いつの間やら師走が……、そんなことを意識する時期になりました。毎年繰り返される、年の瀬を感じ始める心境になったようです。何事においても、意識することで得られるものがありますから、時節を味わう思考習慣もまんざらではないと思います。今年(平成29年)の強調テーマは、「心構えが変われば言動に表れる。言葉と態度が変わる」でした。押し迫った初冬の今、そのことをあれこれ考えております。
仕事場だけではなく、家庭内、日常の生活空間における全ての言動には、必ず理由があります。日々の多くの言動は、いちいちその理由を語る訳ではなく、暗黙の了解を前提として無意識に表現しているのが実態でしょう。しかし、それが無意識であろうとなかろうと、その言動の一つひとつに強く影響を及ぼしている何かがあるはずです。それを行動理論と名付けて、だから正していく重要性を言い続けてきました。学生の場合、講義であれ実習であれ、その人の行動理論が受講態度に表れていると思います。限られた範囲ではありますが、毎年接する学生との交流で、そのように感じる時があるのです。
行動理論という表現は分かり難いので、心構え、考え方、思考習慣などと言い換えて使っています。新社会人に対して、行動理論を正して躾化したい言動例として、“入社1年間で定着させたい行動習慣”を提唱し続けて、もう30年近くになるでしょうか。10年ほど前からは、提唱し始めた頃よりも一層強く、それらの行動習慣の重要性を感じております。本音を申せば、大学入学時の一般教養課程の段階から、その重要性を理解し納得させた上で身につけさせたい行動習慣なのです。冷静に看脚下し、長所を伸ばしながら改善点を認めて矯正して欲しいと願っております。
今回から何度かに分けて、私が提唱しております“入社1年間で定着させたい「新・23の行動習慣」”のいくつかを、少しかみ砕きながら呟いてみたいと思います。
入社1年間で定着させたい「新・23の行動習慣」その経緯
新卒新入社員の初年度年間育成目標としてスタートさせたのは、確か平成元年だったと記憶しております。その時は「20の行動習慣」でした。数度の改訂を経て、4年前に「新・23の行動習慣」として現在に至っております。今回は「新・23の行動習慣」の全項目と“何故提唱し続けているのか!”の理由を披露したいと思います。私自身の経験則、教育担当という仕事を通して私が感じたことに基づいていますから、項目も提唱理由も賛否両論あるでしょう。人材育成という難題に関わりを持つ方々と議論したいテーマですね。
先ず、その理由や経緯を振り返ってみましょう。
合併企業の専任教育担当として、初めて新卒新入社員と関わりを持った1年間(昭和62年度)の様々な出来事が、そのことを考えるきっかけとなりました。基本となる職務遂行能力が、会社内に根付いていないことがはっきりしたからです。特に、どんな職種であろうとも必須の共通専門能力の貧困さでした。このままでは、専門性を要求される仕事、状況に応じて対処しなければならない仕事は、ほとんど消化不良で終わってしまうと確信したほどです。ビジネスパーソン必須の基本的能力要件の修得レベルの差が、そのまま課題解決達成度の差として表面化するのは明らかだと思えたのでした。合併前の各企業では、計画的な人材育成が殆ど行われていませんでした。育成の仕組みもノウハウも持ち合わせていなかった訳ですから、たとえやりたくても実施できない状態だったと思います。そこで取り組んだ課題の一つが、新卒新入社員の年間育成目標を明示すること、さらに明示した目標の達成度を直属上長が定期的にフォローする仕組み作りでした。試行錯誤して考え出したのが、“入社1年間で定着させたい「20の行動習慣」”だったのです。
発足したばかりの教育部でしたから、多くの業務課題を同時並行で仕上げながらの毎日でした。“入社1年間で定着させたい「20の行動習慣」”については、「教育の基本理念(人財育成の着眼点)」(エッセイ122&123回)、「教育活動の基本原則」(エッセイ124&125回)との整合性に留意しながら、行動習慣に関する教材を作成し、定期的フォローのあり方と仕組みを練りあげました。特に、基本理念8(修破離)、基本理念9(知・技・実行)、基本理念10(心を耕す)、基本原則7(風土作り)に鑑みながら、20項目の育成目標(行動習慣と表記)に辿り着いたのです。さらに、入社3年間を基本となる職務遂行能力修得の義務教育期間とし、入社後2か月間の新入社員導入研修後は、毎年2回(3年間で計6回)の集合研修で育成目標をフォローすることにしました。
どのような仕事であれ、必ず目的・目標が存在します。その目的・目標を効果的・効率的に実現するために、多くの会社では役割を分担し合う分業体制をとっていると思います。その体制を組織と呼びます。メンバーの担当する仕事はスポーツの団体競技と同じように、所属する組織の目的・目標を達成するために、メンバー一人ひとりが自分自身の役割を認識し、その役割を完遂し合うことによって進められています。一人きりで仕事を完結するということは、まずあり得ないでしょう。自己完結的と思われる仕事であっても、その仕事は、チーム(会社、組織)全体の中のある部分を担い、全体の活動の中に反映されるのです。その様な状況下では、メンバー個々の仕事に対する姿勢や行動習慣が、周囲の人だけではなく、チーム全体の雰囲気にも影響を及ぼすことになります。そのことは、会社だけではなく、どのような社会においても基本となるモラル(道徳、倫理)が存在することを意味しています。仕事のツールは日進月歩のスピードで進化し、仕事の進め方も急激な変化を遂げていますが、基本的な職務遂行能力やモラルは、時代によってそれほど変わるものではないと思います。不易流行の不易ではないでしょうか。
今までのエッセイでも、何度も問題提起したことがあります。それは、ある時期から基礎教育やモラル的側面が蔑ろにされ始め、気がつけばその歪みがあちこちに生じて現在に至っている、という危機意識です。社会問題となっている各種ハラスメント、メンタルヘルスケア、残業問題などは、モラルを含めた対人関係能力に主原因があると思っています。また、ダイバーシティ、サスティナビリティなどの新たな方向性への対応も、正にモラルのあり方が問われている課題であり、社会人1年生の時からそれらの課題を意識して考える必要性を常に感じております。私たち一人ひとりは、企業人である前に社会の一員なのです。人間は一人では生きていけません。必ず、社会の中で成長していくものなのです。その考え方を大前提とした修得指針を、“入社1年間で定着させたい「20の行動習慣」”と名付けて育成目標にしたのです。以上が、行動習慣に辿り着いた理由であり経緯となります。
入社1年間で定着させたい「新・23の行動習慣」
1.ニッコリ、テキパキ“ハイオアシス”を言う習慣
2.だれかれの区別なく、キチンとした挨拶をする習慣
3.心を込めた自筆のお礼状を出す習慣
4.毎朝自宅で新聞を読む習慣
5.日々目標を持つ習慣
6.目標達成のために6W3Hを動員した計画を立てる習慣
7.実行したことを振り返って、次につながるチェックをする習慣
8.メモ用具を必携し、こまめにメモをとる習慣
9.約束事・約束時刻を厳守する習慣
10.整理・整頓と清掃・清潔を実践する習慣
11.初めてのことでも恐れずチャレンジする習慣
12.何事も、まず肯定的に考える習慣
13.気が向かないことでも、まず実行してみる習慣
14.不明な点はどんなことでも謙虚に教えを乞う習慣
15.指示・命令・依頼を復唱する習慣
16.報告・連絡・相談をこまめに植える習慣
17.結論を先に言う習慣
18.失敗の原因を、まず自分に求める習慣
19.有言実行・言行一致の習慣
20.前向きな人と自分から進んで付き合う習慣
21.美点凝視の習慣
22.健全な判断力(判断基準)を養う習慣
23.親孝行の習慣 (2013.6.15改訂)
次回以降から数回に分けて、いくつかの項目について解説する予定です。
(2017.11.16記)