人は誰でも、さらに伸ばしたい長所・美点、改善したい短所・欠点を併せ持っています。その具体的な中身は十人十色であることはもちろんですが、状況によって長所と短所が反転することもあります。“禍を転じて福と為す”或いは“失敗は成功の因”的なことだってあるでしょう。生活環境や仕事環境、そして対人関係も、だから味わい深さ、不思議な趣き、そして面白味を感じることがあります。一度や二度の失敗で落ち込むことはないし、クヨクヨなんて不要と思うこともありました。
課題達成の計画案、問題を解決する時の対策案にも、同じことが言えるのではないのでしょうか。知恵を出し合って決めた対案には、メリットとデメリットがあります。ですから、列挙した対案を比較選択する場合、メリットとデメリットを真剣に吟味して、それらを一つひとつ検討したうえで最終決定することが、実施結果を左右することになります。
そのメリットとデメリットは、経営環境の変化で変わってきます。定例的に継続開催される行事や取組みの場合、実施することが目的化されてしまい、メリットが見失われるだけではなく、デメリットが表に出てきても見過ごされてしまうことがあります。どんな仕事でも、マンネリ化の可能性を秘めていますが、気づき難いだけなのです。そのような危惧を感じながら、平成30年度の新卒新入社員研修を見直しました。今回のE森は、その経緯と着眼点を取りあげてみましょう。
人財育成は10年先(長期的視点)を見据えて誂える志事
一昨年の立秋過ぎになります。平成30年3月卒業予定の薬学生2名が入社することになりました。30年以上も新入社員教育を企画し運営してきましたが、教材はもとより、あり方や進め方も含めて、それまでのやり方を見直す決意をしたのです。見直すというよりも、ゼロベースから新設計図を描くという感覚でした。現状に対する不満や問題意識がそうさせたというよりも、マンネリ化したと思える私自身の行動姿勢が理由だったかもしれません。
思い立ったら速攻屋の私は、着眼大局という視点を忘れずに、それまで実施してきた新入社員教育のメリットとデメリットを、つぶさに書き表しました。過去30年間の仕事経験や薬学生とのプロジェクト活動で感じたことをもとに、育成課題の兆候や教育ニーズの把握に努めました。その上で、“人材育成の仕組みと教育ニーズとの適合性はどうか?”、“目的・目標が明確か、そして適格か?”、“客観的なデメリットは何か?”など、それまでの経験で得たものから離れて、本質に向かって掘り下げてみたのです。入社後の日常業務における育成のあり方についても、作りあげる問題という視点で考え直しました。その過程で参考になったのが、2013年(平成25年)に11名の後輩から頂いたレポート『人生の先輩から見知らぬ後輩への伝言』です。そのレポートは、現在も関わりを持っている50才前半から30才前後までの現役ビジネスパーソンから新社会人への貴重なアドバイス集なのです。
私が目指しているのは、目先のことに囚われないで、長期的視点に立った人財育成プログラムを誂えることです。難題ですが、10年先、20年先を見据えたカリキュラムを編成することです。“問題意識を高める”、“掘り下げて考える”、“意思決定したことを公言し伝える”という、問題解決の思考プロセスの修得を進め方の中心に据えて企画し運営することです。“人間としての成長”を育成目標のトップに掲げて、相手の立場に立つことの難しさ、信頼と安心のコミュニケーション実現の難しさを体得する機会を、可能な限り組み入れることも意識しました。日程とカリキュラムを確定するまで、延べ数週間以上かけて土台作りに腐心したと思います。その過程で考えた運営指針も紹介しましょう。
「内発的自己動機づけの持続・継続・スパイラルアップ」、「一人ひとりが考える。考えたことを発表する。熟議して意思決定する。決めたら誠実に実行する。行動事例をコツコツ地道に積み重ねる」、「応答の対話で、理解&共感&共鳴へと紡ぐ」、「人財育成プロセスのストーリー化」、「自主運営、自力解決」、「成長=根気×積み重ね×継続の具現化」「復習と振り返りの充実」、……。これらの指針の主語は、私であり受講対象者になります。
抜本的見直しの志事を通して、何処に目をつけるのかという着眼点(視点)、そして理念を具現化できる業務遂行能力の重要性を感じました。“だから人財育成なのだ”、そして“人財育成はエンドレスなのだ”ということを、改めて認めさせられた気がします。
(2019.1.17記)