平成31年4月入社の新卒新入社員を対象とした採用活動が本格化しております。その一環としてのインターンシップも、売り手市場が顕著になり始めた数年以上前から、全ての業種で過熱化しているように感じます。私が人材開発部長を務めます中田薬局(本店:岩手県釜石市)は、釜石市内に5店舗の小さな企業だからでしょうか、大学主催の就職セミナーでは、学生の皆さんになかなかお越し頂けないのが実情です。あれこれ手を尽くしているのですが、残念ながら成果に結びつきません。薬学生の採用業務に携わって20年近くになりますが、これだけ薬学生の心に入っていけなかったことはなかったと思います。これが厳しい現実なのでしょう。
数年前から、採用のあり方を再構築してみました。薬剤師の卵である薬学生に対して、東日本大震災に関連する啓発活動とインターンシップを組み合わせて、小企業だからこそ実践できるやり方をオンリーワン的視点で企画することにしたのです。試行錯誤の結果「なかたシップ」(中田丸=中田城)と名付けて、こうありたいと思い描いている本質的インターンシップを立ち上げました。二年前のことです。採用活動は手段であって、これからの薬剤師のあり方を共に考える機会の提供を第一義として、薬局薬剤師の可能性の追究をメインにした中身にしております。
今回のエッセイは、昨年度3回目のなかたシップを紹介したいと思います。
WELLCOME なかたシップへ
一昨年4月にスタートさせました“なかたシップ”ですが、昨年度は3回ほど開催いたしました。在宅同行見学、特養老人ホームカンファレンス見学、他職種従事者の講義、参加学生の学事日程など、自社以外の複数箇所との調整が必要なことから、最終日程が確定するまで時間を要することになります。また、首都圏薬学生の参加が多いこともあって、被災地見学の時間確保にも頭を悩めることがありました。このような事情もあって、年間開催数は数回程度が限度になります。
先ず、平成29年度3回目の「なかたシップ」の主なスケジュールを紹介しましょう。9月25日(月)~28日(水)の日程で、首都圏から同じキャンパスで学んでいる2名と弊社で実務実習中の薬学生1名(全員が5年生)に参加頂きました。
初 日:平成29年9月25日(月)
・被災地見学:釜石市鵜住居地区・両石地区、大槌町旧市街地・医療機関
・初日の振り返り
二日目:平成29年9月26日(火)
・オリエンテーション
・これからの薬剤師のあり方、調剤薬局の方向性を考える
*東日本大震災の釜石方式、チームかまいしによる地域包括ケア、他職種連携の実際など
・実務担当者(薬剤師)による処方医との連携事例、介護施設との連携事例の紹介
・特別養護老人ホームでの全職種参加のカンファレンス見学
・介護福祉士&ケアマネジャーによる薬科介護連携事例研究、介護福祉士からの薬剤師への期待
・在宅看護師による薬剤師・看護師の連携事例研究、看護師からの薬剤師への期待
・二日目の振り返り、まとめ、レポート作成
・現役薬剤師との懇談会
三日目:平成29年9月27日(水)
・オリエンテーション
・介護施設見学
・患者様宅在宅医療同行見学(薬剤師2名に同行、全4患者様宅)
・三日間の振り返り、まとめ、質疑応答、レポート作成、感想発表
患者様を始めとして、介護施設、特別養護老人ホームのご協力を賜りました。また、在宅医療に熱心な介護福祉士、看護師からは、貴重な体験談と薬剤師に対する期待や思いを拝聴できました。
患者様宅同行(2名の薬剤師に同行、全4件)では、薬学生が描いていた以上の活動実態を目の当たりにして、薬局薬剤師のイメージが様変わりしたという実感を抱いたようです。感想の詳細については、機会を改めて取りあげたいと思います。
二日目のオリエンテーションでは、将来を考えるための本質的着眼点について、問題提起を中心に私見を投げかけております。三日間のこの体験を、三期目の実務実習の中で活かしてくれることを強調しました。その講義録は、下記の通りです。その一部を紹介したいと思います。
おはようございます。ようこそなかたシップへ!
中田薬局が目指している今年度3回目のインターンシップに、今回は3名の皆さんにご参加頂きました。先ずは、お礼の言葉を申しあげたいと思います。誠に有難うございます。
スタートにあたりまして、30分間のオリエンテーションを進めさせて頂きます。人材開発部の井上が進行役を務めます。宜しくお願い申しあげます。人事と人材育成が主な仕事です。 *簡単に自己紹介(OHP)
このオリエンでは、なかたシップのねらい、スケジュールを中心に進めて参ります。最後に、皆さんの自己紹介もお願いしたいと考えております。
先ず、わざわざ「なかたシップ」と命名した理由から紹介させてください。
一にも二にも、現在のインターンシップのあり方に対する“大いなる不満”と“私達が思い描いている理想のインターンシップの実現”に尽きます。多くの会社の似たり寄ったりの内容、本質が見えてこない内容に対して、だから薬剤師の存在意義が認知されない、存在価値が上がらないというちょっとした憤りのような思いが出発点でした。
そこで、「なかたシップ」(中田丸=中田城)と命名し、本質追究を旗印として掲げて、あるべきインターンシップを立ち上げた次第です。まだまだ未熟で、発展途上ですが、そんな思いを受け止めて臨んでくれたら嬉しく思います。
その志を基にしたなかたシップのねらい(参加者向けの目的)を申しあげます。
一つは、正に就職活動(就活)の本質を考えて頂くこと、つまり自分自身の将来を考えて頂くことです。就活というのは、企業研究や仕事研究も含みますが、一番重要なことは、「仕事の本質(何のために仕事をするのか)を考えて、その重さを覚悟すること」です。その上で、「どのような人間になりたいのか、どのような薬剤師を目指すのか、今持っている能力で意思決定すること」です。ここが大きなポイントです。これを疎かにした人の多くが、社会に出てから意味のない転職を繰り返すことになります。(キャリアアップの転職はOK)
二つ目は、難しいテーマになりますが、これからの自分自身の生き方を深耕することです。あなた方のこれからの人生の本質を考えること、それも掘り下げて考えることです。何故このようなことを申しあげるのかというと、30才までには自分の居場所を特定して欲しいからです。“どこの場所で、何をライトワークとして社会貢献するのかを、30才までに決めなさい”ということです。時間が過ぎるのは速い。決められない人は、当てにされない薬剤師で終わって
しまう可能性が高いと思います。(私見)
この二つのねらいを土台(プラットフォーム)として、なかたシップを企画しました。そして、これらのねらい実現のための内容が、事前配布いたしました“なかたシップ3スケジュール”になります。(内容説明:時間帯、予定カリキュラム、場所、担当など)
毎日の振り返りでは、簡単なレポートをお願いする予定です。皆さんの声を参考にして、なかたシップをより意義のある形にレベルアップしたいのです。ご協力のほど、宜しくお願い申しあげます。それ以外の重要な着眼点は、その都度申しあげたいと思います。
オリエンテーションの最後は、皆さんの自己紹介をお願いいたします。(氏名、大学名・所属講座・学年、出身地、なかたシップ参加理由、その他)有難うございました。
なかたシップの運営には、時間・費用ともにかなりの負担が生じることも事実です。しかし、参加者の内発的やる気が明らかに高まること、それまで抱いていた薬局薬剤師のイメージが様変わりしたという感想を聴くにつけ、薬剤師の後輩育成という使命感を維持して継続開催する所存です。
(2018.3.16記)