしても取組み続けるという意欲が弱まることはなくなりました。それまで安全第一主義でチャレンジ精神が希薄な取組み姿勢が、明らかに反転して積極攻勢を仕掛けるようになりました。投げ出さないで試行錯誤を繰り返していくうちに、その仕事が徐々に好きになってきたのです。そのような機会が増えてきて、“これが適職なのか”と感じ始めたように思います。そう感じ入ってから、30年以上も経ちました。
今回のエッセイは、ますます置き去りにされているような気がする成長に必須の泥臭い努力に関する私見を述べたいと思います。
倦まず弛まず本気になってコツコツ努力を積み重ねる
75年間の人生を振り返って、つくづく感じている経験則を中心に取りあげてみます。ただし、気をつけたいのは、経験則だけに拘らないことですね。知らないことが山ほどありますから、狭い視野の中で考えたくありません。そうは言っても、あくまでも個人的見解ですから、考え方の一つと受けとめた上で、さらに努力するということに関して深掘りして考えるキッカケになれば嬉しく思います。
先ず、本気にならなければ本物レベルには行き着かないとつくづく感じております。何事も本気で取り組むことで、目標に立ち向かう心が培われるのです。本気だから一所懸命になれるのではないでしょうか。本気になるにはかなりの覚悟が要ります。しかし、本気で本物レベルの峠を越えないと人生の奥深さを味わえないような気がするのです。また、本気にならないと、壁にぶつかった時に諦めの気持ちが強くなり、そこで努力をストップしてしまったこともありました。私のような不器用人間が何かのスキルを身につけるまでには、かなりの時間を要します。ある時期から、時間がかかっても、“本気になって、倦まず弛まずコツコツと繰り返して努力するしか道が無い”と感じるようになりました。本気かどうかの判断基準として、私が意識していたことの一つに凡事徹底があります。今でも自信を持って実践できていることは、かなりの時間を使って凡事徹底したからこそ身についた能力になります。そうやって積み重ねたことへのご褒美が、“30数年の間、大好きな現在の仕事を志事として続けていられること”だと感じています。
過去の仕事を振り返ってみると、私の成長に影響を及ぼした取組み課題に共通するファクターを見い出すことができます。取組み課題の多くは、その時点の実力では実現不可能で手が届きそうにないものでした。ですから、実現に不可欠な自己啓発課題(知識・技能・考え方・ノウハウ等)を探し出して特定し、がむしゃらに勉強したと記憶しております。その甲斐あってか、取組んだ課題の多くは、陽の目を見ることができました。30才代半ばからの10数年間は、そんな日々の繰り返しでした。成功体験が積み重なるにつれて、心的余裕が生まれてくるものです。そんな矢先のある時、今回申しあげたい二つ目の視点が見えてきました。
幾つもの課題に取組む過程で気づいたのが、背伸びしないと見えないことが多いということです。そして、背伸びして挑戦するから自分の身の丈も伸びているという実感です。かなり難しいと思える課題に挑戦した時に、そう感じたことが頭の片隅に残っております。挑戦するにあたっては、実行計画を念入りに練り込みます。別の言い方をすれば、さほどの努力なしに楽に達成できるような現状維持型の目標や課題への取組みでは、実感できる能力開発には至らないということが言えるでしょう。容易に達成できる目標ばかりを目指していると、遣りがいや生きがいを感じる度合いが低くなります。だからと言って“何でも背伸びしなさい。目標は高ければ高い方が良い”と提起しているのではありません。改めて確認したいと思います。“背伸びしないと見えないことの方が多い”ということを前提として、目の前の目標や課題と向き合いたいのです。当たり前のスタンスとして、背伸びを楽しみましょう。“現状維持型の姿勢では成長の道に辿り着くことはできない”と、腹を括って対処することを強調したいのです。私が30年以上も人材育成の仕事に携わっていられるのは、背伸びした努力をコツコツ積み重ねた結果だと密かに自己満足しております。スモールサクセスストーリーをコツコツ積み上げた証しだと自己確信しております。前回のエッセイ255回で触れたキーワード“限界の先に成長がある”ことを、一再ならず実感したことが何度もありました。
最後に三つ目の視点を考えてみましょう。40年ほど前になります。後輩の指導やチームリーダーを任されてから強く感じたことがありました。社会人になって10年前後ですから、30才前半だったと記憶しております。視野を拡げて周りを見渡せるようになった時期でもあります。それは、仕事は自分の好みで取捨選択できないということです。業種や企業規模によって感じ方は異なりましょうが、嫌いな仕事・苦手な仕事・面白くない仕事・やりたくない仕事・気の向かない仕事など、主観的なマイナス感覚の仕事(或いは職種)に出会うこともあるでしょう。しかし、どのような仕事であろうとも、それらの多くは組織運営に不可欠な仕事で、手抜きをすれば組織全体の生産性を低下させてしまいます。仕事の流れが滞ってしまいます。ですから、組織全体の仕事の流れと意味を理解しておくことは、ビジネスパーソンの基本のキと言えるでしょう。
一方で、当初は嫌いな仕事、不得手でやる気の起きない仕事であっても、やり続けてその仕事の本質や意義が分かってくると、それまで嫌いであった仕事が面白くなること、或いは、遣りがいへと変わることもあります。年令を重ねて客観的に俯瞰すれば、それが人生の一面を表していると思えるのです。これらの実体験から、組織人として生きていく場合には、仕事は好き嫌いで取捨選択できないということが大前提であることを理解できるようになりました。何に向いているかは、体験して初めて分かることが殆んどではないでしょうか。いくつかの職種を経験することで、自分に適した職種を意思決定する選択肢が拡がってくると思います。
今回の三つの視点から、“成果・成長に近道はない”ことが見えてきます。やはり、倦まず弛まず本気になってコツコツ努力を積み重ねて、自分自身の能力を熟成させることです。“根気”・“継続”・“積み重ね”の掛け算で、成功するまで行動し続けましょう。エッセイ256回は、この2年間でつくづく感じたことを呟きました。
成果・成長=根気×継続×積み重ね
人財開発部 井上 和裕(2022.4.19記)
【参考】エッセイ142回:成長への道筋は、いかにして行動の継続を維持し続けるか(2017.4.24記)/エッセイ141回:私が心がけている点火剤の正体は?(2017.4.5記)