今の世の中、“〇〇させて頂きます”という敬語が、あちこちから聞こえてきます。テレビに顔を出す機会の多い方々の常套句のようです。謙虚で低姿勢の表現方法の一つと言う位置づけなのかもしれません。何年も前から耳にしてきましたが、以前から微かな違和感を覚えておりました。そこで、「させて頂く」の意味と使い方を調べてみました。
「させて頂く」は「させてもらう」の謙譲表現で、相手の許しのもとに自分の行為・動作をさせてもらうという意味の言葉だそうです。敬語ですから、目上の方やお客様に対しても使うことができます。正しく使えば、低姿勢な印象を与えるフレーズとして活用できそうです。実は、「させて頂く」が使えるのは、ある条件を満たすことが適切とされています。その条件は、“①第三者や相手から許可を受けている場合”、“②自分が恩恵を受ける場合”の二つであることが分かりました。例えば、“ミーティングの日程を変更させて頂きます”という文章があります。これは予定を変更するには、相手の許可を得て、さらに変更によって、自分自身が恩恵を受けることになることで、正しい使い方といえましょう。さて、不祥事によって辞職に追い込まれた方の“辞表を出させて頂きました”の一言を、どう思われますか。低姿勢のつもりでしょうが、上記2条件を満たしているかどうか、考えさせられました。今回のエッセイは、アフターコロナの行動指針にしたい言葉に関することをつぶやきます。
文言のキセルを見直そう
皆さん、キセルをご存知でしょうか?見かけることが無くなりましたから、ご存知ない方が殆どではないかと想像しております。刻みたばこの喫煙道具のことです。キセルは吸い口と雁首(刻みたばこを詰めるところ)が金属で、中央は竹や木でできています。両端が金(属)でできていることにかけて、鉄道の不正乗車をキセル乗車と言うそうです。
私が気になっているのは、対話のあり様に関してです。信頼と安心のコミュニケーション実現には、もっともっと対話のあり方を見直す必要があると感じています。新型コロナウイルス禍で、改めて気づかされたことでもあります。それは、肝心な文言のいくつもがキセル状態になっていませんか、という問題意識です。そこで一言、“文言のキセル状態を見直してみませんか。そして、コミュニケーションはどうあれば良いのか、を考えてみませんか”と提案したいのです。つまり、結論や評価は言っても、その理由・根拠、そこに至る絡まり合った経緯の説明が抜けていることを、意識しながら対話したいのです。文言のキセル状態から抜け出さなければ、共有と共感・共鳴のコミュニケーションに到達しません。さらに、頻度も含めて対話のあり方を見直していこうという提言になります。今回は、私から三つの提案をしたいと思います。実は、その全てが、これまでのE森で取りあげたテーマであり、キセル状態に陥らないよう、より詳しい内容(理由・根拠、経緯など)で仕上げております。
一つ目は、これまでも何度か申しあげました真面目な雑談会(ノーサイドミーティング)の日常化です。昔風の言い方であれば、井戸端会議を可能な限り日々始終やることです。二つ目は、信頼と安心を実現するコミュニケーションの前提条件を明らかにすることです。明らかにしたら、実践し続けることです。もう一つは、コミュニケーションのあり方として、グルグル回りの応答の対話をお奨めします。そこから、共感・共鳴につながる対話の芽が育まれ、未来が開かれると信じています。私の提言に賛同される方は、これまでのエッセイ(下記掲載)に当たってみてください。新型コロナウイルス禍での実践は難しいでしょうから、アフターコロナを意識して文言のキセル状態を見直してくれたら嬉しく思います。
井上 和裕(2021.6.1記)
【参考】①エッセイ210回:ノーサイドミーティング(真面目な雑談会)日常化のすすめ(2020.2.16記)/②エッセイ162回:信頼と安心のコミュニケーション実現のための前提条件(2018.4.15記)/③エッセイ203回:グルグル回りの応答の対話とアイコンタクト(2019.11.16記)